歴代『ターミネーター』シリーズが反映してきた時代とテクノロジーの進化

1984年に公開された『ターミネーター』がジェームズ・キャメロンの悪夢から生まれた物語というのは有名だろう。
ジェームズ・キャメロンの初監督作品は『ピラニア』の続編として1981年に公開された『殺人魚フライングキラー』というB級ホラー映画だが、キャメロンにとっては監督に抜擢されたにも関わらず、2週間程度で解雇され、かつその出来も良くなかった(さらに監督のクレジットにはそのままキャメロンの名前が残された)。
そのことからキャメロン自身、『殺人魚フライングキラー』は初監督作として認めたくないほどの作品となった(ちなみに『ピラニア』は大ヒットし、『ジョーズ』を監督したスティーヴン・スピルバーグもその出来を「『ジョーズ』の亜流の映画では最も素晴らしい」と絶賛、『ピラニア』の監督のジョー・ダンテはキャメロンと対称的に監督として注目される契機となった)。

さて、『殺人魚フライングキラー』の評判にショックを受けたジェームズ・キャメロンは高熱を出し寝込んでしまう。
その時に殺人マシンが自分を殺しに来るという悪夢が『ターミネーター』の元となった。

しかし、『ターミネーター』に込められたものはそれだけではない。
今回は歴代の『ターミネーター』シリーズがその時の時代をどのように反映しているかを見ていきたい。
いわば、『ターミネーター』シリーズを通して、世界の歴史とテクノロジーの発展を見ていこうというわけだ。

『ターミネーター』と冷戦構造の反映

ターミネーター』は1984年に公開されたジェームズ・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSF映画だ。

近未来、高度に発達したA.I.であるスカイネットが自我に目覚め、人類に反旗を翻した。8月29日、スカイネットはソ連に向けて核攻撃を行い、ソ連は報復としてアメリカにやはり核攻撃を行った。こうして世界は核兵器により壊滅的な打撃を受け、30億人もの犠牲を出すことになった。
そのきっかけの日を「審判の日」という。
それから人類とスカイネットとの戦争が始まる。当初劣勢だった人類だが、ある男の登場により、勝利は目前の所まで来ていた。その男の名はジョン・コナー。
追い詰められたスカイネットは奇策としてタイムマシンを開発し、1984年のロサンゼルスへターミネーターを送り込む。
抹殺のターゲットはサラ・コナー。後にジョン・コナーの母親となる人物だ。
対する人類側の抵抗軍もタイムマシンを奪い、スカイネットの作戦を阻止するためにカイル・リースという兵士を1984年に送り込む。

ここで注目したいのが、「審判の日」の日付だ。実はこの8月29日という日付はソ連が初めて核実験に成功した日だ。
2023年に公開された『オッペンハイマー』はアメリカの科学者、ロバート・オッペンハイマーが原子爆弾を開発するまでが大きなストーリーの一部となっているのだが、アメリカの原爆開発の裏には、第二次世界大戦終結後のソ連との対立を睨み、軍事的に圧倒的な優位に立ちたいという思惑があった。そのためにソ連が原爆開発に着手する前にアメリカは原爆を成功させておく必要があった。
しかし、『オッペンハイマー』の劇中でも示されるように、オッペンハイマーの開発チームの中にはソ連のスパイが紛れ込んでいた。
そして、1949年の8月29日にソ連は核実験を成功させる。それは冷戦構造と相まって、核戦争の脅威が現実化した瞬間でもあるだろう。アルバート・アインシュタインは「第三次世界大戦でどのような兵器が使われるかは分かりませんが、第四次世界大戦はこん棒と石で戦われるでしょう」と述べた。

また、『ターミネーター』が公開された1980年代は共和党のロナルド・レーガンが政権に就いた時代でもあった。「強いアメリカ」を反映するかのように、『ターミネーター』は無敵のサイボーグであるT‐800が任務の邪魔になる人々を殺しまくる。
1985年には前年の『ターミネーター』から一転してシュワルツェネッガーが正義の味方となった『コマンドー』が公開される。日本ではカルト映画としてコアな人気を誇る本作だが、レーガンの志向する「強いアメリカ」にはむしろ本作の方がマッチする。何しろ一人の筋骨隆々の主人公のジョン・メイトリクスが92分の本編の中で74人を殺すのだから。加えてメイトリクスが戦うのは共産主義の独裁者とその支援者たちだ。もちろん共産主義の背後にソ連がいるのは言うまでもない。また、レーガンはキリスト教福音派の協力なサポートを得て大統領選挙を勝ち上がったが、『ターミネーター』にもキリスト教の影響は少なからずある。救世主であるジョン・コナーのイニシャルはJ.C.であり、これはジーザス・クライストの頭文字と重なる。また、ストーリーの中で終盤になるまでジョン・コナーの父親が誰かということは明かされず、そこへの言及もほとんどなされない。

父親の不在という意味ではキリスト教におけるマリアの処女懐胎にも通じるように感じるのは考えすぎだろうか?
とにかく、この1980年代という時代には『ランボー』や『コマンドー』など強いアメリカを体現するような肉体派アクション映画の黄金時代であった。
『ターミネーター』もまたその一翼を担った作品には間違いない。

『ターミネーター2』機械=絶対悪からの脱却と冷戦の終わり

そして、1991年、7年ぶりに『ターミネーター』シリーズが復活する。『ターミネーター2』だ。実は「審判の日」の詳しい状況や、誰がスカイネットを開発したかなどは『ターミネーター2』で明かされる。
だが、ここで注目したいのはシュワルツェネッガー演じるT-800が味方サイドで登場していることだ。これには当然ながらシュワルツェネッガーのスターとしての人気がその理由であることと、もう一つ、機械=絶対悪という図式からの脱却だ。この記事の『ターミネーター』の項目で見たように『ターミネーター』におけるスカイネットの脅威にはソ連の脅威も重ねられている。『ターミネーター』が示しているのは、今の平和がどれだけ危ういバランスの上に成り立っているのかということだ。
だが、1989年にソ連の書記長だったゴルバチョフと当時のアメリカ大統領のジョージ・W・H・ブッシュ会談を行い、冷戦終結を宣言した。
そして1991年の冬にソ連は崩壊する。

『ターミネーター2』の大きなテーマは機械に生命の価値が学べるのかというものだ。それができた時、ターミネーターはただの殺人マシンではなくなる(このテーマは『ターミネーター2』の正当な続編として製作された『ターミネーター:ニュー・フェイト』でさらに推し進められる)。『ターミネーター2』では少年のジョン・コナーが自らを守る任務を負ったターミネーター、T-800に「人間を殺してはいけない」と命令する。T-800はその命令とジョンとともに過ごすことで、生命の価値を学んでいく。

審判の日が核戦争の始まりの日とは先に述べたが、『ターミネーター2』のエンディングでは、サラ・コナーによって次のようなモノローグが語られる。
「未来は先の見えないハイウェイだ。だが今はその先に希望の光が見える、機械のターミネーターですら生命の尊さを理解できたのだから、私達人間にできないはずはない」
核も核兵器として利用する道もあれば、平和利用する道もある(核自体のリスクはあるものの)。
機械=絶対悪ではなく、それを人間がどう扱っていくのか。まさに冷戦の終結があったからこそのテーマだと思う。

次はテクノロジーの進化に目を向けてみよう。『ターミネーター3』だ。

『ターミネーター3』とインターネットの普及

2003年に公開された『ターミネーター3』は『ターミネーター2』以来、12年ぶりの作品となった。とは言っても、シリーズのファンからの評価は決して高いとは言えない。
作品設定として基本的なジョン・コナーの年齢の計算を間違えていたり、『ターミネーター』、『ターミネーター2』のストーリー全体の目的だった審判の日の回避が不可能という、いわば過去作全否定のようなストーリーだったりが批判されたからだ(それでも『ターミネーター2』の正当な続編と謳った『ターミネーター ニューフェイト』が公開されてからは『ターミネーター3』も再評価されている部分はあるが)。
『ターミネーター3』で顕著なのはテクノロジーの進化だ。それまで中枢のシステムがあるとされてきたスカイネットの設定が、インターネットを介した分散型システムと再定義されたことだろう。当たり前のことだが、過去2作の時代にはインターネットはほぼ存在していなかった。ただ、これは実質的に破壊が不可能なことから『ターミネーター3』においては審判の日が避けられないことへの強力な理由付けにはなっているのだが、破壊できないことが『ターミネーター』シリーズ上の大きな問題となるため、スカイネット『ターミネーター4』では再び『ターミネーター』、『ターミネーター2』に準じた設定に戻されている。

『ターミネーター4』マーカスと機械と人間の境界

では次は2009年に公開された『ターミネーター4』だ。今作からは舞台を「審判の日」以降に移し、本格的にスカイネットとの戦争に突入した未来世界を描いている。個人的には『ターミネーター3』の失敗をできるだけ修正し、かつサイバーパンクな荒廃した未来を表現した世界観やデザインも秀逸だと思う。そして何よりもこれ以上「未来からやってきた殺人マシンと戦う」という『ターミネーター』シリーズの定型は持たなかったと思うのだ。そんな意味でも未来に軸足を移した本作のチャレンジングな姿勢は評価したいと思う。

さて、本作で登場するのがT‐RIPと呼ばれる潜入専用型のターミネーターだ。
死刑囚であったマーカス・ライトがサイバーダイン社に死刑後の肉体を献体することに同意したことから、未来世界においてターミネーターとして蘇生したモデルで、興味深いことに機械の肉体が露呈するまで、マーカスは自身が人間だと信じていたことだ。『ターミネーター4』のテーマは「機械と人間の違いはなにか」ということだ。マーカスは終盤で自分の意志として行動していたことが、スカイネットにより埋め込まれていたプログラムによるものだという真実を告げられる。するとマーカスは自分で埋め込まれたチップを破壊し、プログラムを無効化するのだ。

『ターミネーター4』のエンディングでは「人間と機械の違いについて『心の強さ』によって決まる」となんとも曖昧な表現のモノローグで語られていたが、プログラムで規定されない自由意志を獲得できるかどうかが、人間と機械の違いだろう。
T-800に代表されるターミネーターは機械の体を生体組織で覆うことで、見た目は生身の人間と何も見分けがつかなくなった。
『ターミネーター4』においては、その中身まで人間と変わらないターミネーターが登場している。それはAIが既に現実世界でも現実的なテクノロジーとして議論され始めた時期だからだろう。
このAIの発展については『ターミネーター ニュー・フェイト』でまた詳しく見ていくとして、次は再びテクノロジーに戻ってみよう。

『ターミネーター:新起動/ジェニシス』ナノマシンというテクノロジー

2015年に公開された『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は『ターミネーター』シリーズ初のリブートとなった『ターミネーター:新起動/ジェニシス』。『ターミネーター4』ではカリフォルニア州知事職にあったアーノルド・シュワルツェネッガーも今作からシリーズに復帰している。

今作でのジョン・コナーはカイル・リースを過去に転送する際にターミネーターに襲われ、自らもナノ粒子で構成される新型ターミネーターのT-3000へと改造されてしまい、母のサラ・コナー以外の人類を滅亡させようとしている。
さて、このT-3000は今までの最新ターミネーターとは違い、体が液体金属ではなく、ナノマシンによって構成されていることが特徴だ。
ナノマシンに関しては現在医療分野での研究が続けられており、そういった意味でも液体金属に比べてより現代的なテクノロジーがT-3000には採用されていると言ってもいい。ちなみに、2014年公開の映画『トランセンデンス』でも肉体的な死を迎え、AIの意識だけの存在となった主人公が、ナノマシンによって肉体を得るという描写がある。
そして、現時点でのシリーズ最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』ではそのAIに主題が置かれている。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』現実味を帯びてきたAIの可能性

『ターミネーター:ニュー・フェイト』では18年ぶりにジェームズ・キャメロンがシリーズに復帰したことでも話題になった。
『ターミネーター4』で取り上げたマーカスにはまだ身体的に人間の部分があったが、2019年に公開された『ターミネーター:ニュー・フェイト』ではなんとT-800が自発的に人間として生きることを選択している。
この機体はジョン・コナーの殺害に成功するものの、その時点ですでにスカイネットは消滅し、かつ自身の任務も遂行しているために、「空」の状態であった。そして、ある家族を助けたことをきっかけに、良心が芽生え、ジョンを殺した後悔の意識まで持つに至っている。そして今ではカールという名前を名乗り、カーテン屋として生計を立てている。自分の意志で完全に人間として生きることを選択したというのは非常に興味深い。
現実的にここまでの自律的な学習は今のAIにはまず無理な話だが、将来における可能性の一つとして、ジェームズ・キャメロンは『ターミネーター:ニュー・フェイト』のT-800というキャラクターを創造したのだろう。

こうしてみると、『ターミネーター』シリーズがいかにも時代に伴うテクノロジーの進歩とそれに向き合う私達の姿勢を描き続けているのかがわかる。
今後新作が作られるのかは不明だが、次の『ターミネーター』は一体何を映すのだろうか。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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