※以下の考察・解説には映画のネタバレが含まれています
最初に『ターミネーター』を観た時は確か小学生の時だった。当時はまさかそれが低予算のB級映画だなんて夢にも思わなかった。
ただ、言われてみれば、終盤で骨格だけになったT-800が追いかけてくるシーンは動きがあまりにもぎこちない。
まぁ『ロボコップ』のED-209もそんな感じだったし、CGのない時代の映画なんてそんなものだと思っていたのだ。
だが、『ターミネーター』は予算不足によって前述のシーンが撮影されない可能性もあったという。ストップモーションを滑らかな動きにするには予算がかかる。そのためにジェームズ・キャメロンはフレームレートを落とすことにする。しかし、そうするとT-800の動きがカクカクしていてぎこちなくなってしまう。そこでキャメロンはT-800が足を怪我したことにして、ぎこちない動きでも不自然でなく、むしろ説得力が出るようにした。
そんなわけで『ターミネーター』がいかに低予算の作品だったかということを説明したが、公開されるやいなや、映画は大ヒット。なんと制作費の10倍以上の興行収入を得た。
そのヒットを受けて製作された続編が、今回紹介したい『ターミネーター2』だ。
『ターミネーター2』
物語は前作から10年後の1994年。サラ・コナーはサイバーダインを爆破しようとして逮捕される。犯行の動機として機械(スカイネット)による全面核攻撃「審判の日」や未来の戦争について話したことから、精神的な異常を疑われ、精神病院に収監されていた。
一方、サラの子どものジョン・コナーは養父母のもとに預けられていたが、折り合いが悪く、友人と非行に走る生活をしていた。
そんな中、2体のターミネーターが未来から転送されてくる。
一人は1984年にサラを狙ったものと同じT-800モデル、そしてもう一体は細身の男のタイプだった。
2体のターミネーターはそれぞれジョン・コナーを探し始める。そしてほぼ同時にゲームセンターでジョンを見つける。
細身の男がジョンを殺そうとするが、T-800がジョンを身を挺して守る。
T-1000
未来のジョン・コナーが少年時代のジョン自身を守るために送り込んだのが、抵抗軍によって再プログラムされたT-800だったのだ。
ジョンはそれまでデタラメだと思っていたサラの話が真実だったことに驚く。
そして、T-800からジョンを襲ったターミネーターがT-1000という最新鋭のターミネーターで、液体金属でできていること、基本的に破壊が不可能なこと、そしてT-1000の次のターゲットがサラ・コナーであることを伝えられる。
ジョンはT-800に「サラ・コナーの救出」を命令し、二人はサラが収容されている精神病院へ向かう。
『ターミネーター』のリメイク
この『ターミネーター2』は実質的な『ターミネーター』のリメイクでもある。
基本的な構成は『ターミネーター』と同じで、守る対象がサラからジョンに代わっただけだ。
『ターミネーター』では当初シュワルツェネッガーはサラを守る抵抗軍の兵士、カイル・リース役の候補であり、逆にターミネーターはひ弱そうな風貌の男にする予定だったという。その候補として挙げられていたのがランス・ヘンリクセンだ。結局、シュワルツェネッガーがターミネーター役になったことから、ランス・ヘンリクセンはサラ・コナーが匿われる警察署の署員という役に変更される。
ランス・ヘンリクセンといえば、『エイリアン』シリーズのアンドロイド、ビショップ役で有名だが、このキャスティングは『ターミネーター』の埋め合わせの意味もあるのだろう。
また、新型ターミネーターのT-1000役には「ひ弱そうで細身」のロバート・パトリックが起用された。パトリックの起用は『ダイ・ハード2』のテロリスト役の一人としてパトリックが出演していたことがそのきっかけだという。
そして前作では敵役であったシュワルツェネッガーは、サラ・コナーを守ったカイル・リースのようにジョンを守っていく。
ただ、『ターミネーター』で成長したのは守られる側だったサラ・コナーだが、『ターミネーター2』では守る側のT-800だ。
冷戦の終結
『ターミネーター』でカイルはサラに「機械を信じるな」という。彼らには心がないから、と。
ジェームズ・キャメロンは『ターミネーター』に当時の冷戦を重ね合わせたという。
『ターミネーター』ではAIであるスカイネットが自我に目覚め、人類を敵と認識し、核攻撃を仕掛けることで30億人もの人々が命を落とすという設定がある。スカイネットが核攻撃を仕掛けた日は「審判の日」と呼ばれるが、その日付は8月29日。これはソ連が核実験に成功した日でもある。
1980年代のアメリカの大統領はロナルド・レーガンだ。レーガンは共和党出身であり、「アメリカを再び偉大に」のスローガンで大統領選を勝ち上がった。レーガンの前任者はカーターだが、人権外交と呼ばれたカーターのハト派な姿勢とは対称的に、レーガンはスター・ウォーズ計画に代表されるように、ソ連への強い敵対心を抱いていた。
ちなみにシュワルツェネッガーはレーガンの強い支持者でもあった。
レーガンが亡くなった時、カリフォルニア州知事だったシュワルツェネッガーは、州議会議事堂の国旗を半旗で掲げるように求めたという。シュワルツェネッガーはレーガンについて、「レーガン元大統領は僕のヒーローだった。この国をより良くするためにリーダーとなるインスピレーションをくれた人だ」と述べている。
だが、『ターミネーター2』と同じ年にソ連は崩壊し、冷戦は終わる。それまで冷酷で残忍な存在として描かれていた機械(もちろんこの機械にはソ連が重ねられている)ではなく、『ターミネーター2』では機械をどう扱うか、劇中の言葉で言うならば「ターミネーターが人間の命の価値を学べるのか」というテーマが描かれている。
当初、未来からやって来たT-800に与えられていた指令は「ジョン・コナーを守り、ジョンの指示に従う」ということだけだった。
生まれたばかりの何の倫理も持たない子供のように、T-800は目的のためなら手段を選ばない。そういえばカイル・リースがタイムスリップの感想として「もう一度生まれる感じ」と『ターミネーター』で言っていた。
では、T-800を人間として成長させていくのは誰か。それはカイルの子供である、ジョン・コナーだ。
君はもうターミネーターじゃない
ジョンはターミネーターが自分の言う事を何でも聞くと聞いて大喜び。まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようだ。さっそく、自分を侮蔑してきたチンピラ二人への制裁を命じる。しかし、T-800はジョンの予想を超えて二人をためらいなく殺そうとする。
あわててジョンはT-800を制し、人を殺すなと命じる。「君はもうターミネーターじゃないんだ」
当初、シュワルツェネッガーは人を殺さないターミネーターという役に対して、難色を示していたそうだ。残忍なことがターミネーターのキャラクターの魅力であると考えていたが、キャメロンの脚本を読んで考えを改めたという。
ジョンは「もう人を殺さない」とT-800に誓わせた上で、サラ・コナーを助けに向かう。
機械は信用するな
サラもまたT-800が現代に再び姿を見せたことを知っており、ジョンを助けるために病院を抜け出そうとしていた。
脱出成功まであと一歩の所で、サラはT-800と出会う。自らを殺そうとし、カイルを殺し、上半身だけになってもなおも追ってきた悪夢の怪物、それがターミネーターだった。
サラは目の前の恐怖から逃れようとするも、腰が抜けて動けない。ジョンがサラに「こいつは味方だ」と説明する。そして彼らの目の前には本当の敵であるT-1000が迫ってきていた。
辛くもT-1000からの追跡を逃れた3人は、廃棄されたガソリンスタンドの中で一晩を過ごす。T-800はサラの傷の手当てをし、サラはT-800の体から銃弾を提出する。
未公開シーンでは、ここでサラがT-800から取り出されたチップを壊そうとするシーンがある。ジョンがなんとか制止するが、サラの中にはカイルの「機械は信用するな」という言葉が刻み込まれているのだ。
人間はなぜ泣くんだ?
翌朝、3人はサラの指令でメキシコへ向かう。ここで『ターミネーター』以降のサラの暮らしがわかる。『ターミネーター』のラストでサラはメキシコへ向かっていた。
少年の「嵐が来る」という言葉に対して、サラが「わかってるわ」と答えて幕を閉じるが、この嵐は気象のことだけでなく、これから起こる審判の日も指している。ジョンが無事に生まれたとしても、審判の日まで止められるわけではない。だからサラはメキシコへ向かった。核攻撃で灰となるカリフォルニアから逃れるためだ。
そしてメキシコでジョンは育てられた。サラはジョンを救世主にするために有用な男と見れば誰とでも寝た。
一方で時折カイルを想って涙を流すこともあったという。ジョンからそれを聞いたT-800は「人間はなぜ泣くんだ?」と問いかける。
その頃サラはジョンとT-800が一緒にいる光景を見ながら、このターミネーターこそがジョンの父親として最もふさわしいと思い至る。T-800は決してジョンから離れず、目を離すことも怒って手を上げることもない。理想的な保護者なのだと。サラの心の中にも機械への見方の変化が起きていたのだ。
審判の日
そしてサラは夢現に審判の日の夢を見る。公園で幼いジョンと遊ぶ若いサラは、ウエイトレスの制服を着ている。カイル・リースと出会わなかった世界線のサラだ。
それをフェンスの向こうから眺めるサラ。もうすぐ審判の日が起きようとするのに、公園の人々はそんなことは全く知らずに幸せそうだ。
そして強烈な閃光が襲い、一瞬にして全てのものが燃える。サラも全身が燃える。そして核の爆風によって、炭化した体は一瞬で骨だけになる。
このシーンは『ターミネーター』シリーズの中でも屈指のトラウマシーンだろう。実際に広島に投下された原爆の威力は爆心地の地表を3000〜4000℃の超高温にし、最大風速440メートル/秒の爆風を発生させたという。
目覚めたサラはT-800から得ていた情報をもとにスカイネットの開発者となる、ダイソンという男を殺しに行く。
ここで初めて「審判の日」を回避しようと行動するのだ(ちなみに『ターミネーター2』の原題は『Terminator 2: Judgment Day』だ)。
ダイソンに銃を向けるサラだが、彼をかばう妻や幼い子供を見て、どうしても引き金を引くことができない。
そんな母を駆けつけたジョンが制止する。サラの話を聞いたダイソンは、サイバーダイン社に保管してあるターミネーターの腕とチップを破壊し、今までの研究データも破棄するという。
実は『ターミネーター』で破壊されたT-800の残骸をサイバーダインは秘密裏に回収していたのだ(完成版からは削除されているが、『ターミネーター』のクライマックスでサラたちが戦った工場はサイバーダインの工場であった)。
4人は研究データを爆破するためにサイバーダインへ向かう。ターミネーターの残骸は回収され、サイバーダインは爆破されるものの、通報により駆けつけた警官隊によってダイソンが命を落とす。
そしてそこにはT-1000も現れていた。サラ達はT-1000の追撃から逃れるために金属工場へ逃げ込む。
T-800はT-1000との戦いで右腕を失い、一度は機能停止すら起こしてしまう。サラは満身創痍になりながらもあと一歩の所で弾が尽きてしまう。絶体絶命の状態の中、予備バッテリーが始動したT-800が放ったランチャーの弾が炸裂。修復不可能なほど破壊されたT-1000は溶鉱炉の中へ落ち、断末魔の悲鳴を上げながら溶解していく。
人間が泣く理由がわかった
その後、サイバーダインから回収したターミネーターの腕とチップも溶鉱炉に沈め、全て終わったとサラとジョンは安堵する。しかし、T-800は自分の頭を指差す。「ここにもチップが」
それはT-800がいなくなるということだ。ジョンは必死に止めようとする。「僕が命令する、死ぬな!」もはやジョンにとってT-800はターミネーターでも、機械でもなかった。
ジョンにとってT-800は初めての父親であり、かけがえのない存在だった。その別れは辛すぎる。その時、初めてT-800は命の価値を知る。
「人間が泣く理由がわかった」
そして、ジョンを優しく抱擁し、サラと握手を交わす。
溶鉱炉に完全に沈む瞬間、最後にT-800が見せたのは、メキシコでジョンから習ったサムズアップだった。
サラは「未来は先の見えないハイウェイだ」と言いながらも、殺人機械であるターミネーターが命の価値を学べたことに一筋の希望を見出す。「機械にできて、人間にできないはずはない」と。
それは、「どんな人でも変わることができる」という、よりよい未来のための強いメッセージでもある。