『X-MEN』「偏見と差別」の寓話-ミュータントは何を意味しているのか?

冒頭からなんだが、私はいわゆるスーパーヒーロー映画が好きではない。「スーパーヒーロー疲れ」と言われるのも理解できる。

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だが、現実社会の問題を織り込んだスーパーヒーロー映画もあるのは事実だ。
ワンダーウーマン』には女性の権利の向上、そして『 X-MEN』には人種差別の問題が盛り込まれている。

『 X-MEN』

『X-MEN』は2000年に公開されたアメコミ映画だ。監督はブライアン・シンガー、主演はヒュー・ジャックマンが務めている。原作はスタン・リーが手がけたアメリカン・コミックの『 X-MEN』。

『X-MEN』の物語は1944年のポーランドから始まる。当時のポーランドはドイツによって併合され、ナチス・ドイツの支配下にあった。雨が降りしきる中、兵士たちの監視の下で多くの人々がある場所へと連行されている。連行される人々の洋服には六芒星のバッジがつけられている。

六芒星

2003年に公開された『戦場のピアニスト』は実在のピアニストであるウワディスワフ・シュピルマンの半生を、自身もホロコーストの体験者である、ポーランド出身のロマン・ポランスキーが監督を務めた作品だ。シュピルマンもポーランドの出身で、収容所への連行の途中、間一髪でホロコーストを逃れた経験を持つ。
『戦場のピアニスト』では、ポーランドに住むユダヤ人がどのようにしてホロコーストの犠牲者になったのかが描かれているが、公共の施設への入店禁止に始まり、次に六芒星の腕章を服に着けられるように義務付けられる。六芒星は17世紀以降、伝統的にユダヤ人を表わす記号として用いられており、別名「ユダヤの星」とも呼ばれ、イスラエルの国旗にも採用されている。

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『X-MEN』では、収容所に連行されゆく群衆の中の一人の少年を映し出す。彼の目には痩せて生気のない、縞模様のシャツの人々が映っている。あれが今から自分自身を待ち受ける運命なのか。
ドイツ兵は家族と少年を引き離す。彼らの間はゲートで隔てられ、家族はその向こうへ連行されてしまう。母の叫びに呼応するように、少年もまた激しく母の元へ向かおうとする。
その時、少年の叫びが鉄のゲートを曲げ、男数人がかりでも止められないほどの力を発揮させてしまう。それは、彼が初めてミュータントとしてその能力を爆発させた出来事だった。

そして舞台は現代に移る。かの少年のような特殊な能力を持った人々は、人間とは異なる「ミュータント」として、人間社会からは隔離されていた。
ある日、ミシシッピ州に住む17歳の少女マリーは、キスをした後にボーイフレンドを昏睡状態に陥らせてしまう。 彼女には他人の生命力と能力を吸収するミュータント能力が備わっていたのだ。

ミュータントの危険性について開かれた公聴会では、ミュータントに対して身元と能力の登録を強制にしようと提案する上院議員のロバート・ケリーに対して、証言に立った専門家のジーンがひとたびミュータントだと認めてしまうと、周囲から疎外され、疎まれ、暴力の対象にまでなるという激しいミュータントへの差別の実態が語られる。

偏見と差別

今作の監督を務めたブライアン・シンガーは『 X-MEN』に惹かれた理由を「偏見と差別をテーマにしているからだ」と答えている。
ブライアン・シンガーは自身がゲイであることを公言している。彼の監督作には『ボヘミアン・ラプソディ』などLGBTへ言及した作品もあり、一時はアメリカで初めてゲイを公表して公職に就いた政治家、ハーヴェイ・ミルクをテーマにした『カストロ通りの市長』を監督するという話もあった(結局こちらは同じくゲイを公言する映画監督、ガス・ヴァン・サントが『ミルク』を製作したことで頓挫している)
ブライアン・シンガーは『X-MEN』についてのインタビューの中で、大人になった今でも「どうして自分は普通ではないのか」と思い悩むことがあると告白している。
『X-MEN』の原作者であるスタン・リーはユダヤ人をルーツとするユダヤ系アメリカ人だ。両親は共にルーマニアからの移民だった。ルーマニアでのユダヤ人への迫害を逃れて米国に渡ってきたが、アメリカでもユダヤ人への差別に苦しんだという。ユダヤ人は第二次世界大戦が終わるまで差別を受け続け、自らの国を持てずに世界中を流浪していた。 それは社会の中に居場所のないミュータントと重なる。

プロフェッサーXとマグニート―

マリーは「ローグ」という名前を名乗り、アルバータ州に逃亡する。そこで彼女は、ローガン(別名「ウルヴァリン」)と出会う。ローガンは超人的な治癒能力と指から突き出たるアダマンチウム合金の爪を持つミュータントだ。
成り行きで構想を共にすることになったローグとローガンだが、そこにセイバートゥースというミュータントが襲い掛かる。2人の危機は「X-メン」のメンバーであるサイクロップスとストームの登場によって助けられる。

彼らはチャールズ・フランシス・エグゼビア(プロフェッサーX)率いるミュータントチーム「Xメン」のメンバーであった。チャールズはミュータントと人間の対立を望まず、人間との共存を理想としている。そしてローガンとローグを襲ったミュータント、セイバートゥースは人類の征服を目論む「ミュータント解放同盟」に属している。「ミュータント解放同盟」を率いるエリック・レーンシャー(マグニート―)こそ、あのアウシュヴィッツで生き残った少年が大人になった姿であった。

マグニート―は世界の指導者らをミュータントにし、ミュータントへの迫害を終わらせ、ミュータントの支配する世界を生み出そうとしていた。
エリックに一体何があったのかはシリーズ5作目の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』で語られているので、今回は割愛するが、ここで見ておきたいのは、チェールズとエリックという存在がそれぞれ何を意味しているかということだ。

共存と支配

『X-MEN』はホロコースト以外にも実際の差別問題に強く影響を受けている。それが赤狩りと公民権運動(※)だ。

※公民権運動だけではなく、マグニートーが世界の指導者たちをミュータント化させてさせて自分らを受け入れさせようとする計画は、コンスタンティヌス1世がキリスト教に改宗し、ローマ帝国における初期キリスト教徒の迫害を終わらせたことを連想させる。

先にも述べた公聴会の場で誰がミュータントなのか明らかにしようという提案、これは赤狩りの時代に共産党員または共産党と関わりを持ったと疑惑のあった者たちがリストアップされたことを想起させる。
嫌疑をかけられた人々は公聴会で自らの思想を表明せねばならなかった。そして共産主義者である、もしくはそのシンパと認められれば、社会からは追放され、著しい差別に直面することとなった。
そしてもう一つは公民権運動だ。『X-MEN』におけるミュータントには大まかに分けて2つの人間に対する考えがある。

それは共存と支配だ。

チャールズのモデルは恐らくマーティン・ルーサー・キングだ。キングは非暴力と非服従を貫き、黒人の権利の平等を目指した。その先にあるのは、白人との共存であった。
キングがキング牧師として公民権運動の象徴となる一方で、その思想と対を成したのがマルコムXだ。
マルコムXはネーション・オブ・イスラムの考えに共鳴し、白人を敵視していた。
『X-MEN』でミュータントの権利獲得のためには人類との対決も厭わないマグニートーはマルコムXと言える
もちろん、キング牧師が善でマルコムXが悪という見方は早計で単純過ぎる。
マグニートーにはマグニートーの正義がある。そして、チャールズもそのことを最もよく理解している。

プロフェッサーXの敵はマグニートーではない。

むしろマグニートーとは良きライバルといった感じで、思想的には対立しながらも時折チェスをし合うなどの友好な一面も描かれている。
『X-MEN』について正直に言ってしまえば、主人公のウルヴァリンや他のミュータントは活躍こそするが、この作品の核ではない。

マグニート―を演じたイアン・マッケランもまた、自身がゲイであることを公にしている一人だ。

「有名人でありながら、自分がゲイだと明かせない人がいるのは本当に気の毒。クローゼットにいるのは馬鹿げている。
隠す必要なんてない。自分の心の声を聞け。ゲイの友人の声を聞け。彼らの方がよく分かっている。カミングアウトしろ。太陽の下に出てこい」

ブライアン・シンガーは、『X-MEN』についてこう述べている。

「ミュータントはアウトサイダーであり、権利を剥奪され、孤独であり、その違いが顕在化する思春期にそれらすべてに気づくという寓話だ」

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