ゴジラのサイズ変遷から見る、日本の経済発展

今回はゴジラの大きさの話をしたい。1954年に公開された『ゴジラ』の身長は50メートルだった。そこから1975年の『メカゴジラの逆襲』までは一貫してこの身長のままなのだが、1984年に公開された『ゴジラ』では80メートルにまで巨大化している。そして、バブルの絶頂の1991年に公開された『ゴジラvsキングギドラ』ではさらに巨大化して100mの身長に設定された。

怪獣王との異名のとおり、やはりゴジラは圧倒的に巨大で堂々と街を蹂躙していく存在だ。ローランド・エメリッヒ版のゴジラのようにビルとビルの間を全力疾走するモンスターではない。

ちなみにバブルが弾けて不況真っ只中の1999年にはゴジラの身長はかなり縮んで55mに設定された。
こう見ていくと、ゴジラの身長と日本の経済発展には相関関係があるのではないかと思えてくる。

今回は「ゴジラのサイズ変遷から見る、日本の経済発展」と題してゴジラの大きさとその当時の日本の姿を探っていきたい。

1954〜1975年 ゴジラの身長:50メートル



ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ゴジラ(1954)

1954年に公開された『ゴジラ』から1975年に公開された『メカゴジラの逆襲』までゴジラの身長は一貫して50メートルであった。
元々ゴジラの初期案から、その身長については「丸ビルくらい」と設定されていたようだ。丸ビルとは東京都千代田区丸の内に1923年に建てられた丸の内ビルディングのこと。

丸の内ビルディングの高さは31m。超高層ビルが立ち並ぶ今ではそう目立つ大きさではないものの、戦前の時代には日本を代表するビルであり、「東洋一のビル」とさえ言われた。
実際のゴジラは50mなので、丸ビルの倍近い身長だったことになる。ちなみに1954年の日本で最も高い建造物は高さ43m、11階建ての東急会館だった。『ゴジラ』のゴジラはこれよりも大きかったことになる。

古代から巨石や巨木など「大きなもの」を人々は畏敬を込めて信仰してきた。ゴジラの英語表記(GODZILLA)からもわかるように、ゴジラは日本人にとって単なるモンスターではなく、神にも近い存在として作り上げられたのだろう。

ゴジラと百尺規制

ゴジラ』が公開された時代には建築基準法建てる事のできる建物の大きさが決められていた。1920年に交付された建築基準法の前身となる市街地建築物法では、都市に建てられる建物の高さは100尺(約30.303m)に制限された。これは百尺規制と言われる。
百尺規制は1931年には尺貫法からメートル法に改正され、31mまでに変更された。そして戦後を迎え、高度経済成長期に差し掛かった日本には1964年の東京オリンピックを目前にした建設ラッシュが訪れる。その中でそれまでの絶対的な高さではなく、容積率を基準にした規制に変更された。この時代、1968年に竣工した霞が関ビルディングとその翌年に竣工した神戸商工貿易センタービルは数少ない100m超えのビルとなった。

ではその後はゴジラが都会のビルの中に埋もれてしまったのかと言えばそうではない。
ちょうどこの頃はゴジラ映画もテレビの普及などによる映画の不況の煽りを受け、制作費は激減し、市街地ではなく費用が安くつく荒野などでの戦いが多くなっていた(その代表例が『ゴジラ対ヘドラ』だろう)。

ゴジラが再び市街地に戻るのは平成ゴジラシリーズの第一作、1984年に公開された『ゴジラ』からだ。

1984〜1989年 ゴジラの身長:80メートル

ゴジラ(1984) 1/250 ソフビキット復刻版

1984年の『ゴジラ』は原点回帰的な作品となり、第一作目のみの設定が生かされ、ニ作目の『ゴジラの逆襲』以降のストーリーはなかったことにされている。今作以降から『ゴジラvsデストロイア』までを平成ゴジラシリーズと呼ぶ。

さて、この『ゴジラ』のゴジラは当初身長100mと設定されていたのだが、それだと高層ビル以外のミニチュアが小さくなりすぎるため、特殊美術の井上泰幸によって、高層ビル以外のミニチュアは本来の縮尺である1/50ではなく1/40スケールで制作され、それにともなってゴジラの身長もそれに合わせて80メートルという設定に改められたという。
『ゴジラ』ではゴジラより周囲のビル群のほうが大きく、当時の日本の経済成長の凄さを感じさせられる。

1991〜1995年 ゴジラの身長:100メートル

[バンダイ] ムービーモンスターシリーズ ゴジラ(1991)

そしてバブル絶頂期の1991年に公開された『ゴジラvsキングギドラ』は経済発展の象徴ともいうべき、新宿の超高層ビル街が戦いの舞台となる。
本作から『ゴジラvsデストロイア』まで、ゴジラの身長は100mに設定されている。

本作には新堂という男がゴジラと見つめ合うシーンがある。ビルの一室にいる新堂と、ゴジラの目線が同じ高さになっているのだが、それはすなわちゴジラよりも超高層ビルの方が遥かに高いということでもある。ちなみに映画のクライマックスでは前年の1990年に竣工したばかりの東京都庁(高さ243m)が破壊されている。
『ゴジラvsキングギドラ』には当時のバブルへの批判が込められているのだが、新堂の築いた超高層ビルをゴジラが破壊するシーンにもまたそのメッセージが表されているようにも感じる。
だが、『ゴジラvsキングギドラ』公開後にバブルは崩壊する。では、不況に突入した2000年代前後に公開されたゴジラはどうだったのか。

1999~2000年 ゴジラの身長:55メートル

『ゴジラ2000 ミレニアム』ゴジラ2000 PVC製 全高約30cm

1995年に公開された『ゴジラvsデストロイア』でゴジラは死ぬが、その後、1999年に『ゴジラ2000 ミレニアム』として復活する。この作品でのゴジラの身長は55mだ。日本経済とともに成長してきたゴジラの身長も、ここで1つの分岐点を迎えたように思う。
言い換えれば、ゴジラが、経済成長という呪縛から解き放たれたとでも言えばいいだろうか。

まだバブルの名残の会った90年代の前半には「24時間戦えますか」というリゲインのCMのキャッチコピーに代表されるように、まだ極端ながむしゃらさが許容されていたのだが、そこから社会のキーワードは多様化していく。例えばがむしゃらに働いてきた人々を立ち止まらせるかのように「癒やし系」がブームになったりした。

ここからゴジラの身長も単に日本の大都市の中でも目立つ大きさ、という理由ではなくなる。
特殊技術を担当した鈴木健二は、ゴジラの身長を高層ビルに合わせるのではなく、むしろ恐怖を演出するためにあえて55mと設定したという。
ちなみに50mではなくて、55mとなったのは「ゴジラ」のニックネームを持つ野球選手、松井秀喜の背番号に由来しているともいう(松井秀喜は本人からの希望もあり、2002年に公開された『ゴジラ×メカゴジラ』に本人役で出演している)。

このミレニアムシリーズは、それまでよりも作品同士の連続性が薄くなり、独立した世界観の作品が多いのも特長だ。
『ゴジラ2000 ミレニアム』の次の作品は『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦だが、『ゴジラ2000ミレニアム』とのつながりはない。
『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』のゴジラは第一作目の『ゴジラ』で倒されたはずのゴジラが生きていたという設定なのだが、身長は『ゴジラ2000ミレニアム』と変わらずに55mだ。次にゴジラの身長が変わるのは2001年に公開された『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』だ。

2001年 ゴジラの身長:60メートル

ゴジラ ネカ 12インチ アクションフィギュア

ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』ではゴジラは60mの身長になっている。ゴジラはそのシリーズを通して、ほとんどが人類の味方であり、子供たちのヒーローとして描かれてきた。
だが、一番最初の『ゴジラ』は怖いゴジラだった。その恐怖が表していたものは戦争であり、原爆であり、『ゴジラ』は怪獣映画、特撮映画であると同時に強烈な反戦映画、反核映画でもあった。
本作では原点回帰した怖いゴジラが特徴的で、白目を剥き、どっしりとした体形は生物を意識したというよりも、むしろゴジラの超自然的な側面を強く感じさせる。

2002~2003年 ゴジラの身長:55メートル

S.H.モンスターアーツ ゴジラ×メカゴジラ ゴジラ (2002)

次は機龍二部作と呼ばれる『ゴジラ×メカゴジラ』、ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』だ。ミレニアムシリーズの中で本作のみが連続した世界観の作品となっている。とはいってもミレニアムシリーズ全体から見れば『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』が異色作であり、機龍二部作ではゴジラのデザインも『ゴジラ2000ミレニアム』、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』に近いものに戻されている。

2004年 ゴジラの身長:100メートル

S.H.モンスターアーツ ゴジラ (2004)

ミレニアムシリーズの最終作となる『ゴジラ FINAL WARS』ではそれまでのゴジラ映画の集大成かつ、お祭り騒ぎのような映画にしたいとのことから、ゴジラの身長もそれまでの最大サイズとなる100mに戻っている。
ちなみに『ゴジラ FINAL WARS』の興行収入は12億6,000万円に留まり、観客動員数も100万人と歴代ゴジラ28作品中ワースト3位という結果に終わっている。同じく平成ゴジラシリーズの最終作として公開された『ゴジラvsデストロイア』は興行収入20億円、観客動員数400万人であり、対称的な数字を残している。

2016年 ゴジラの身長:118.1メートル

S.H.モンスターアーツ シン・ゴジラ ゴジラ (2016)

2016年に公開された『シン・ゴジラ』に登場するゴジラは118.5mとそれまでのゴジラの最大サイズだった100mを超える高さになった。ちなみにこの身長だと、キリのいい120mでも良かったのではないかと思ってしまうが、総監督を務めた庵野秀明がミリタリーマニアのために陽炎型駆逐艦の全長(118.5m)から採ったのではないかという説もある。
今作ではゴジラはフルCGで制作されるようになり、それまでの子供向け映画のイメージを刷新する、大人向けの新しいゴジラ映画となった。
今作では興行収入は80億円を記録。

2023年 ゴジラの身長:50.1メートル

バンダイ(BANDAI) 怪獣王シリーズ ゴジラ(2023)

2023年に公開された『ゴジラ -1.0』に出てくるゴジラの身長は50.1mに設定されている。ほぼ初代のゴジラと同じ大きさと言っていいだろう。
山崎貴監督は『ゴジラ -1.0』のゴジラの大きさについて以下のように述べている。
「ゴジラはビルの高層化に伴って年々大きくなっているが、実は小さい方が生々しさや現実感があって怖い。
50メートルくらいだと見上げた時に目が合う感覚もあるし、ゴジラと人間を一緒に撮ることもできる」
しかし、実際のゴジラのサイズは50.1mで50mより10cm高い。これはなぜなのだろうか。
実際は深い意味はなく、元々はゴジラの身長は50mになるように依頼していたのだが、完成したCGのモデルを正確に測ったら10cm高かったのだという。
VFX出身の山崎貴監督らしく『ゴジラ -1.0』ではハリウッド映画と遜色ないクオリティの特殊効果に圧倒される。
『ゴジラ-1.0』はアジア圏として初のアカデミー賞で特殊効果賞を受賞しており、日本の映画史にとってもエポックメイキングとなる作品になった。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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