なぜ『ターミネーター3』は批判されるのか?酷評の理由と再評価

※以下の考察・解説には映画のネタバレが含まれています


1999年に公開された『ファイト・クラブ』ではブラッド・ピット演じるタイラー・ダーデンがテロ行為としてウェイターとして働く合間に客に出すスープに小便をするシーンがある。
ん、こんな言葉、どこかで聞いたような…。

「スープに小便をかけられたような気分だ」
ジェームズ・キャメロンが『ターミネーター3』を評した時の言葉だ。
その後もキャメロンは『ターミネーター:新起動/ジェニシス』公開の際には「今作は私にとって『ターミネーター3』だ!」との表現で称賛してみせたり(後に『ターミネーター:新起動/ジェニシス』への好意的なコメントは本意ではなかったと訂正)、自身がシリーズにカムバックした『ターミネーター:ニュー・フェイト』ではそもそも『ターミネーター3』以降のシリーズを無かったことにするなど、『ターミネーター3』はよっぽど腹に据えかねる作品だったのだろう。

ジェームズ・キャメロンだけでなく、『ターミネーター3』は『ターミネーター』シリーズのファンからの評価は概ね低い。『ターミネーター4』の公開が決まったとき、『ターミネーター4』は『ターミネーター3』とは別のタイムラインの話になると報道されたが、多くのファンは『ターミネーター3』が事実上黒歴史化することに安堵していたように思う(実際には『ターミネーター3』の続編だったが)。

今回は『ターミネーター3』がなぜ失敗したのか、そして公開から20年が経った今、改めて『ターミネーター3』の魅力を見つめ直してみたいと思う。

『ターミネーター3』

『ターミネーター3』は2003年に公開されたジョナサン・モストウ監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSF映画だ。1991年に公開された『ターミネーター2』以来12年ぶりの続編となった。
この12年という期間は『ターミネーター』シリーズの中でも最長のブランクだ。
そもそも『ターミネーター2』の続編にキャメロンは反対していた。キャメロンは『ターミネーター2』の後に『トゥルーライズ』と『タイタニック』を監督している。『タイタニック』の後にまとまった期間があったとうが、その際にも意図的に『ターミネーター』シリーズとは関わらないようにしたそうだ。
反対にシュワルツェネッガーは続編を作りたがっていたようだが、そんなシュワルツェネッガーにキャメロンは『お金以外なにも残らないからやめておいた方がいい』とさえアドバイスしている。

この言葉をひっくり返すと、それほどまでに『ターミネーター2』はシリーズとして完璧な結末を迎えていたということだ。
『ターミネーター2』ではスカイネットを破壊し、チップなどターミネーターが現代に残した「証拠」もすべて破壊している。 その時点でスカイネットが誕生する可能性は極めて低く、かつ敵のターミネーターであるT1000も溶鉱炉に落とされ完璧に消滅している。スカイネットが誕生しなければ、審判の日も訪れることはない。

なぜ『ターミネーター3』は批判されるのか?

先伸ばしになっただけの審判の日

だが、『ターミネーター2』で回避したはずの審判の日が『ターミネーター3』では先伸ばしになっただけと説明されている。『ターミネーター3』が批判されるのはこの部分も大きい。『ターミネーター2』までの努力がすべて無駄になってしまうのはもちろん、シリーズを通して発してきたメッセージ「未来は変えることができる」を否定したことになるからだ(これに関しては日本版のキャッチコピー「恐れるな、運命は変えられる」も責任があるだろう)。
ジェームズ・キャメロンは『エイリアン2』の監督も務めているが、『エイリアン3』の、冒頭でリプリー以外の生存者はすべて宇宙船の着陸時に死亡ということになっていた。
この点でもキャメロンは『エイリアン3』の監督であるデヴィッド・フィンチャーを批判している。

『ターミネーター2』の焼き直し

そして、『ターミネーター2』の焼き直しに過ぎないとの批判も大きい。
確かに敵の新型ターミネーターとT-800型(今回はT-850)が未来からタイムスリップし、T-800は人類の味方としてコナー側で新型ターミネーターと戦うというのは『ターミネーター2』そのままだ。

ラブストーリーやヒューマニズムの欠如

監督のジョナサン・モストウは自身が『ターミネーター』シリーズのファンであり、ファンとして自分が観たい内容の映画を作ったというが、『ターミネーター3』を観ると、果たして『ターミネーター』シリーズの魅力を掴みきれているのか疑わしくも思う。先に述べたように「運命は変えることができる」というシリーズの根幹を揺るがすメッセージもそうだが、『ターミネーター』シリーズの魅力は機械VS人間のスリルやアクションではなく、ラブストーリーやヒューマニズムにあるのだと思う。

ターミネーター』のカイル・リースとサラ・コナー、『ターミネーター2』のジョンとT-800、彼らの成長と別れの物語とも言える。
例えば『ターミネーター』だとサラとカイルの愛と別れが描かれる。未来からやって来たカイルにサラは疑いの目を向けるが、カイルは命を懸けてサラを守り抜き、二人の間には愛が芽生える。そして、サラはカイルの後を継いでターミネーターを倒す。
『ターミネーター2』では人類の救世主となる少年、ジョン・コナーとT-800の出会いと別れが描かれる。今作ではT-800がジョンやサラとの交流を経て生命の尊厳を学び、「人間がなぜ泣くのかわかった」と言い残す。ジョンにとってもT-800の存在は単なるサイボーグではなく、かけがえのない保護者、実質的な父親とも言える存在になる。だからこそ、別れのシーンは私たちの心をどうしようもなく揺さぶるのだ。
しかし、『ターミネーター3』にはそれがない。実際に、『ターミネーター』『ターミネーター2』でサラ・コナーを演じたリンダ・ハミルトンも『ターミネーター3』への出演オファーもあったのだが、「この脚本にはドラマがない」との理由で断っている(『ターミネーター4』には音声のみで出演)。

また、監督自身『ターミネーター』シリーズのファンといいながら、ジョン・コナーの年齢設定を間違っているのは致命的なミスだろう。これほど分かりやすいミスなのに誰も指摘しなかったのだろうか?

今回、解説を書くにあたり、『ターミネーター3』のDVDでジョナサン・モストウのコメンタリーを全て確認したのだが、リンダ・ハミルトンに断られたにも関わらず、「リンダは必要ないことがわかった」と言ってみたり、『ターミネーター3』は制作費の節約のために当初はカナダで撮影が予定されていたのだが、シュワルツェネッガーの意向でロサンゼルスでの撮影に変更になったにも関わらず、「ロスで撮影を決めたのは、『ターミネーター』にふさわしい場所だからだ」と言ってみたりといった部分が目立った(ちなみに最も目立ったのは撮影費用の節約テクニックだ。これはコメンタリーのほぼ全編にわたって言及されている)。もちろん、真実が何かはわからないが、個人的には多少自分自身を過信する傾向にあるのか?と感じたのも確かだ。

『ターミネーター3』の魅力

ただ、『ターミネーター3』には当時の時代を反映した興味深い設定も多い。
その一つがインターネットの発展だ。それまでスカイネットは一つのコンピューターだと設定されていたのだが、『ターミネーター3』では分散型コンピューターネットワークの名称となり、劇中のジョン曰く「システムの中枢なんてない、だから破壊できない」(ただこの設定だと機械がどうしても倒せなくなるため『ターミネーター4』では再び中枢型に戻されている)。

今回の『ターミネーター3』の演出で素晴らしいのはTー850が再びプログラムを書き換えられてジョンを殺害しようとする場面だ。
もちろん、とてもターミネーターには思えない分かりやすい戸惑いや葛藤の表情の演技や「自分の意思などない、私はマシーンだ」そう言った数分後に自分の意思で停止するのには苦笑してしまうが、改めてT-850は正義の味方ではなく、あくまでサイボーグに過ぎないのだと思い知らされる場面だ。ここは終始「正義の味方」として活躍する『ターミネーター2』と比べても優れていた部分だろう。
欲を言えば個人的には一見元に戻ったように見えても本当にジョン殺害の指令は削除されたのかわからないくらいのスリルは欲しいとは思うが、ただ、T-850とジョン・コナーの関係は『ターミネーター2』の頃とはかなり異なっているのも確かだ。

『ターミネーター2』では先に述べたように保護者と子供の関係だった二人の関係だが、『ターミネーター3』ではT-850はあえてジョンを挑発したり、危機的な状況に陥らせるなど、いわば「指導者」のようなポジションに変化している。
ジョンとT-850の間にはどこか最後まで距離を感じるが、それはジョンがその分大人になったということでもあり、また人類の指導者として、「守られる存在」ではなくなりつつあることの表れでもあるのだろう。
ただ、繰り返すようだが、『ターミネーター3』は一般的な評価は決して高くはない。

『ターミネーター3』の再評価

だが公開から長い時間が経って再評価する声もある。というのは、ジェームズ・キャメロンがカムバックした『ターミネーター:ニュー・フェイト』では冒頭でジョン・コナーが死んでしまうからだ。『ターミネーター:ニュー・フェイト』は確かにヒューマニズムもあり、エモーショナルな作品で、その意味では『ターミネーター』シリーズに不可欠な要素を押さえてはいるものの、ファンの思い入れのあるキャラクターをあっさり退場させるという意味では、賛否両論を呼ぶ結果となった(コラム『ジョン・コナーとは何だったのか?時代に翻弄された救世主』で詳しくのべているが、そもそも『ターミネーター』シリーズのなかで徐々にジョン・コナーの救世主としての役割は小さいものになっていく)。

しかし、変わらずにジョン・コナーに救世主としての役割を望む人々にとっては『ターミネーター3』こそがそれを叶える唯一の続編映画なのだ。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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