『ダイ・ハード』の解説を書いた。
今回も解説を書くために必要な部分だけかいつまんで観ればいいかと思っていたが、いつの間にか、気づいたら最初から最後まで全編観てしまっていた。
『ダイ・ハード』には、同じように気づいたら全編観てしまった経験が何度もある。
それだけ色褪せない、本当に面白いと言える数少ない作品ということだろう。
解説では、本作が多くの人に受け入れられた理由として、当時の時代背景の中で、マクレーンのようなブルーカラーの男が活躍するというストーリーが共感を得たのではないかと考察している。
そこではマクレーン中心の解説になってしまったが、ジョン・マクレーンだけが『ダイ・ハード』の魅力ではない。アラン・リックマン演じるハンス・グルーバーもまた映画史に残るキャラクターだ。
よくマクレーンは事件に「巻き込まれた」主人公だと言われるか、『ダイ・ハード』も実際にストーリーを進めているのはハンスの側だ。
ダイ・ハードで脚本を務めたは、ハンスの方を主人公として描いたと言う。
ハンスを演じたアラン・リックマンは惜しまれながらも2016年に亡くなっていゆが、『ダイ・ハード』に出演した時点ですでに42歳。俳優としてはかなり遅咲きの人物だ。
しかし、ブレイク以前からその力量は評価されていた。
そもそもアラン・リックマンが俳優を志し、行動を起こしたのが26歳の時。名門、王立演劇学校のオーディションを受けて奨学生となる。この王立演劇学校はイギリス国内でも最も有名な演劇学校の一つとして知られ、入学できるのは非常に狭き門だ。
リックマンは演劇学校卒業後、俳優の道へと進み、1985年に上演されたロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台、「危険な関係」が大ヒットする。そして、1987年にはブロードウェイも上演され、トニー賞にノミネートされている。
マクレーンがハンスと出会う場面がある。この時ハンスは咄嗟に逃亡した人質になりますのだが、これは当初脚本にはなかった場面だ。
撮影時にアラン・リックマンがアメリカ訛りの英語も話せることが分かり、追加された場面だという。
『ダイ・ハード』は、確かにブルース・ウィリスを世界的なスターに押し上げたが、演技面で評価を得たのはリックマンの方だった。
確かにマクレーンのキャラクターとハンス・グルーバーのキャラクターでは、リックマンのほうが高度な演技を求められることは疑いようがない。
ハンス・グルーバーにはいくつもの側面があり、それらが複雑に絡み合ったキャラクターだからだ。まず、彼にはテロリスト・グループのトップという役割が求められる。
ハンス自体は冷徹な男だが、時には激昂する部下をなだめたり、人質相手に紳士らしく振る舞う必要もある。そして、彼には表向きには同じテロリストの解放を要求する一方で、真の目的はナカトミビルにある6億ドルの無記名債券を狙う泥棒であったりするわけだ。
それに加えて、前述の人質になりすます場面もある。
ちなみに1999年頃からブルース・ウィリスは『シックスセンス』や『キッド』などヒューマンドラマ、非アクション系の作品への出演が目立つようになった低湯が、これは作品自体は大ヒットしたものの。決して、ブルースウィリス自身の評価は高くなかったという苦い結果に起因しているのかもしれない(一方では1998年に公開された『アルマゲドン』など、ジョン・マクレーンのような古臭いカウボーイタイプの男も変わらずに演じているが)。
『ダイ・ハード』監督のジョン・マクティアナンにとってもハンスはお気に入りのキャラクターだったようだ。
再び監督を務めた1995年に公開の『ダイ・ハード3』では、ハンスの兄のサイモン・ピーター・グルーバーが犯人となっている。