
2019年に公開された『トイ・ストーリー4』は公開時に映画館まで観に行った。
『トイ・ストーリー3』という完璧な締めくくりの後にどんな物語が展開するのか、予想もつかなかった。
キャッチコピーは「あなたはまだ-本当の『 トイ・ストーリー』を知らない」。
だが、正直に言えば、「別に知らなくてよかったな」それがエンドロールが終わった後の偽らざる感想だ。
公開当時、『トイ・ストーリー4』に対する落胆の声はネット上にもあふれていた。
「こんなの『トイ・ストーリー』ではない」「なんとなく共感できない」「とても素晴らしい映画だと思った」
賛否両論と言えばそうかも知れないが、例えばYahooのレビューでは、『トイ・ストーリー3』が4.5に対して、『トイ・ストーリー4』は3.7と急落している。念のために他のシリーズも合わせてみると、
・『トイ・ストーリー』・・・4.3
・『トイ・ストーリー2』・・・4.1
・『トイ・ストーリー3』・・・4.5
・『トイ・ストーリー4』・・・3.7
・『トイ・ストーリー5』・・・4.2
という結果だ。未だに『トイ・ストーリー』シリーズの人気が根強いことは、『トイ・ストーリー5』の評価と興行収入の高さに表れている。
さて、今回久しぶりに『トイ・ストーリー4』を観直してみた。そこで、なぜ本作が受け入れられなかったのか、そして、本作の「本当の観方」がわかったのだ。
今回は今だからできる『トイ・ストーリー4』の解説をしていこう。
ボー・ピープとの別れ
本作の冒頭は、プロローグとしてボー・ピープとの別れの日が描かれている。『トイ・ストーリー3』ではウッディのセリフで軽く触れられるに留まったが、ここではその別れがどれほど理不尽で切ないものだったのかがわかる。時系列としては、本作の9年前。まだアンディが8歳だったころの出来事だ。
大雨の夜、日中に庭で置き忘れられたラジコンカーをウッディは、スリンキーやバービー、ボー・ピープらの手を借りてやっとのことで救出に成功する。しかし喜びの束の間、モリーがボー・ピープを手放すことになり、ボー・ピープとウッディは離ればなれになってしまう。
「子供たちは毎日のようにおもちゃをなくす」
そう言ってボー・ピープはウッディにこれも仕方のないことと告げる。
雨の中、ウッディは別れに打ちひしがれる。
今まで、『トイ・ストーリー』シリーズの冒頭は、アンディのおもちゃ遊びの世界を描いた、ファンタジックな幕開けだった。しかし、『トイ・ストーリー4』は違う。ファンタジーではなく、現実を描いていく。このオープニングはその宣言でもあるだろう。
アンディとの約束
『トイ・ストーリー4』の舞台は『トイ・ストーリー3』の1年後。ボニーは幼稚園に入る年になり、おもちゃ遊びの相手にウッディを選ぶことも少なくなっていった(アメリカでは、保育園に通う年齢と幼稚園に通う年齢が分かれており、幼稚園は5歳からが一般的。日本のように保育園を選ぶか、幼稚園を選ぶかという形ではない)。
ある日の帽子屋さんゴッコのおもちゃ遊びでも、ウッディだけはいつものメンバーの中で選ばれない。
いきなり『トイ・ストーリー3』から『4』を観た人は、『3』での終盤のアンディの「ウッディとも遊んでくれるかな?」という約束がいきなり裏切られたように感じるかもしれない。
実際にはこの作品の間に『トイ・ストーリー・オブ・テラー!』、『トイ・ストーリー 謎の恐竜ワールド』のTVシリーズや短編(『ハワイアンバケーション』、『にせものバズがやってきた 』、『レックスはお風呂の王様』)が製作されており、その中ではボニーはアンディほどウッディに強い思い入れがないことが示されている。
例えば『トイ・ストーリー・オブ・テラー!』では、ボニー親子が泊まったモーテルの支配人が、ボニーのおもちゃをすべて盗み出すが、クライマックスでボニーはそれらのおもちゃを無事に発見する。その中でもジェシーを見つけて抱き上げ、安堵の表情を見せる。
短編『にせものバズがやってきた!』では、お出かけのお供としてレックスとバズが連れ出され、ウッディはお留守番だ。
また、『謎の恐竜ワールド』では、バズ・ライトイヤーの宇宙船を模したリュックを背負っており、「バズ・ライトイヤー」という作品そのものも愛好している様子が伺える。
フォーキー
さて、『トイ・ストーリー』ではウッディが疎外感を味わう一方で、ボニーも新しく入園する幼稚園へ強い不安を感じていた。
ウッディはドーリーの制止もきかずに、アンディのときと同じようにボニーのはじめての幼稚園をサポートしようと、ボニーのカバンにこっそり忍び込む。
ウッディのアシストもあり、ボニーは先割れスプーンで作った自作のおもちゃ「フォーキー」を完成させる。
しかし、フォーキー自身は自分をゴミだと思い、ことあるごとにボニーの手から離れ、自らゴミ箱へ入ってしまう。ウッディはボニーのためにはフォーキーの存在が最も不可欠として、その都度フォーキーをボニーのそばへ連れ戻す日々が始まる。
ある日、ボニーは家族でキャンピングカーをレンタルして旅行へ行くことに。ウッディやバスたち、そしてフォーキーも一緒だがついにキャンピングカーからフォーキーが逃げ出してしまう。ウッディはフォーキーを追いかけ、自らも車から飛び降りる。
『シャイニング』とセカンド・チャンス・アンティーク
ウッディは無事にフォーキーを見つけ、2人でボニーの元へと戻る途中、偶然通りかかったアンティークショップ「セカンド・チャンス・アンティーク」で長年離ればなれだったボーの電気スタンドを見つける。店内に入るウッディとフォーキーだったが、彼らを待ち受けていたのは、ベンソンというアンティークの腹話術人形たち。
ここでのBGMはスタンリー・キューブリックの『シャイニング』で流された『Midnight, The Stars and You』という楽曲だ。第1作目の『トイ・ストーリー』では「おもちゃ殺し」と呼ばれたシドの家のカーペットが『シャイニング』の舞台であるオーバールックホテルの模様そっくりだったが、「セカンド・チャンス・アンティーク」もまたオーバールックホテル同様の恐ろしい場所であることが示唆されている。
ウッディとフォーキーは続いて女の子の人形のギャビー・ギャビーと出会う。彼女は元々ボイスボックスが故障しており、そのせいで子供から一度も遊んでもらったことのない人形だった。
ギャビー・ギャビーはウッディにもボイスボックスが内蔵されていることを知ると、そのボイスボックスを奪おうとし、ウッディとフォーキーに襲いかかかる。ギャビー・ギャビーから逃げ回るウッディだったが、店主の孫娘であるハーモニーがウッディを発見、そのままウッディは店の外へ連れ出されてしまう。
一方のバズは、ウッディを探そうと内蔵ボイスの「心の声」に従い、行動を開始する。ウッディを探すために高所から滑空しするが、誤って遊移動園地に落下。射撃店の景品として飾られてしまう。
そこにはぬいぐるみのバニーとダッキー景品として飾られていた。彼らはいつか子供の持ち物となるのを心待ちにしていたが、バズは彼らを利用して、射撃店からの脱出に成功する。
ポー・ピープとの再会
砂場へ連れてこられたウッディはそこで偶然にボー・ピープと再会し、2人でハーモニーのハーモニーの隙を見て、そこから逃げ出す。ボー・ピープはウッディに別れた後の日々を語る。
あの日、モリーの母の知人男性の元へ譲られていったボーだが、その後、彼にも手放され、「セカンド・チャンス・アンティーク」に行き着いたのだという。しかし、そこで何年もほこりを被った生活が嫌になり、自力でそこを抜け出し、今の生活をするようになったのだという。
様々な紆余曲折を経て、現在のボー・ピープはドレスを脱いで、たくましささえ感じさせる女性に変わっている。
ヘッドドレスや日傘も無く、右腕すら取れているが、テープで補強して何ともない顔をしている。『トイ・ストーリー2』で、ウッディの腕が取れた時に、ウッディが慌てて取り乱したのとは対称的だ。
『トイ・ストーリー』の解説で、『トイ・ストーリー』のルーツには日本にある「ブリキのおもちゃ博物館」の存在があると書いた。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://blackmaria-never[…]
個人的にはこの『トイ・ストーリー4』のボー・ピープのキャラクターの変化は、日本語版の声優を務めた戸田恵子ならではの素晴らしさもあると思う。アンパンマンやきかんしゃトーマスの声で見せるヒーロー的な役回りは本来彼女の真骨頂とも言える部分だろう。
実際、セカンド・チャンス・アンティークに着いてからはボーがメンバーのリーダー格となってフォーキーの救出へ動いていく。
『トイ・ストーリー4』では全編を通してポー・ピープがキー・キャラクターであり、ウッディに新しい世界や価値観を案内していく役割も負っていく。
救出作戦
ボー・ピープの羊たちも捕らわれてしまい、ボーは助っ人として、スタントマンのおもちゃ、デューク・カブーンに作戦への協力を依頼する。
しかし、それでも作戦は失敗、ボーはフォーキーの救出を諦めようとするが、子供を幸せにすることを信条としているウッディには到底受け入れられない。2人は喧嘩になり、ボーはウッディから再び去ってしまう。
ウッディは1人でもフォーキーの救出へ向かう。そんなウッディの目の前にギャビー・ギャビーが現れる。ギャビー・ギャビーはウッディに、「一度でいいからあなたのように子供に愛されてみたい、そのためなら何だってする」と言い、ウッディのボイスボックスを要求する。ウッディもそれを了承し、ボイスボックスをギャビー・ギャビーに渡す。
だが、ギャビー・ギャビーは話せるようになってもハーモニーに受け入れられるようにはならなかった。失意に沈むギャビー・ギャビーに、ウッディはボニーの元へ一緒に帰らないかと誘う。
ウッディの決断
一行がボニーの元へと急ぐ中、キャビーは一人で迷子になっている女の子を見つける。ギャビーは彼女のものとなって、彼女を慰めることに決める。
こうしてギャビーは念願の持ち主を手に入れることに成功する。
そして、ウッディとバズたちも合流するが、ウッディには迷いがあった。バズが決断を後押しするように「ボニーは大丈夫だ」と伝える。
ウッディは保安官バッジをジェシーに譲り、みんなと別れて、ボーと新しい生き方を選び、遊園地にとどまることを決めたのだった。
『トイ・ストーリー4』はなぜ賛否両論だったのか
『トイ・ストーリー4』がなぜ日本で賛否両論だったか、今ならわかる。ウッディのように、自分を犠牲にして他の人のために尽くすのは、日本人にとっては美徳なのだ。『忠臣蔵』などまさにそうだろう。作品中でもウッディは自身の行動理由として「忠誠心のためだ」とはっきり口にしている。欧米では逆に早くから子供には自立心を育ませるという。
『トイ・ストーリー3』では、人間側の都合でウッディは恋人と別れなければならなかった。誰かのおもちゃとしての生き方のなんと理不尽なことか。
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ウッディらを「誰かのおもちゃ」として見ると、確かに『トイ・ストーリ4』は批判されてしまうだろう。
だが、持ち主も何も関係ない、「かけがえないおもちゃ」としたらどうだろうか。
今作でウッディは「ボーニーのおもちゃでありながら、彼女から必要とされない」ジレンマを抱えて生きている。ウッディは自分自身を「誰かのおもちゃ」ありきで捉えていた。
だが、本当にそれがウッディの人生の選択として正しいのか。
自分自身に囚われる必要はない。
それが『トイ・ストーリー4』の本当のメッセージだろう。
ちなみに、ボー・ピープとは、マザーグースの童謡に登場する女の子の名前でもある。
最初に発表された詩は次のような内容だ。
どこにいるのかわからない。放っておけば、羊たちは 尻尾をたたえて帰ってくるだろう
しかし、後年、その詩には次のような内容が加えられている。
小さなボー・ピープはぐっすり眠り、羊たちが鳴いている夢を見ました。
しかし、目が覚めると、それは冗談だと分かりました。
羊たちはまだみんな逃げていったからです。
それからボー・ピープは小さな杖を手に取り、羊たちを探しに行くことにしました。