『エイリアン2』は本当に最高の続編映画なのか?

1979年に公開された『エイリアン』、その撮影現場で監督のリドリー・スコットは常にスタジオからの圧力に晒され続けた。そのために現場には常に緊張感が漂っていたという。しかし、公開してみれば『エイリアン』はご存知のように大ヒット、主演のシガーニー・ウィーバー、監督のリドリー・スコットもその知名度を飛躍的に上げる契機となった。
だが、『エイリアン』の続編製作の話はリドリー・スコットに回ってくることはなかった。代わりに抜擢されたのは『ターミネーター』をヒットさせたばかりのジェームズ・キャメロンだ。
「This time it’s war.(今度は戦争だ)」キャメロンが作り上げた『エイリアン2』はそのキャッチコピーの通り、一作目のホラー要素を残しつつも大きくアクションに舵を切った作品になった。

『エイリアン2』

『エイリアン2』は1987年に公開された。主演は『エイリアン』に引き続き、シガーニー・ウィーバーが務めている。
『エイリアン』シリーズは最新の『エイリアン:ロムルス』まで計7作が作られている(他にも『プレデター』とのクロスオーバー作品、ゲームやテレビドラマやコミックまで含めるとメディア展開は多岐にわたり、一大フランチャイズを築いている)が、ファンからの人気が高いのは『エイリアン』と『エイリアン2』がズバ抜けている。
映画ファンの中で「続編は失敗する」というのは有名なセオリーだが、『エイリアン2』は2009年にイギリスの雑誌『エンパイア』が発表した「史上最高の続編映画」の第一位にラインナップされた。確かに『エイリアン2』が面白く、エキサイティングな映画なのは間違いない。だが、本当に最高の続編と言えるのか。
今回はそこに着目してみたい。

LV‐246

『エイリアン2』の舞台は前作から52年後、冷凍睡眠状態で宇宙を漂っていたリプリーをが見つけ、救助していたのだ。
地球で目覚めたリプリーは、52年もの歳月が経過していることと、彼女の娘が老衰で亡くなっていることを告げられる。更にリプリーは毎晩チェストバスターが自らの胸を突き破る悪夢にうなされていた。

そんな中、かつてリプリーがエイリアンの卵と遭遇したLV‐246は現在は人間の植民地となっていたが、そこの住人たちと連絡が取れなくなっていた。
エイリアンの可能性が高いと訴えるリプリーは、自身の悪夢に決着をつけるべく、海兵隊とともに再びLV‐246へ向かう。

その惑星には誰もおらず、唯一の生存者は通風口の中に隠れていた少女、ニュートだった。彼女の両親や兄は既にエイリアンの犠牲となっていた。
ちなみに余談だが、ニュートを演じたキャリー・ヘンはこれが唯一の出演作であり、俳優の道へは進まずに教師の道を選んでいる。未だに生徒の父母から『エイリアン2』のジャケットにサインを頼まれるという。また、完全版に登場するニュートの兄はキャリーの実兄でもある。

話を物語に戻そう。住民の捜索中に海兵隊が生命反応を見つけるが、信号をたどっていった先で彼らが見たのは、大多数の人間がすでに繭にされ、チェストバスターの餌食となった風景だった。唯一、まだ生きている女性がいたが、間もなく彼女は苦しみ出し、その胸からチェストバスターが飛び出してくる。
だが、エイリアンの大群が襲いかかり、海兵隊は次々に命を落としていく。

もう一つの『ターミネーター』

実は『エイリアン2』はもう一つの『ターミネーター』だ。

ランス・ヘンリクセンとの約束

今作でビショップを演じたランス・ヘンリクセンは元々『ターミネーター』でT-800を演じるはずだった(ランスの顔が描かれたターミネーターの絵コンテも存在している)。
ご存知の通り、最終的にその役はアーノルド・シュワルツェネッガーが演じることになり、ランスはサラ・コナーを保護する警官の一人に役柄が変わったわけだが、ランスがアンドロイドを演じるという約束は今作『エイリアン2』で果たされる形となる。

家族というテーマ

また、『ターミネーター』を家族の構築の物語として見ることもできる。『ターミネーター』の作品全体に漂う謎の一つはカイルが必死で守るサラ・コナーだが、人類の救世主となるジョンの母親となるサラの相手は誰かということだ。つまり、ジョン・コナーの父親は誰なのか?
当初、サラはカイルが未来からサラを守るためにやってきたと言っても信用しない。しかし、二人はターミネーターからの襲撃を共に生き延びるうちに恋愛感情が生まれ、終盤で二人は結ばれる。家族が構成されるのだ。
『エイリアン2』もその要素がある。前述のようにリプリーは冒頭で愛娘が亡くなっていることを知る。だが、ニュートとの出会いで新たに愛する者と守るべき存在が生まれる。
最終的に、ニュートはリプリーを「ママ」と呼ぶまでの信頼が生まれる。リプリーが失った家族を再び取り戻すストーリーとも言える。
家族の再生というテーマはこれ以外のキャメロンの作品にも見ることができる。
例えば『トゥルーライズ』では、娘は父を嫌い、妻は夫に隠れて他の男に夢中になっている。コメディ調の作品ではあるものの、根底にあるものは『ターミネーター』や『エイリアン2』と同じだ。
そしてホラー要素は残しつつも、アクションに大きく舵を切ったのもキャメロンの作家性と自信の表れだろう。

『ALIENS』というタイトル

キャメロンは今作のタイトル『ALIENS』(原題)をプレゼンするときにSに棒を足して$マークにしたそうだ。ここにもキャメロンがいかに本作に自信を抱いていたかがわかる。
そして、事実それは正しかった。エンターテインメントとして派手なアクションや程よい緊張感、そしてラストは感動要素も含めてカタルシスを与えて円満に終わる。
同じく大ヒットしたキャメロンの『ターミネーター2』もこの要素がもれなく入っている。

『エイリアン』の続編として『エイリアン2』は最高か?

だが、『エイリアン』の続編として『エイリアン2』を見た時に、果たして最高だと言えるのか。

宇宙のシロアリ

リドリー・スコットは『エイリアン2』を観た時に「(エイリアンは)宇宙のシロアリか?」と苦言を呈した。
エイリアンに徐々に追い詰められる恐怖とは違い、それなりの武器さえあれば簡単に殺せることが判明してしまったのが『エイリアン2』なのである。

エイリアン・エッグの正体

また、ここが最も大きな違いだが、『エイリアン』のディレクターズカットでは、エイリアンの卵(エイリアン・エッグ)は繭にされた人間が変形してエッグになっていた。しかし、『エイリアン2』では蟻のように、女王(エイリアン・クイーン)が存在し、卵は彼女が産む。映画に現れた無数のエイリアンたちは、言わば働き蟻のような存在なのだ(ちなみに余談だが、無数に登場するように見えるエイリアンは実は6体しか存在していない。予算の制約もあり、キャメロンは「6体しか作らない」と宣言したそうだ。キャメロンの師でもあるロジャー・コーマンは一本の樹と5人の兵士でローマ軍の戦争を表現したとキャメロンはインタビューで語っている)。
前日譚となる『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』を除いては、以降の『エイリアン』シリーズは基本的にはクイーンの設定を継承している。リドリー・スコットが製作を務めた2024年公開の『エイリアン:ロムルス』ではエイリアンエッグもクイーンも出てこないが、そこはあえて描かないことで1作目と2作目の矛盾に触れないようにしているのだろう。

『エイリアン:ロムルス』が描かなかったもの

『エイリアン』のディレクターズカットが公開されたのが2003年なので、もしキャメロンがその設定を知らずにエイリアンの生態系を創造しても仕方ないのだが、やはり『コヴェナント』で描かれたエイリアンの創造とも異なっているのだ(のちに昆虫型の生物に寄生し、それらの生物の性質を受け継いだと仮定することもできるが)。
余談だが、『エイリアン:ロムルス』の監督を務めたフェデ・アルバレスは製作を務めたリドリー・スコットと、『エイリアン2』ジェームズ・キャメロンからのアドバイスが全く異なっていたと答えている。

「リドリーとキャメロンはまったく別のことを言うんだ。作品や映画づくりなどについて、非常に知的なコメントやメモ、考えをくれるんだけど、2人のアプローチはまるで違う」。

果たして、『エイリアン2』は『エイリアン』の続編として最高の続編なのか。
名作の本当の姿はあなた自身で確かめてみてほしい。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

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「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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