『俺たちのアナコンダ』I Don’t Want to Wait

『ホリデイ』『スクール・オブ・ロック』『キングコング』『トロピック・サンダー』などなど、主役であれ脇役であれ、ジャック・ブラックの出演している映画に駄作はあまりない気がする。
今回取り上げる『俺たちのアナコンダ』もそうだ。元々はデヴィッド・ロバート・ミッチェルの『イット・フォローズ』の解説を書こうと思っていたが、急遽予定変更。それくらい『俺たちのアナコンダ』は面白かった。

『俺たちのアナコンダ』

『俺たちのアナコンダ』は2025年に公開されたトム・ゴーミガン監督、ジャック・ブラック、ポール・ラッド主演のコメディ映画。トム・ゴーミガンが2022年に監督した『マッシブ・アタック』に続いて、現実世界を映画のなかに取り込むメタ設定となっている。もちろん今回とりこんだのは『アナコンダ』だ。

のちの評価はどうあれ、大真面目に作った作品をコメディとしてリメイクするのは大きなリスクを伴う。
成功すれば、すでに世間に数多い元の作品のファンを取り込み 、そこからのポジティブな拡散も期待できるが、失敗すれば、その作品のファンを取り込むどころか、彼らに真っ先にそっぽを向かれることになる。
『俺たちのアナコンダ』はもちろん成功作だ。そもそも元ネタに『アナコンダ』を選んだところが絶妙だ。
これが『ジョーズ』なら、巷に溢れた多くのサメ映画の一つで終わっていただろう。『ジュラシック・パーク』をコメディにしたら、「あの名作をコケにしやがって!」という声が聞こえてきそうだ。

『アナコンダ』

今作のベースとなる『アナコンダ』は1997年に公開されたパニック映画。監督は、主演はジェニファー・ロペスが務めている。
ストーリーは南米のジャングルに、先住民の取材に赴いた映画監督とそのスタッフたちが巨大なアナコンダに襲われるという内容になっている。
おそらく『ジュラシック・パーク』の大ヒットが製作の後押しになったのではないか思う。大きく括れば、どちらも「巨大動物パニック映画」として同じ系統の作品だとも言える。さらに言えば『ジョーズ』との類似点も多いが、こちらは『アナコンダ』の記事で詳しく解説したい。

ただ、『ジュラシック・パーク』が生命倫理や行き過ぎた科学への警報という明確で崇高なメッセージを含んでいたのとは異なり、『アナコンダ』はエンターテインメントに特化したモンスターパニック映画という趣が強い。加えてチープな特殊効果もあって、ラジー賞に選ばれたのも分からないではない(ただ当時のCG技術はこんなものでも仕方ないとは思うし、ある程度の知名度がないとそもそもラジー賞にすら選ばれないのだが)。しかし、そんな映画こそ、カルト映画として根強いファンを抱えていたりする。

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『アナコンダ』のリメイク

『俺たちのアナコンダ』はジャック・ブラック演じるダグと、ポール・ラッド演じるグリフが主人公だが、ダグとカリフもそんな子供の頃からの『アナコンダ』ファンだ。
しかし、映画監督を目指していたダグは今は結婚式のビデオムービーの製作を稼業とし、ハリウッドスターを夢見ていたグリフは役名もつかないような脇役としてほそぼそと俳優活動を続けていた(ダグの役柄の設定も『アナコンダ』のオマージュだと思うが、映画監督から結婚式ビデオの製作者とスケールダウンしているところが笑いを誘う)。

グリフはダグや、元カノのクレアに声をかけ、『アナコンダ』のリブート作の撮影を始めようとする。予告編では、ジャック・ブラック演じるダグが皆を率先してリメイク版『アナコンダ』の製作を進めていったかのように見えるが、実際はボール・ラッド演じるグリフがリメイク版の企画を進めている。
監督のトム・ゴーミカンいわく、この配役はあえて一般的なイメージとは逆の配役にしたという。

「二人をペアにするなら、役割を逆転させたら面白いんじゃないかと思ったんだ。ジャックは才能豊かで、共感できる存在感がある。スクリーン上ではとても純粋なので、彼に物語の感情的な中心人物(そしてツッコミ役)になってもらったらいいなと思った。普段はツッコミ役で感情的な中心人物であるポールには、今回はグループの売れない俳優として、ちょっと型破りな役を演じてもらったんだ。だから、二人の組み合わせを少し違ったものにしようと試みたんだ」

ダグには家庭もあり、守るものもあった。「俺には妻も子供も仕事もある。もう子供じゃないんだ。すまない」。
だが、自宅で子供の頃に作った自主製作映画を観ていると、妻から映画を撮ることを勧められる。

仕事で撮った結婚式のビデオからは、ポーラ・コールの『I Don’t Want to Wait』が流れる。

「人生の終わりを待っているだけなんて嫌
いますぐどうなるか知りたいの」

日本では、『I Don’t Want to Wait』は1998年公開の映画『シティ・オブ・エンジェル』のテレビ予告編の音楽として、当時大量にオンエアされている。

『再会の時』を『アナコンダ』にできるなら

トム・ゴーミカンによると、すでに『アナコンダ』の権利者でソニーのもとには『アナコンダ』のリメイク話が560回は上がっていたという。その後に『アナコンダ』のリブートについて何が考えがあるかと訊かれたそうだが、トム・ゴーミカンは『アナコンダ』にさほど思い入れもなかったため、最初はノーと答えたという。

「楽しくて、面白くて、キッチュだから、高校3年生の時に公開されたあの1997年の『アナコンダ』には特別な思い入れがあるんだ。懐かしく思い出すけれど、異常なほど崇拝しているわけではないんだ」

だが、トム・ゴーミカンの中に別のアイデアがわき出していた。一週間後、トム・ゴーミカンはそのアイデアを持って、ソニーへこう伝えた。
「『再会の時』を『アナコンダ』にできるなら興味がある」
このアイデアがソニーに受けれられるとはトム・ゴーミカンも予想外だったようだが、こうして『俺たちのアナコンダ』の製作が決まった。

『再会の時』は19883年に公開されたドラマ映画だ。学生時代の仲間が友人の死をきっかけに葬儀で再会。そのまま週末を別荘で過ごすことになるという内容だ。仲間との再会に加え、みな中年となり、それぞれに「中年の危機」ともいうべき問題を抱えているところなど、確かに『俺たちのアナコンダ』とも共通している。

『ジュラシック・パーク』の遺伝子

さて、『俺たちのアナコンダ』では舞台を南米に移し、蛇使いのサンディアゴも加わって順調に撮影が進んでいく。ここではグリフとヒロイン役のクレアの衣装に注目したい。
グリフはデニムシャツに赤いバンダナ、麦わら帽子という出で立ちだ。クレアはピンクのシャツに薄いベージュのパンツ。
明らかに『ジュラシック・パーク』の主人公グラント博士と、その恋人であるエリーの服装をイメージしている。
やはり『アナコンダ』には『ジュラシック・パーク』の遺伝子も存在していると言えるだろう。

順調に思えた撮影だが、クライマックスのヘビに襲われる場面の撮影で、グリフは恐怖のあまりヘビを放り投げてしまう。投げられたヘビは川に落下。船のスクリューに巻き込まれ、バラバラになってしまう。
代わりのヘビを探すべく、ジャングルへ足を踏み入れるグリフとサンディアゴだが、そこには巨大なアナコンダが潜んでいた。
『俺たちのアナコンダ』は夢が叶わなかった大人のための映画だ。
実はグリフは『アナコンダ』のリメイク権を持っていないことが判明。さらには撮影そっちのけで巨大アナコンダとの攻防が作品のメインになるが、クライマックスだけはカメラを稼働させ、なんとか映画として完成するに至る。

スクール・オブ・ロック』でジャック・ブラック演じるデューイは、まだ夢を追える若さを持っていたが、『俺たちのアナコンダ』のダグはそうではない。結婚して子供もいて、夢を追う前に家族を守らねばならない。
だが、それでも人生は一度きり。

「人生の終わりを待っているだけなんて嫌
いますぐどうなるか知りたいの」

『I Don’t Want to Wait』はポーラ・コールの祖父が人生の終わりに近づいているときに書き上げられた。祖父や祖母のように人生に後悔を残したくない。そんな個人的な想いが込められているという。
そう、誰の人生も一度きり。チャンスが来たら、思い切って飛び込まねば。

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