『フォレスト・ガンプ』の元になった実話とは?映画から辿るアメリカの戦後史

『フォレスト・ガンプ』

フォレスト・ガンプ』は1994年に公開されたロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演のドラマ映画。第67回アカデミー賞では作品賞をはじめ、監督賞、主演男優賞、脚色賞など複数部門を受賞している。
原作は1985年にウィンストン・グルームが発表した同名小説だ。原作では荒唐無稽なコメディのような印象も強かったが、映画版はアメリカの戦後史を縦断し、フォレストの半生を描いた感動的な内容となっている。

『フォレスト・ガンプ』は実話ではない

たびたび「フォレストガンプ 実話」というワードで検索されているらしいが、結論から言えば『フォレスト・ガンプ』は実話ではない。
だが、劇中ではいくつかの史実と巧みにフォレストを絡ませてもいる。今回はそんな『フォレスト・ガンプ』に取り入れられた実際の出来事や人物について見ていきたい。

『フォレスト・ガンプ』に取り入れられた実際の出来事

エルビス・プレスリー

言わずと知れたキング・オブ・ロックンロールだ。ロックミュージックの創生期に活躍したミュージシャンで、かつ最もロックンロールの普及に貢献したミュージシャンの一人とも言えるだろう。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
フォレストの母はエルヴィスのダンスについて「子供の観るものではない」と述べている

『フォレスト・ガンプ』では、フォレストが小学生の頃に、彼の家に泊まりに来た青年として描かれており、エルヴィスの独特の動きは足に装具を付けたフォレストの動きがヒントになったとされている。ちなみに2022年に公開された『エルヴィス』では、トム・ハンクスがエルヴィスのマネージャーだったトム・パーカー大佐を演じている。

ジョージ・ウォレス

歴代のアラバマ州知事の中でも特に有名なのがジョージ・ウォレスだろう。
フォレストが生まれ育ったアラバマは最も人種差別が根強く残っていた地域のひとつだ。ジョージ・ウォレスは人種差別主義者であり、「今ここで人種隔離を!明日も人種隔離を!永遠に人種隔離を!」をスローガンに選挙を勝ち上がった。

 

©1994 Paramount Pictures Corporation.
黒人学生の前に立ちはだかったウォレスはロバート・ケネディから「それでもあなたはアメリカの市民か!」と一喝された

『フォレスト・ガンプ』では黒人のジェームズ・フッドとヴィヴィアン・マローンが黒人として初めて大学に入学する際の学生と知事の攻防が描かれている。そこではジョージ・ウォレスが、黒人学生の前に立ちはだかる様子が映し出される。ここでフォレストはヴィヴィアンマローンが落としたノートを拾ってあげる男性として登場しているが、実際の黒人差別はかのようなコミカルなものではない。
黒人への人種差別を熱烈に支持したジョージ・ウォレスはその罰を受けるかのように、その後アーサー・ブレマーに狙撃され、半身不随となっている。『フォレスト・ガンプ/一期一会』はこの部分までしっかり映像として映し出している。

ジョン・F・ケネディ

その若さと悲劇的な最期で歴代大統領の中でも異例の知名度と人気を誇るジョン・F・ケネディ。
『フォレスト・ガンプ』では、フォレストの所属するアメフトチームが全米優勝し、大統領に謁見するという流れで登場。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
1963年11月22日、ケネディはテキサス州ダラスで遊説中に暗殺された

この時フォレストはドクター・ペッパーを15本飲み干してしまい、ケネディに向かって「トイレに行きたい」と言い出し、彼を苦笑させている。

ベトナム戦争

大学を卒業したフォレストは軍隊に入り、ベトナムへ送られる。だが『フォレスト・ガンプ』ではベトナムがいかに特異な環境での戦争だったかは描かれない。
実際にベトナム戦争に従軍したオリバー・ストーンは『プラトーン』『7月4日に生まれて』などでベトナム戦争を描いている。

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リンドン・ジョンソン

ケネディが暗殺された後に大統領の座に就いたのが、副大統領だったリンドン・ジョンソンだ。フォレストと面会する大統領として、『フォレスト・ガンプ』には登場する。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
ケネディの暗殺により急遽大統領に昇格したリンドン・ジョンソン

ジョンソンは金持ちのケネディとは違い、テキサス州の貧しい家で育っている。そのためにジョンソン男らしさにこだわり、また粗野な人であったとも言われている。しかし、人種差別に対してジョンソンの政策はリベラルだと言えた。『フォレスト・ガンプ』では描かれていないものの、大統領に就任して間もない1964年には公民権法を可決させ、翌年には投票権法も署名している。

ブラックパンサー党

反戦運動やピッピー・カルチャーへ傾倒していたジェニーが関係を深めていくのがブラックパンサーだ。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
後述する『大統領の執事の涙』にもブラックパンサー党は登場している

時には暴力的な手段も厭わず、人種差別の撤廃を掲げるブラックパンサーだが、『フォレスト・ガンプ』では、、ジェニーにも手を上げる男尊女卑のDV男のように描かれている。

リチャード・ニクソン

卓球の才能を開花させ、ピンポン外交の主役となったフォレストはまたも大統領と面会することになる。この時の大統領がリチャード・ニクソンだ。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
ハリウッドはしばしばニクソンを悪役として描いてきた

この時、ニクソンの計らいでフォレストの宿泊するホテルがウォーターゲート・ホテルの向かい側のホテルとなり、その夜にフォレストがウォーターゲート・ホテルでの不審な動きを目撃(フォレスト本人はホテルの電気が切れて、懐中電灯を使わなければならない人たちと誤解しているが)したことから、ウォーターゲート事件へ発展するという筋書きになっている。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
実際は何者かが盗聴器を仕掛けている場面

ウォーターゲート事件

ウォーターゲート事件とは1972年の大統領選挙戦の最中に当時の野党である民主党本部に何者かが侵入し、盗聴器を仕掛けようとした事件だ。
当初彼らはホワイトハウスとは無関係だと思われていたが、ある密告者(ディープスロート)によって彼らが行った盗聴などの違法行為を大統領自らが指示したとの情報が流れた。警察やジャーナリストは事件を追うが、ホワイトハウスは捜査を妨害し、事件をもみ消そうとした。この状況にアメリカ国民の政治不信は最高潮に達していく。

そして2期目を迎えたばかりだったニクソンは弾劾裁判にかけられ、アメリカ史上初めての任期途中で辞任した大統領となった。ウォーターゲート事件をジャーナリストの立場から追った作品では『大統領の陰謀』がある。主役を務めるのは、惜しくも先日亡くなったロバート・レッドフォード。
また、ロン・ハワード監督の『フロスト×ニクソン』では、ウォーターゲート事件に関する関与と謝罪の言葉なしに辞任したニクソンに対して真実と責任を追及しようとしたテレビ司会者のデヴィッド・フロストの奮闘が描かれる。

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ジョン・レノン

1972年、ジョン・レノンが『ディック・キャヴェット・ショー』に出演した時に、フォレストも同じく出演していたという設定でジョン・レノンとフォレストの会話の場面が映されている。
ジョン・レノンはフォレストの中国に関する発言に「所有物はない?」、「宗教もない?」と答え、それが後の『イマジン』の発想の元になったことが示唆されている。
ちなみに実際の出演はオノ・ヨーコとともにでの出演である。

 

© 1994 Paramount Pictures Corporation.
実際の『イマジン』はジョンとヨーコの共作である

当時のジョン・レノンはベトナム戦争への反戦運動がに加え他にもアッティカ刑務所の暴動であったり、元ホワイトパンサー党のジョン・シンクレアの釈放などジョン・レノンの平和運動は多岐にわたっている。
ちなみにジョン・シンクレアはホワイト・パンサー党の党首だった人物で反戦活動家でもあった。ホワイトパンサー党はブラックパンサー党を支援する白人のための党として結成された。公民権運動の他にもベトナム戦争反対やマリファナの合法化を目指していた。

また当時のニクソン政権はジョンの大麻での逮捕歴を理由に国外退去を命令しており、それを不服とするジョンとの間で裁判が起こされた。

ニクソンで絶大な影響力を持つ危険人物ジョン・レノンをアメリカから追い出したかった。

若き日のジョン・レノンのアイドルがエルヴィス・プレスリーだったことは有名だが、プレスリーはニクソンにジョンの国外追放を求めたという逸話がある。ニクソンもまたプレスリーにジョン・レノンの監視を依頼していたという話もある。
ジョン・レノンはプレスリーが兵役につき、体制側となったことから、プレスリーに幻滅し、ビートルズとプレスリーが会談した時には「君たちのレコードはすべて持っている」と言ったプレスリーに対して、「僕はあなたのレコードは一枚も持っていない」と発言し、その場を凍りつかせた。

ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン、ニューヨーク』では、フォレストと共演したころのジョン・レノンがどんな日々を送っていたかが描かれている。

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『フォレスト・ガンプ』が描かなかった実話

『大統領の執事の涙』

実は『フォレスト・ガンプ』には批判の声も根強い。カウンターカルチャーや公民権運動の隆盛をほとんど無視し、保守的なアメリカの賛美に徹しているからだ。その意味で『フォレスト・ガンプ/一期一会』の示す戦後史はかなりのバイアスがかかっているとも言える。

「この作品は『フォレスト・ガンプ』への反論のつもりで撮った」
リー・ダニエルズは自身の監督作である『大統領の執事の涙』をそう紹介した。

リー・ダニエルズ自身黒人であり、常に黒人の生きる現実を映画の中に映し出してきた。
「幼いころから、常に人種差別を感じて生きてきた」
そう語るダニエルズにとって『フォレスト・ガンプ』は白人側に偏った映画に映った。

『大統領の執事の涙』は『フォレスト・ガンプ』が描かなかった実話を描いている。個人的には両方観て初めて本当のアメリカの戦後史が理解できるのだと思う。

 

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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