『紅の豚』ポルコ・ロッソは、なぜ豚になったのか?

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スタジオジブリ

紅の豚』は1993年に公開された、スタジオジブリのアニメーション映画だ。監督は宮崎駿、声の出演は森山周一郎が務めている。
さて、『紅の豚』の主人公はタイトル通り豚である。その名はポルコ・ロッソ。

ポルコ・ロッソ

ファシスト政権下、戦間期のイタリアでポルコ・ロッソは真っ赤な飛行艇サボイアに乗る賞金稼ぎとして気ままに暮らしている。とは言ってもポルコは最初から豚だったわけではない。

『紅の豚』の劇中でもわずかに映し出されるが、人間であった頃のポルコは細身でこれぞイタリア男といった中々の伊達男だ。かつてはイタリア空軍のエースパイロットとして活躍していたという華々しい経歴も併せ持つ。

ポルコ・ロッソの正体

だが、映画監督の押井守はポルコ・ロッソの正体は宮崎駿だと看破している。

「主人公の豚は、どう考えたって宮さん自身だからね。それを隠すためにお面をつけているわけだ。本当は豚じゃないからブヒブヒ言わないし、蹄じゃなくて指がある。仮面というか被りものをはずすと、宮さんの顔があるわけだ」

また、加えて『紅の豚』は「言いわけ映画」だとも語っている。押井守の言う言いわけ映画とは、「自分の人生を自己弁護する作品」とのことで、その例にロマン・ポランスキーの『戦場のピアニスト』を挙げている。

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言いわけ映画『戦場のピアニスト』

『戦場のピアニスト』は実在したピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの半生を映画化した作品だ。ユダヤ人であったシュピルマンは、第二次世界大戦の時代、間一髪で強制収容所行きを免れ、ドイツ国内を転々としながら、終戦まで隠れる暮らしを送らねばならなかった。
しかし、爆破されたゲットーの屋根裏で暮らしているときに、ナチス・ドイツの将校であるヴィルム・ホーゼンフェルトに見つかってしまう。しかしホーゼンフェルトはシュピルマンのピアノの腕前を認め、食料や物資を援助していく。そして戦争が終わった時、シュピルマンは解放を呼びかけていたポーランド兵の前に姿を現す。しかし、その服装はホーゼンフェルトから渡されたナチスのコートであった。シュピルマンはナチスと勘違いされ撃たれるが、「私はポーランド人だ!」と叫び、なんとか事なきを得る。

押井守はここにポランスキーの「いいわけ」が顔を出しているという。
ポランスキーもポーランド出身だが、第二次世界大戦後、独裁を強めていくポーランドに早々に見切りをつけ、長編デビュー作『水の中のナイフ』がヨーロッパで評判になると、すぐに活動拠点をに移した。アンジェイ・ワイダをはじめとする他の映画監督や芸術家はポーランドに留まり、その中で作品を作り上げていったにも関わらずだ。

『戦場のピアニスト』ではシュピルマンの人生にポランスキーは自身の人生を重ねている。
ポランスキーはポーランドの映画人からは「祖国を捨てた」ということであまり評判が良くないらしい。だが、ポランスキーは『戦場のピアニスト』の中で「生きるためには仕方なかった」と言っているのだ。そして最後には自分がポーランド人であるということを叫び、自分のアイデンティティはポーランドだと宣言している。

ポルコ・ロッソは、なぜ豚になったのか?

では、『紅の豚』の言いわけとは何だろうか?
それは宮崎駿が平和主義や反戦を公言していながらも、実際は戦闘機であったり、破壊を描くことが大好きという点だろう。
ポルコ・ロッソは、自身への処罰として人間から豚になる魔法を自身にかけたと言われる。
また宮崎駿自身は「第一次世界大戦で自分だけ生き残ってしまった、そのことへの自己処罰ではないか」と述べている。

恐らく、空軍時代のポルコ・ロッソは自国のアイデンティティに共鳴して戦争に参加したのだろう。しかし、実際の戦争において、その空虚さを身を以て実感したのではないか。
つまりは「戦争に加担した罰」というわけだ。ここまでは反戦映画として観るならば非常に分かりやすい。

一方でポルコ・ロッソか宮崎駿の投影ならば、それは明らかに破壊を楽しんできたことへの自己処罰だろう。
天空の城ラピュタ』では、ムスカが自国の軍隊を全滅させている。押井守は「ファンタジー映画なのにここまで描く必要があったのか?」と『ラピュタ』自体は評価してはいるものの、その描写には否定的だ。

反戦主義者ではあるけれども、戦闘機や軍事、ミリタリーマニアであり、破壊が好きという矛盾を宮崎駿は豚の仮面で覆い隠しているのではないだろうか。

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映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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