
※以下の考察・解説には映画の結末のネタバレが含まれています
2026年の恐竜映画は変わり種が多い。
ベトナム戦争の最中に恐竜が現れるというトンデモ世界線を描いた『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』、そして周囲と隔絶した一地区がいきなり現れた恐竜たちに襲撃される『オークストリートの異変』。
そもそも、恐竜映画と言えば、もはや『ジュラシック・パーク』シリーズ(『ワールド』含む)の一強だと思う。
『ジュラシック・パーク』以後に公開された恐竜映画はもれなくその影響下にあることは間違いない。知名度、ブランド力、ビジネス規模においても、『ジュラシック・パーク』シリーズという巨人の前では、ほかのどんな映画も霞んで見えてしまう。
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『オークストリートの異変』も例外ではない。それは作る側においても痛いほど分かっているはずだ。ではなぜ、今『オークストリートの異変』なのか。
その謎について見ていこう。
『オークストリートの異変』
『オークストリートの異変』は2026年8月14日に公開されたデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督、アン・ハサウェイ、ユアン・マクレガー主演の怪獣映画。
物語の舞台は1982年。オークストリートの住宅街に住むプラット一家は休日の地域のイベントにもみんなで参加する仲良し家族に見えるが、実際には夫婦間で言い争いが絶えない。2人の子供たち、オードリーとブライアンも両親の仲には気づいており、離婚寸前ではないかと悟られている様子だ(両親の不仲、離婚というテーマはしばしばスティーヴン・スピルバーグ監督の映画に見られることでも知られる)。
父のグレッグは大企業へ復職を果たした一方で、ビザ配達のバイトをしており、休日も家族より仕事を優先してしまう。
母のデニースは家族に隠れて小説を書いている。その内容は、ある母親が家族を捨てようとする物語だ。
ある晩、強烈な光と風がオークストリートを襲う。それを機にオークストリートは先史時代へ地域ごとタイムスリップし、プラット一家は行き場のない世界で恐竜に襲われることとなる。
デニースを演じるアン・ハサウェイ、コメディからシリアスまで幅広いジャンルで才能を発揮している女優だが、たまに『シンクロナイズドモンスター』や今作など、ちょっと風変わりな作品にも出演するのが個人的には好感度が高い。
ホラー映画の文法
日本ではお盆期間の真っ最中に公開された本作。当初は私も「頭空っぽにして観られるエンターテインメント映画」というつもりであまり期待せずに映画館へ向かった。
しかし、監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは、一歩間違えれば失笑を誘いかねないこの設定を、見事なスリラーとして表現してみせた。恐竜の登場シーンこそ、演出はスピルバーグに敵わないものの、焦れったくなるほど引っ張って引っ張ってようやく登場させ、驚かせるようなジャンプスケアもそこかしこに仕掛けられている。
デヴィッド・ロバート・ミッチェルが映画監督としてブレイクしたのは2014年に公開されたホラー映画『イット・フォローズ』だったが、今回もホラー映画の文法が至るところで発揮されているのだ。
1980年代の映画へのオマージュ
作品自体も、恐竜映画というよりも、1980年代の映画全般に対するオマージュがふんだんに盛り込まれている。これこそが『オークストリートの異変』のアイデンティティとも言えるだろう。
デヴィッド・ロバート・ミッチェルは今作のインスピレーションの元として、「1970〜80年代のスティーヴン・スピルバーグの映画、および彼が携わったアンブリン(・エンターテインメント)の作品群を意識した」と述べ、特に『ポルターガイスト』は大いに参考にしたという。
個人的にも作品を観ていていくつかの気づきはある。
まず、タイムスリップの描写について。球体の水のようなものに覆われたエリアがタイムスリップするという設定になっているが、球体内部がタイムスリップするという描写は1984年に公開されたジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』を彷彿とさせる。
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また、恐竜が現れた当初、デニースは冷静さを失い、ひたすら叫びまくるが、この時の青い服やヘアスタイルはおそらく『シャイニング』で演じるウェンディへのオマージュだろう。
実際、作品終盤では、子供のブライアンのいる部屋のドアを破ろうとする大蛇、階下ではデニースが包丁で大蛇を滅多刺しにするなど、『シャイニング』の名シーンを思わせる場面も出てくる。
また、ここからはネタバレになってしまうが、タイムスリップした先で父のグレッグは恐竜に襲われて死んでしまう。
失意のプラット一家だったが、丘の上にタイムスリップできる「球体」があるのを目撃する。あの中に入れれば、また元の時代に戻れるかも!
再度、恐竜らとの攻防を交えつつも、一家は無事に1982年に戻ってくる。時計はあの光がオークストリートを覆う20分ほど前。オークストリートの外に出なければ、町は恐竜に襲われる運命にある。
デニースはある番号に電話をかける。するとそこに現れたのは配達から帰ってくる途中の父、グレッグだった。
「なぜみんなこんなところにいるんだ?」
不思議がるグレッグを抱きしめ、家族は再び全員揃ったことを喜び合う。
後日談として、オークストリートの住人はデニースが電話で危機を伝え、丘の上に彼らを誘導したことで無事であることが語られる。また、デニースは作家として成功し、その著作『オークストリートの異変』はベストセラーになっており、娘のオリバーも行きたかった大学に合格、晴れて大学生になっている。
このエンディングはどこか既視感がある。
1985年の名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではないか。
科学者のドクと高校生のマーティはタイムスリップの実験中にリビアの過激派に襲われ、ドクが命を落とす。マーティは彼らから逃げる途中で誤ってタイムトラベルを起動させ、30年前の1955年にタイムスリップしてしまう。エンディングでは、無事に現代へと戻れたマーティだが、マーティが過去を変えたおかげで、ドクは防弾チョッキを着用しており無傷、うだつの上がらなかった父は作家として成功者の人生を送っていた。
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そもそも『オークストリートの異変』(原題『The End of Oak Street』)というタイトル自体が1984年のホラー映画『エルム街の悪夢』(原題『A Nightmare on Elm Street』)を思わせる。
なぜ1980年代を舞台にした映画が増えたのか
しかし、最近は1980年代を舞台にした映画が増えたと感じている。
おそらく1970〜80年代に生まれた監督たちにとっては、自身のノスタルジーでもあり、青春の舞台でもあっただろう。
例えば2024年に公開された『MaXXXine マキシーン』の監督であるタイ・ウェストは1980年生まれ、2020年に公開された『ワンダーウーマン 1984』のパティ・ジェンキンス監督は1971年生まれ、2019年に公開された『ジョーカー』のトッド・フィリップス監督は1970年生まれだ。
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加えて、1980年代のアメリカの状況は現在と似ているという声もある。確かに大統領選挙でレーガンが使ったスローガンとトランプが使ったスローガンは同じ「アメリカをもう一度偉大に!」だ。
『オークストリートの異変』も世界の中で孤立しつつあるアメリカの風刺なのかもしれない。