『告発の行方』のモデルとなった実在の事件「ビッグ・ダン事件」とは何か?

 

告発の行方』はアメリカで社会問題となっているレイプに焦点を当てた作品だ。
今作でレイプ被害者となるサラを演じたジョディ・フォスターは、自身初となるアカデミー賞主演女優賞を受賞(2年後には『羊たちの沈黙』で再びオスカーを手にすることになる)。作品自体も高く評価されている。

さて、この『告発の行方』にはモデルとなった実在の事件がある。それが1983年に起きた「ビッグ・ダン事件」とよばれる事件だ。

ビッグ・ダン事件

本事件の被害者はシェリル・アン・アラウホ。彼女は1960年にマサチューセッツ州ニューベッドフォードで生まれた。
事件が起きたのは1983年3月6日。その日シェリルは長女の誕生日パーティーを開催していた。パーティーが終わった後、シェリルは子供たちを寝かしつけ、友人との食事に出かけた。
食事を終えたシェリルは友人と別れ、帰路につく途中で、タバコが切れていることに気づく。だが、いつもの店が閉まっていた。そこでビッグ・ダンの酒場に立ち寄った。当時シェリルは酒場から少し離れた2階建てのアパートに夫と子供たちと一緒に住んでいた。

ビッグ・ダンの自販機でタバコを購入すると、シェリルは酒を飲んで知り合いの女性客と立ち話をし、と談笑し、ジュークボックスで曲をかけ、酒場の奥で二人の男がビリヤードをしているのを眺めていた。
知り合いの女性が帰ったあと、男の一人が正面のドアに鍵をかけた。その時、バーに残っていたのはアラウホだけだった。彼女が帰ろうとしたところ、ジョセフ・ヴィエイラとダニエル・シルバという男に後ろから掴まれ、ビリヤード台に投げ飛ばされて服を剥ぎ取られた。
そのままシェリルは二人の男にレイプされた。彼女が語るところによると、他の二人の男にはオーラルセックスを強要されたという。

この時、酒場には10名がいた。被害者であるシェリル、この後裁判にかけられることになる6人、バーテンダー、警察に通報しようとした客、そして隅で眠っていた酔っ払いだ。
シェリルは笑ったり、歓声を上げたり、叫んだりする人々の声は聞こえたが、彼女自身の助けを求める叫び声には誰も応えなかったという。それもそうだろう。バーテンダーのカルロス・マチャドは、警察に電話しようとしたところ、ヴィルヒリオ・メデイロスが電話へのアクセスを妨害し、他の客も怖がって介入できなかったと証言した。
シェリルは他の客たちは「まるで野球の試合みたいに歓声を上げていた」と語っている。
「バーにいた他の男たちはただ傍観し、時にはからかい、歓声を上げていた」
後にスタンダード・タイムズ紙のインタビューと、裁判の証言台で、ある男は「やれ!やれ!」と叫んだことを認めた。

暴行は2時間続き、シェリルははなんとか襲撃者たちを撃退し、破れたピンクのセーターと片方の靴下だけを身に着けてビッグ・ダンから逃げ出した。この場面は『告発の行方』の冒頭の場面でもある。
シェリルがレイプされたと叫びながら通りに飛び出したところ、トラックに乗った3人の大学生が恐怖に怯えたシェリルに気づいた。乗客の1人、マイケル・オニールは、シェリルがトラックの前に飛び出してきたとき、「裸の女が通りにいる、裸の女が通りにいる」と叫んだ。同じくトラックに乗っていたマイケルの弟ダニエルによると、シェリルはトラックの前で「ヘッドライトに照らされた鹿のように」立っていたという。
バーから何人かの男たちがシェリルを追って出てきたが、トラックに乗った男たちを見て退散していった。
その後シェリルはその大学生らによって、最寄りの病院に連れて行かれたという。

裁判の行方

このビッグ・ダン事件の裁判では6人の男が起訴された。ジョン・コルデイロ、ビクター・ラポソ、ダニエル・シルバ、ジョセフ・ビエイラは加重強姦罪で起訴され、ヴィルヒリオ・メデイロスとホセ・メデイロスは行為を助長し、それを阻止しなかった罪「共同謀議」で起訴された。
しかし、シェリルの記憶と被告たちの証言との間に食い違いがあったことで、「事件当時シェリルは混乱しており、彼女自身に一部の責任がある」という印象が広まってしまった。この流れも『告発の行方』でほぼそのままなぞられている。

裁判の結果、彼らのうち、ダニエル・シルバ、ビクター・ラポソ、ジョン・コルデイロはそれぞれ9年から12年の刑に服し、ジョセフ・ビエイラは6年から8年の刑に服すこととなったが、控訴によって、誰も実際に6年半以上服役することはなかった。なお、共謀罪で起訴された2人は無罪となった。
さらに裁判後、シェリル自身もポルトガル人であるにもかかわらず、被告らを支持するポルトガル人コミュニティのメンバーから野次を浴びせられた。
コミュニティの中には、犯人たちは民族的にマイノリティであったために不当に長い刑期を言い渡されたと主張する者までいた。

告発の行方』ではサラが飲酒やマリファナを吸っていた事実を理由にサラのほうが有罪になる可能性すら出てきてしまう。彼女の弁護士であるキャサリンは、それをさけるためにサラには無断で司法取引に応じてしまう。つまり、サラと犯人たちは「合意の上で事に及んでいた」とされ、レイプ犯たちは無罪放免されるということだ
キャサリンの行動にサラは深く失望する。その様子を見て、キャサリンは自らの行いを後悔し、事件を再捜査する。そして、事件当時、周りで囃し立てていた者たちを「暴行教唆」で立件しようとする。
『告発の行方』はシリアスな作品だが、一応のハッピーエンドとカタルシスはある。だが、シェリルの人生は映画とは違った。

シェリルのその後の人生

裁判後、地域のなかでシェリルは孤立していくようになり、家族とともにフロリダ州マイアミに移り住み、人目を避けて暮らした。シェリルは酒場のオーナーにも事件の責任があるとして、1000万ドルの訴訟を起こしたが、オーナー側に支払うお金がなたために取り下げられた。
そして、ビッグダン事件から年後の1985年、シェリルは交通事故によって亡くなる。わずか25歳の生涯だった。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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