
スタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』についての考察だが、前回の「ラストのジャックの写真」についての考察に続いて、作品の最も有名なアイコンでもある「双子の女の子」について考察していこう。
「グレイディ家の双子」
『シャイニング』登場する双子の正体・・・映画を観た人であれば、すぐにジャックの前任となる管理人、チャールズ・グレイディに殺害された彼の娘だということが分かるだろう。
『シャイニング』では、同じような年頃であるジャックの息子、ダニーの前に現れ、「一緒に遊ぼう」と語りかける。だが、ジャックは彼女たちがグレイディに殺害された場面も幻視しており、彼女たちがこの世のものではないことを理解している。

「グレイディ家の双子」を演じたのは当時12歳のリサ・バーンズとルイーズ・バーンズ
グレイディはホテルの斧で妻と娘を手にかけるが、グレイディもまたホテルに取り憑かれた人間であり、その連鎖はグレイディからジャックへ受け継がれていることが分かる。
また、バーのトイレでのジャックとグレイディの会話において、グレイディは妻と娘を「しつけ」たことは認めるも、管理人であることや、妻と子供を殺害した後に頭を撃ち抜いて自殺したことは否定するなど、トイレの人物はジャックが想定する「前任者のグレイディ」とは異なる人物である可能性もあり、グレイディもジャック同様に、転生を繰り返してはその度にホテルに導かれている存在だと考察することもできる。
『シャイニング』が今やホラーの偉大なる古典であることに異議を唱える人はいないだろう(スティーヴン・キングを除いては)。スタンリー・キューブリックの『シャイニング』スタンリー・キューブリックが監督を務めた『シャイニング』はステ[…]
双子の真実
このグレイディ家の双子だが、実はスティーヴン・キングの原作においても、そしてスタンリー・キューブリックの映画版においても、双子だという設定はない。はっきりと示されているのは、2人は姉妹だということだ。 実際に映画のなかでも、ホテルの支配人のアルマンは彼女たちについて「8歳と10歳くらいだったと思う」と述べている。
では、なぜキューブリックは双子に錯覚させるような演出をしたのだろうか?グレイディ家の双子を演じた、リサ ・バーンズとルイーズ・バーンズは正真正銘の一卵性の双子であることから、この演出は意図的に双子に錯覚させていることは明白だ。
スタンリー・キューブリックといえば、左右対称のシンメトリーの構図を好むことでも知られるが、『シャイニング』では特にその傾向が顕著だ。
キューブリックは『シャイニング』の公開当時、対称性について、次のような言葉を残している。
「対称性は最初に安らぎを与えるが、やがて不安を生む」
確かにそうかもしれない。グレイディ家の双子の得も言われぬ不気味さは2人が双子でなければ感じられないものだろう。
ダイアン・アーバスの写真
この「グレイディ家の双子」についてはアメリカの女性写真家ダイアン・アーバスの作品『Identical Twins, Roselle, New Jersey, 1967』が着想元ではないかという声も根強い(キューブリックの妻は否定しているが)。

ダイアン・アーバスの作品『Identical Twins, Roselle, New Jersey, 1967』
実際にキューブリックは映画監督になる前のルック誌のカメラマンとして働いていた頃、ダイアン・アーバスと出会い、写真技術を学んだと言われている。アーバスは社会の縁で生きる人々やアウトサイダーを被写体とした写真を多く残している。
伝記作家のパトリシア・ボスワースは、この「彼女はアイデンティティの問題に取り組んでいた。私は誰で、あなたは誰なのか?双子のイメージは、そのビジョンの核心、つまり異質さの中の正常さと正常さの中の異質さを表現している」と述べている。『シャイニング』の中で語られることもそうではないか。
キューブリックは『シャイニング』について「理性を徐々に失っていく男の物語は、私にとって理想的な題材だった」と述べている。それは言うまでもなく、正常の中の異端が成長し正常を飲み込む物語でもあるし、異端の中に残された正常を探す作業でもあるに違いない。
「グレイディ家の双子」がなぜ『シャイニング』のアイコンなのか、それは彼女たちの存在に対して、私たちが無意識に作品のテーマそのものを感じ取るからではないだろうか?
余談だが、最後に、「グレイディ家の双子」を演じたリサ・バーンズとルイーズ・バーンズについて述べておこう。
撮影当時は12歳だった彼女たちだが、ダニーを演じたダニー・ロイド童同様に現在は俳優業からは引退している。『ハフィントン・ポスト』によると、2014年時点では2人ともロンドンに住み、リサは文学を学び、ルイーズは微生物学者として暮らしているという。