『ジョン・ウィック:コンセクエンス』ジョン・ウィックに待ち受ける人生の報いとは?


※以下の考察・解説には映画のネタバレが含まれています


『ジョン・ウィック』シリーズ最新作の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』。原題は『John Wick: Chapter 4』だが、邦題のコンセクエンスには報いという意味がある。
これまでにジョン・ウィックが置かした行為や、また彼の周囲の犯罪組織の人々への報い。
まさに本作は彼らの因果応報に焦点を当てた物語となった。

これまでの『ジョン・ウィック』

『ジョン・ウィック』シリーズの敵や世界観は続編が公開されるごとにスケールアップしていった。『ジョン・ウィック』ではかつて所属していた組織、『ジョン・ウィック:チャプター2』ではイタリアの犯罪組織の主席、『ジョン・ウィック:パラベラム』では各国の主席から構成される主席連合というように。

『ジョン・ウィック』シリーズはアクション・エンターテインメントとしては本当に良くできているものの、人間ドラマとしては回を増すごとに薄味になっていくのが不安ではあった。

キアヌ・リーヴス演じるジョン・ウィックは裏社会にその名を轟かせる最強の殺し屋だが、妻となる女性、ヘレンと出会ったことで裏社会から足を洗い、平穏な暮らしを送っていた。しかし、5年後に妻が病気で亡くなる。悲観にくれるジョン・ウィックに亡き妻ヘレンから仔犬のプレゼントが届く。新たな生き甲斐を得たジョンだったが、ジョンの車を欲しいと言ってきた街の不良たちの襲撃を受け、無惨にも愛犬は殺されてしまう。
その不良はかつて所属していた組織のボスの息子だった。ジョンは復習のために再び裏社会へと復帰する。これが一作目の『ジョン・ウィック』の始まりだった。

復習を果たしたジョンは再び平穏な暮らしに戻ろうとするが、裏社会の掟がそれを阻む。掟に背こうとするジョンはかつて協力を仰いだイタリアの犯罪組織の主席から思い出の家を爆破され、再び復讐と掟のために戦いに身を投じていく。
そして、「コンチネンタル・ホテル」の中では殺人を犯してはいけないというルールを破ったことで、所属していた主席連合を追放され、世界中の暗殺者から狙われるようになる。これが『ジョン・ウィック:チャプター2』の内容だ。

『ジョン・ウィック:パラベラム』では、暗殺を止めるために主席連合のトップである首長に会いに行く。条件として結婚指輪と薬指、そしてコンチネンタル・ホテルの支配人であるウィンストンの殺害を命じられたジョンだが、ウィンストンとジョンは共にその指令を拒否し、主席連合の刺客をコンチネンタルホテルで迎え撃つ。
だが、支配人のウィンストンは主席連合側に着いており、ジョンを裏切りホテルの屋上から落ち落とす。
死んだかに思えたジョン・ウィックにだったが、ニューヨークの地下組織の王、バワリー・キングに助けられ、主席連合への復習を誓う。
これが前作『ジョン・ウィック:パラベラム』までの大まかな内容だ。

平穏な日々を望んでいるのとは裏腹に、実際には復讐と裏切りの中で生きる人生を選び続けている。その事がシリーズを観続ける中で不満だった。ジョン・ウィックの本来の目的は平穏に暮らすことではないのか?

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

だが、今作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』はそうではなかった。監督のチャド・スタエルスキは、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の結末についてハッピーエンドでは終わらないと公言していた。
「彼が夕日の中を走り去ると思うか?彼は300人を殺したんだよ、彼はただ立ち去るのか?すべてが大丈夫なのか?」
そう、ジョン・ウィックもまた報いを受けなければならない一人なのだ。今作ではそれが描かれる。ジョンの今までの行動一つ一つが、彼の罪として悲劇を生んでいく。

前作で主席連合への復習を誓ったジョン・ウィックは、首長の手下を殺害する。
「私を殺しても次の後継者が現れるだけでなにも変わらない」
そう言う首長を殺して去る。

グラモン侯爵

新しく首長の地位について主席連合を支配したグラモン侯爵は、ジョンが首長を殺害した報復にウィンストンからコンチネンタルホテルの支配人としての権限を全て剥奪し、ホテルを爆破、さらにコンシェルジュのシャロンを殺害する(シャロンを演じたランス・レデイックは2023年3月に死去しており、本作は彼に捧げられている)。
そして、ジョン・ウィックの殺害をジョンの旧友でもあるケインに依頼する。当初は乗り気ではなかったケインだが、娘の命と引き換えに再び暗殺業へと復帰する。
ちなみにケインを演じたのは香港出身の俳優であるドニー・イェン。ケインは銃の他に刀も駆使する盲人の殺し屋だが、チャド・スタエルスキによるとイメージの大元は座頭市であるという。

大阪コンチネンタル

世界中の殺し屋から追われる身のジョンは数少ない友人である大阪のコンチネンタルホテルの支配人とである、シマヅ・コウジを訪ねる。
コウジを演じるのは真田広之。キアヌ・リーヴスとは『47RONIN』以来の共演となる。元々チャド・スタエルスキは3作目の『ジョン・ウィックパラベラム』で真田広之をゼロ役に起用しようとしていたらしいが、その時は真田広之のスケジュールが合わなかったのだという。 ちなみにキアヌ・リーヴスは大の千葉真一のファンとしても知られている(『ジョン・ウィック』の日本プロモーションの一環で千葉真一と初対面を果たしたときの喜びようはキアヌの人柄を表すエピソードとして時折取り上げられている )が、真田広之は千葉真一の教え子にあたり、芸名の真田は千葉が命名している(真田の真は真一から取られている)。

久しぶりに再会した二人は盃を交わす。ここではサントリーウイスキーの山崎のボトルが映る。山崎が世界的にも評価の高いウイスキーであることは言うまでもないが、チャド・スタエルスキもキアヌ・リーヴスも山崎のウイスキーを好んでいて、『ジョン・ウィック』シリーズのプロモーションで日本を訪れるときは最後に帝国ホテルのバーを訪れ、山崎で乾杯するのが恒例らしい。そこでの会話から『ジョン・ウィック』シリーズのストーリーなど様々なアイデアが生まれてきたという。

だが、主席連合から追われる男、ジョン・ウィックを匿うことに大阪コンチネンタルホテルのコンシェルジュであり、コウジの娘であるアキラは不満を隠せない。アキラの懸念通り、大阪コンチネンタルにもグラモン侯爵の刺客とケインが迫ってきていた。グラモン侯爵の指令によって、大阪コンチネンタルホテルの聖域が解除され、ホテルは激しい銃撃戦となる。ジョン、アキラ、コウジは敵を片っ端から殺していくが、アキラは腹を撃たれて負傷、コウジは旧友でもあるケインと一騎討ちの末に命を落とす。
大阪を後にしようとするジョンにアキラは「父が死んだのはあなたのせいだ」と言い、ケインへ復讐するように伝える。
憎しみの連鎖が刃のようにジョンに迫ってくる。その刃をどう納めるのか、それも『コンセクエンス』で注目したい部分だ。

ウィンストンとの再会

ジョンはニューヨークでウィンストンと再会する。ウィンストンは「あの時は主席連合側に付くしかなかった」と裏切りを詫び、改めてジョンにこれからどうするのかと訪ねる。
「やつらを殺す」というジョンだったが、ウィンストンはそれでも後継者が現れ、復讐は終わらないと説く。
ウィンストンはルールに従い、主席連合と一対一での決闘に望むべきだという。
そこで勝って自由を勝ち取れば、後に続く者は誰も表れない。
だが、決闘の条件は主席連合のメンバーであること。主席連合を追放されたジョンはドイツに住む叔父で「ルスカ・ロマ」の首長であるピョートルと関係を修復することでメンバーに復帰しようとドイツ・ベルリンへ向かう。

ドイツ・ベルリン

だが、向かった先でジョン・ウィックはピョートルの娘のカティアに拘束される。実はピョートルはジョンが首長を殺害した報復に主席連合の手で殺されており、カティアはそんな主席連合に服従を誓うという屈辱を味わわされていた。
カティアはジョンに父を殺した実行犯であるキーラを殺すことがメンバーに復帰させる条件だという。
ジョンはキーラのいるクラブ「天国と地獄」に向かうと、そこにはケインやジョンの首を狙う名無しの殺し屋も居合わせていた。それぞれの利害が錯綜するなか、キーラは勝者をポーカーで決め、勝者に運命を委ねることを提案する。4人はポーカーをするが、そのポーカーはキーラによって操作されていたイカサマだった(余談だが、なぜこの場面で盲人のケインはトランプの数字がわかったのだろうか?)。
すぐさまジョンはカードでキーラに切りつけ、クラブは激しい銃撃戦の舞台となる。

ここで注目したいのは、一作目の『ジョン・ウィック』と違い、クラブで銃撃戦とが行われていても観客は平然と躍り続けていることだ。
チャド・スタエルスキは映画業界でのキャリアをスタントマンから始め、また格闘家として活動していた時期もある。それだけに『ジョン・ウィック』のアクションは素晴らしい。ここでは観客の躍りもまた戦闘を盛り上げるための舞のような役割を持っている。

キアヌ・リーヴスのもう一つの代表作と言えば『マトリックス』シリーズだが、『マトリックス』がVFXとワイヤーを駆使した非現実世界ならではの超常的なアクションを実写で見せつけたとするならば、『ジョン・ウィック』のアクションはその対極にあると言える。
超人的な跳躍力やスピードではなく、あくまでも人間の殺し屋としての最高の動きを追求し実現している、そう感じさせるのだ。だが、それも極限まで無駄を省き、かつ様々な武器やシチュエーションの中で常にアイデアに富んだアクションのために飽きさせることがない。むしろその中で常にベストを実現できるジョン・ウィックの殺し屋としての力量の高さが浮かび上がってくる。

実はジョン・ウィックがどれ程強い人間かが言葉で伝えられることは一作目を除いてはあまりない。ここもチャド・スタエルスキとキアヌ・リーヴスのこだわりなのだが、『ジョン・ウィック』シリーズではできるだけジョン・ウィックを寡黙なキャラクターにしているのだという。言葉よりも行動で伝えるキャラクターの方がリアルだという考え方からだ。

「ルスカ・ロマ」への復帰

キーラを殺したジョンは「ルスカ・ロマ」に復帰し、ウィンストンを付添人にグラモン侯爵に正式に決闘を申し込む。場所はフランスのパリの寺院サクレ・クール、時間は夜明け。勝者には望むものが与えられるが、負けた場合は付添人もろとも殺される。そしてグラモン侯爵は決闘の代理人にケインを指名する。
ちなみに最後の戦いの前となるこの場面では鳩が飛び立つ姿が印象的だが、ここにはジョン・ウー監督の影響を感じることができる。この他にもチャド・スタエルスキは『マトリックス』のウォシャウスキー姉妹、『グラン・プリ』のジョン・フランケンハイマー、『夕日のガンマン』のセルジオ・レオーネ、『七人の侍』の黒澤明、『48時間』のウォルター・ヒルなどの映画監督から影響を受けたという。

ジョンはパワリー・キングの下に匿われるが、その首にかけられた賞金はグラモン侯爵によって4000万まで吊り上げられる。
ジョン・ウィックはまでの道程で何人もの賞金首ハンターに襲われる。中でも多くの車が行き交う中でのアクションは今回の多くのアクションシーンの中でも最も難しかった部分だという。この場面はリハーサルだけに四ヶ月もの時間を費やしたとチャド・スタエルスキは明かしている。

屋内での銃撃戦も注目しておきたいポイントがいくつかある。まずはこの銃撃戦のカットだが、上空からの映像で、ジョン・ウィックを真上からとらえたショットになっている。
このショットには1976年に公開された『タクシードライバー』へのオマージュを感じさせる。ベトナム帰還兵であるタクシードライバーのトラヴィスが娼婦として働いていた少女、アイリスを救出した場面でこの上空からのショットが使われている。
キアヌ・リーヴスは自身が演技を始めるきっかけになった映画のひとつに『タクシードライバー』を挙げている。
また、名無しのハンターの犬がグラモン侯爵の刺客に銃で殺されそうになったときは、思わず犬を助けるなど『ジョン・ウィック』で自身の仔犬が殺されたことと重ねて見ている場面があることに注目しておきたい。

決闘

さて、ケインの手も借りながらジョンは決闘の場所「サクレ・クール寺院」にたどり着く。
決闘は互いに30歩離れた場所から一発ずつ撃ち合い、決着が着かなければ着くまで10歩ずつ近づいて撃つというルールだ。
一回目でも二回目でも互いに致命傷を与えることもできない。だが、三回目でジョン・ウィックは地面に倒れる。
グラモン侯爵は最後のとどめだけは自分の手で差そうとするが、ジョン・ウィックの銃で頭を撃ち抜かれる。三回目の決闘の時、実はジョンは発砲していなかったのだ。

これでケインもジョンも晴れて自由の身となった。しかし、ジョンは腹部に重傷を負い、妻との日々を思い出しながらそのまま倒れ込む。

数日後、パワリー・キングとウィンストンはある場所にいた。二人の目の前にあるのはジョン・ウィックの墓だ。そこにはかつてジョンが墓碑として望んだ言葉「妻を愛した男」との文字があった。
ウィンストンは「お別れだ、息子よ」と言い残してその場を去る。こうして『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は幕を閉じる。

169分の上映時間

今回の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』だが、上映時間はなんと169分。しかし体感上はそこまで長くは感じなかった。基本的にはアップテンポのアクション・エンターテインメント作品なのだ。チャド・スタエルスキはそこをきちんと理解していて、変に哲学やメタファーを入れ込んだり、難しい方向にいかないのが素晴らしい。

基本的に映画は上映回数もビジネスとしては非常に大事だ。一日に何回映画館で上映できるか、できるだけ多くの観客に観てもらうためだ。
となると、当然上映時間は短い方がいい。だが、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は169分もの上映時間になっている。最近のハリウッド映画では上映時間が長い作品が目立つ。例えば『バビロン』は3時間9分、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2時間 43分だ。
その背景にはNetflixなどのストリーミングサービスにに監督が流れている現状があるという。映画スタジオもNetflixと同程度のクリエイティブな自由を与えなければ、監督を引き留められなくなってきている(とは言え、チャド・スタエルスキは意図的に尺を長くした訳ではないという)。

ジョン・ウィックは死んだのか?

さて、このジョン・ウィックが死亡するという『ジョン・ウィック:コンセクエンス』のエンディングについて、チャド・スタエルスキはかつて『ジョン・ウィック』シリーズは5作目までは続くと公言していただけに、この結末をどこまで信じていいのかわからない。チャドは「ジョン・ウィックが生きていたと明確にわかるエンディングも準備していた」と語る。ただ、試写の結果は公開版の方が好評だったため、今のエンディングになったそうだ。
確かに本当にジョン・ウィックが平穏な暮らしを望むのであれば、ジョン・ウィックという名前は捨てて、別人として暮らしていく以外にないだろう。ジョン・ウィックを求める人に対しては「ジョン・ウィックは死んだ」ことにすれば誰もそれ以上追いかけることはない。
ただ、キアヌ・リーヴスはジョン・ウィックが完全に死ぬことを望んでいたという。『ジョン・ウィック』シリーズのプロデューサーであるベイジル・イヴァニクはキアヌが精神的にも肉体的にもひどく消耗し、「もう二度とできない」と語っていたと口にしている。

ジョンウィックのキル・カウント

ちなみに『ジョン・ウィック』シリーズ3作目まででジョン・ウィックは累計283人を殺しているが、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』ではその累計数は422人にまで膨れ上がる(YouTube上のキル・カウント動画から)。

もちろん、ベイジル・イヴァニクも続編の可能性にも含みを残してはいるものの、キアヌ自身は「僕にとっては、ジョン・ウィックが平穏を見つけるのにとてもふさわしかったように感じた。」とエンディングを評価している。ちなみにキアヌが本作で最もお気に入りのシーンは妻との思い出を回想するエンディングのシーンだそうだ。

ちなみに、エンドロールが終わった後に、娘のもとへ向かうケインを殺そうとするアキラの様子が描かれる。
チャド・スタエルスキはこの二人のストーリーを描くことにも意欲的だ。
「コンセクエンス=報い」の物語はまだ終わりそうにない。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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