2012年に公開された『プロメテウス』、その続編である『エイリアン:コヴェナント』、そして『エイリアン:アウェイクニング』によって『エイリアン』に続く壮大な前日譚三部作は完成するはずだった。
しかし、『エイリアン:コヴェナント』の興行不振によって『エイリアン:アウェイクニング』の企画は中止になる。そして『エイリアン』と『エイリアン2』の間の出来事を描く『エイリアン:ロムルス』が公開された。
だが『プロメテウス』『エイリアン:コヴェナント』『エイリアン:ロムルス』は違った意味で三部作ではないかと個人的には考えている。
2012年に公開された『プロメテウス』では、黒い液体を飲んだエンジニアの体が分解し、太古の地球に無数の生命が誕生するきっかけになったことが描かれている。
それから舞台は西暦2089年の近未来の地球へと移り変わる。考古学者のエリザベス・ショウ博士とチャーリー・ホロウェイ博士はスコットランドである壁画を見つける。それは巨大な人形の生物を多数の人が囲んでいる絵だった。その生物は空を指さしている。その先に何があるのか。他にも遠く離れた複数の場所からの壁画はぴったりと重なり、ある星図を示していることがわかった。
エリザベスはそれをその生物からの招待状ではないかと推測する。そしてその生物を「人類を創造した」という仮説に基づいてエンジニアと名付ける。
そして巨大企業のウェイランド・コーポレーションが巨費を投じて、エンジニアの星LV223を目指すプロジェクトが実行された。
黒い液体の正体
『プロメテウス』の初期の脚本では、エンジニアが飲む黒い液体はディーコンの血であったという。
ディーコンとは、トリロバイトに襲われたエンジニアから生まれたエイリアンに似た生物のこと。エイリアンと同じ二重になった顎を持ち、全く同じではないものの、エイリアンに似た外見を持っている。
ちなみにトリロバイトとは、黒い液体を飲まされたチャーリー・ホロウェイと性交したエリザベス・ショウから生まれた生命体だ。
エンジニアが飲む血がディーコンのものであったとするならば、これは一見矛盾しているように見える。
しかし、よく見るとプロメテウスの序盤で、LV223の壁画にはエイリアンらしき生命体が描かれている。つまり、ディーコンはそもそも人の手を借りずに生み出すことが可能な生物だったのだ。
ではそもそもなぜディーコンを誕生させる必要があったのか?
ディーコンを生み出す理由
生命の源にもなり、また多くの生物を絶滅させることもできる「黒い液体」。
それは宿主、トリロバイト、ディーコンという3つの段階を経てしか生まれないものなのか?あれほどの科学力を持つエンジニアにしては随分と面倒な道を辿るものだと感じるが、ここでも一つの仮説を述べよう。
ディーコンそのものが副産物ではないのか?ということだ。ディーコンには他の隠された目的があったのではないか。
ちなみにこのディーコンはで副産物を意味するが名前の元になっているという。
では、主産物は何だろうか。ここで一つ注目したいのはエンジニアは生殖能力を失っている。もしくは失いつつあるということだ。エンジニアの寿命は不明だが、このままでは彼らはいずれは滅びゆく運命が決められている。
これは完全な私見だが、エンジニアは自らの失われた生殖能力を、黒い液体を開発することで取り戻そうとしたのではないか。いうまでもなく、生殖は命の根源である。
劇中で、エンジニアは黒い液体を生物兵器として、他の惑星を滅ぼしてきた可能性が語られている。
果たして、具体的に黒い液体はどのようにして他の生命体を殺していくのだろうか。
エンジニアはそれを浴びただけで、猛毒ガスを吸い込んだかのようにバタバタと倒れていった。
だが、『プロメテウス』では、黒い液体を飲んだホロウェイは、しばらくの間は何事もないかのように過ごしている。おそらく、エンジニア以外が黒い液体に触れた場合はホロウェイのようになるのだろう。そして、間接的に黒い液体に感染したショウはトリロバイトを産む。『プロメテウス』のその後を描く短編ではショウもまた体調の悪化を訴えていたことから、遅かれ早かれ亡くなる運命だったことが示唆されている。
黒い液体はこうして、母親と父親を殺し、生まれたトリロバイトはディーコンを寄生させる対象を襲うだろう。ディーコンは宿主の胸を突き破って産まれるため、宿主もまず助かることはない。つまり、ディーコンが産まれるためには少なくとも3つの命の犠牲が必要だ。
本来であれば、黒い液体はエンジニア自らのDNAを複製して新たな生命として誕生させるものだったのだ。そうやって、エンジニアは自らの生殖の代替方法としていた。その結果、人類やあらゆる生物が生まれることとなったが、エンジニア自らと全く同等な種を誕生させることはできなかった。その研究の途上の種がディーコンであるとは考えづらいだろうか。
そう考えると、ディーコンの血があらゆる生命の誕生に寄与しているのも納得できる。
エンジニアが人類に対して怒りを見せた理由
そしてもう一つ、『プロメテウス』でエンジニアが人類に対して怒りを見せたのは、キリストの教えを授けたにも関わらず、争いや破壊をやめない愚かな種が繁栄し、創造主(エンジニア)を探し出すだけの科学力を持つに至ったからだけではないだろう。
人間にはエンジニアにはない生殖能力がある。生命の誕生の歴史から見ると、エンジニアの目からみても人間の科学技術の発達の速さは目を見張るほどであったはずだ。
数少ないエンジニアが将来的に人類に攻撃され、駆逐される可能性もある。だからエンジニアは人類を攻撃したのではないか。
AIがエイリアンを作り出した?
『エイリアン:コヴェナント』ではアンドロイドのデイヴィッドが生体実験を繰り返し、今の姿とほぼ変わらないエイリアンを作り出している。そのために、「AIがエイリアンを作り出した」と考えている人も多いだろう。
だが、デイヴィッドは自らも知らぬうちに正確にはエイリアンを復元していたのではないか。最初は『エイリアン』のようにエッグからゼノモーフが誕生することなく、直接宿主の背中を突き破って小型のネオモーフが誕生する。その後、エイリアン・エッグからフェイスハガーが飛び出すようにデイヴィッドによって改良されていく。つまり、デイヴィッドはエイリアンを作り出したのではなく、カスタマイズしていったのだろう。それもゲーム感覚で「完全な生物」を作るために。そう考えると『エイリアン』でアッシュがゼノモーフを「完全な生命体」と称賛していたのも納得できる。
『エイリアン:ロムルス』の黒い液体
なお時系列として『エイリアン』と『エイリアン2』の間の出来事を描く『エイリアン:ロムルス』では、『エイリアン』でリプリーが宇宙空間に放出したゼノモーフをウェイランド・ユタニ社が捕獲し、そこから黒い液体を復元していたという事実が明かされる。その黒い液体は遺伝子を買い換える役割があるといい、瀕死の状態だった妊婦のケイはその黒い液体を自らに注射する。その結果、ケイは生き延びるものの、エイリアンと人間の中間のような生物(オフスプリング)を生み出してしまう。
オフスプリングは非常に凶暴で、母親であるすらもケイを殺してしまう。オフスプリングの風貌は髪もなく、ひょろ長く、乳白色の肌を持つ人間型の生物だ。その容姿はエンジニアを彷彿とさせる。やはり黒い液体はエンジニアの生殖能力を取り戻すものではなかったか。
『プロメテウス』、『エイリアン:コヴェナント』、『エイリアン:ロムルス』この3作には共通して黒い液体が登場する。
『プロメテウス』が謎を与え、『コヴェナント』がヒントを与え、『エイリアン:ロムルス』が答えとなっている。
これらの作品は「黒い液体三部作」と呼べると思うが、どうだろうか。