『ターミネーター』ジョン・コナーとは何だったのか?時代に翻弄された救世主

ション・コナーとは『ターミネーター』シリーズに登場する、人類の救世主の名前だ。
審判の日をきっかけに始まった、人類と機械であるスカイネットとの争いの中で、絶滅寸前にまで追い詰められた人類を勝利へ導いた伝説の男、それがジョン・コナーだ。
ジョン・コナーはいわゆる「ディストピアにおける希望」を体現したキャラクターの代表格であるのだが、『ターミネーター』シリーズにおけるその位置づけに作品ごとに差がある。
今回は『ターミネーター』シリーズごとのジョン・コナーについて、その時の時代の流れを踏まえて解説を行っていこうと思う。

『ターミネーター』のジョン・コナー

1984年に公開されたシリーズ第一作の『ターミネーター』ではジョン・コナーは未来からやってきた戦士、カイル・リースの口からその存在が語られるのみだ。
人類を勝利に導く伝説の男、ジョン・コナー。カイルの目的はその母親であるサラ・コナーを同じくタイムスリップして過去へやってきたターミネーター、T-800から守ることだ。
この当時は冷戦の最中でもあり、「強いアメリカ」を皆が求めていた時代でもある。当時の大統領は、ロナルド・レーガン。レーガンもまた「アメリカをもう一度偉大に!」のキャッチコピーで大統領選挙を勝ち上がった。
『ターミネーター』は低予算映画として制作されたが、その内容は絶賛され、興行的にも成功した。その理由として『ターミネーター』の世界観がそうした「強いアメリカ」に呼応するものだからではないかという意見もある。同時期のヒット作には『ランボー2怒りの脱出』などがあるが、そちらもアメリカ人が力で敵を蹴散らしていくものだ。
『ターミネーター』においては人類の抵抗軍とは言うものの、そのリーダーは明らかにアメリカであり、ある意味では世界の覇権を握るのはアメリカだという前提で未来世界が語られているのだ。もっと言えば、ジョン・コナーの名前にもそれは見て取れる。ジョン・コナーのイニシャルはイエス・キリストと全く同じだ。史実のイエス・キリストはアラム人だが、『ターミネーター』における人類の救世主(≒キリスト)はジョン・コナーというアメリカ人なのだ。
ちなみに審判の日は8月29日と説明されているが、これはソ連が初めて核実験に成功した日だ。『ターミネーター』の背景には冷戦があり、スカイネットに例えられているのはソ連なのだ。スカイネットに勝つためにアメリカが世界の救世主として人類を導く。その象徴としてジョン・コナーが描かれているとも言えるだろう。

『ターミネーター2』のジョン・コナー

『ターミネーター2』で初めてジョン・コナーがスクリーンに姿を表す。演じたのはこれが映画デビュー作となるエドワード・ファーロング。その端正な顔立ちからファーロングは特に日本で絶大な人気となったという。
今作でのジョン・コナーはわずか10歳の少年だ。
今作では前作で悪役だったT-800が善玉として描かれるなど、当時のシュワルツェネッガーの人気を反映した設定が行われている。今作以降、『ターミネーター4』を除いて、T-800は人類側のターミネーターとして描かれている。
『ターミネーター』のヒットにより、すぐに続編の話は出たが、権利関係の複雑さからすぐに続編制作とはならなかった。また、監督を務めたジェームズ・キャメロン自身も早期の続編制作には否定的であり、「少年とターミネーター」というコンセプトを温め続けていた。

このように『ターミネーター2』ではそれまで敵だったターミネーターが味方になるという大胆な設定が行われた。そこにはシュワルツェネッガー人気とともに冷戦が雪解けに向かっていったということもあるのだろう。劇中でもスカイネットがロシアに核ミサイルを発射したことに対してジョンが「なぜロシアに?仲良くしているのに」と発言する場面がある(今現在の台詞であり、公開当時はまだソ連は崩壊していない)。
強大な敵だったものとでも理解し合える。これは『ターミネーター2』の大きなテーマだ。
ジョンの母親であるサラ・コナーは前作での経験からT-800を当初は信じきれなかった。だが、ジョンと触れ合う姿を見て、やがてT-800というサイボーグこそがジョンの保護者として完璧な存在であることを理解する。そしてT-800も人間と関わる中で生命の価値に気づくことになる。

『ターミネーター2』はサラ・コナーの次のモノローグで幕を閉じる。
「未来は先の見えないハイウェイです。でも、今はかすかに希望の光が見えます。ターミネーターにも命の価値が学べるのなら、私達にもできないはずはありません。」
ちなみに『ターミネーター2』のエンディングはもう一つあり、「審判の日」が来なかった平和な未来で上院議員になったジョンとジョンの娘が遊ぶのを老女となったサラ・コナーが見守るというエンディングだった。

『ターミネーター3』のジョン・コナー

ターミネーター3』では青年になったジョン・コナーが登場する。今作からジェームズ・キャメロンは『ターミネーター』シリーズから離脱しているため、シリーズ復帰作である『ターミネーター:ニュー・フェイト』までの作品たちを正史と呼ぶかは議論があるが、一通りは見ておこう。
今作でジョン・コナーを演じたのはニック・スタール。本来そこまで顔立ちも悪くないはずなのだが、前作のエドワード・ファーロングが整いすぎていたのか、日本では公開当時に「ジョン・コナー」にあまりに似つかないそのイメージに落胆の声もちらほら聞こえた。
今作では前作の10年後という設定で23歳…あれ?『ターミネーター2』では10歳だから20歳のはずでは?実はこれは監督を務めたジョナサン・モストゥの単純なミスとのことだが、もともと続編には反対だったジェームズ・キャメロンの怒りを増幅させる結果になったという。

審判の日が来なかったことで生きる目標をなくしていたジョン・コナーはその日暮らしの生活をしながらそれでも時折ターミネーターの悪夢にうなされる日々を送っていた。
『ターミネーター3』の公開は2003年だが、その2年前の2001年9月11日にはアメリカで世界同時多発テロが起きる。それまでの「強いアメリカ」が崩れ落ちた瞬間でもあった。この日を境にアメリカは終わりの見えないテロとの戦いに突入していく。
自らのアイデンティティを喪失したジョン・コナーの姿にはそんなアメリカ自身の姿が透けて見えるようでもある。

『ターミネーター3』では審判の日を止めようとするジョンの奮闘も空しく、審判の日は訪れ、人類の死滅という結末で幕を閉じる。
『ターミネーター3』は批判も多い作品だが、その要因の一つはこれまで『ターミネーター』シリーズが一貫して発してきた「運命は変えられる」というメッセージを事実上否定したことだろう。
今作以降、主役はジョン・コナーになるのだが、その神格性は失われていくことになる。

『ターミネーター4』のジョン・コナー

ターミネーター4』でジョン・コナーを演じたのは人気俳優のクリスチャン・ベール。ルックスもエドワード・ファーロング路線に回帰した印象だ。
今作からは舞台設定は審判の日以降となり、本格的にスカイネットと人類の抵抗軍との戦いが描かれている。
『ターミネーター4』では前作の反省を活かし、よりキャメロンが制作した『ターミネーター』『ターミネーター2』との結びつきを強くし、随所にリスペクトを感じられる作品になっている。『ターミネーター3』への出演オファーを「この脚本にはドラマがない」と断ったサラ・コナー役のリンダ・ハミルトンだが、今作『ターミネーター4』には声のみだが出演していることがその証でもあるだろう。
一方でT-800を演じたアーノルド・シュワルツェネッガーは、2003年にカリフォルニア州知事に就任したことから今作には出演していない。

今作のジョン・コナーはまだ人類全体を導く存在ではなく、小隊の隊長であり、司令部からは「救世主」であることを疑問視されているなど、まだ「伝説の男」には程遠い。
ジョンは後に父となる少年、カイル・リースを救うべく、T-800のプロトタイプの製造工場へ潜入。潜入形ターミネーターであるマーカス・ライトと共闘して、T-800を倒し、瀕死の重傷を負いながらも製造工場を爆破する。
しかし、胸を貫かれたジョンはすでに手遅れの状態だった。そこでマーカスは自分の唯一の残された臓器、心臓をジョンに提供すると申し出る。
そして、マーカスの命を引き換えに、生還したジョンは新たな戦いへの決意を新たにするという、強く続篇を意識した内用だった。実際新三部作の構想はあったのだが、興行収入の不振により製作会社は倒産、これがリブートや仕切り直しを除いて最後の『ターミネーター』映画でもある。

この『ターミネーター4』の当初の脚本ではジョン・コナーは死に、代わりにマーカスがジョンの見た目になってジョン・コナーとして人類を導くというエンディングだった。
流石にこれは変更されたが、ジョン・コナーの神格性は大きく揺らいでいる。
そして、次のリブート作となる『ターミネータージェネシス』では、とうとうジョン・コナーはスカイネット側の悪役として登場するのである。

『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のジョン・コナー

『ターミネーター』シリーズ初のリブートどなった『ターミネーター:新起動/ジェニシス』。今作からアーノルド・シュワルツェネッガーもシリーズに復帰している。

今作でジョン・コナーを演じたのはジェイソン・クラーク。今作でのジョン・コナーはカイル・リースを過去に転送する際にターミネーターに襲われ、自らもナノ粒子で構成される新型ターミネーターのT-3000へと改造されてしまい、母のサラ・コナー以外の人類を滅亡させようとしている。

『ターミネーター』では本編のサラのセリフにもあるのだが、もはや人類の希望はジョン・コナーではなく、サラとカイルそのものが人類の運命を左右する救世主なのだ。

今作が公開された当時の若者はいわゆる「さとり世代」に近い。言わば大きな夢を追わず、高望みしない、合理性を求めるといった特長を持つとされる世代のことだが、そんな彼らにとって「ジョン・コナー」は非現実な大きすぎる希望だったのだろうかとも思うのだ。
そして、現時点でのシリーズ最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』は今までとは違った角度で時代を反映した作品になった。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』のジョン・コナー

『ターミネーター:ニュー・フェイト』はジェームズ・キャメロンが28年ぶりにシリーズに復帰したことから大きな話題を呼んだ。加えてアーノルド・シュワルツェネッガーはもちろん、リンダ・ハミルトンなどのオリジナル・キャストも復帰。『ターミネーター3』以降はなかったことにされ、「『ターミネーター2』の正統な続編」として宣伝された。

しかし、今作でジョン・コナーは冒頭すぐにT-800によって殺される。審判の日を避けた後でもスカイネットは何体ものターミネーターを過去に送り込んでいたのだ。
そして、新しい救世主として登場するのがメキシコ系の女性であるダニーだ。
そこには今の時代のマイノリティや女性への配慮が透けて見える。ちなみに『マトリックス』シリーズも似たような展開を辿っており、最新作である『マトリックス レザレクションズ』で救世主として覚醒するのはネオではなく女性であるトリニティだ。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』では実質的に「ジョン・コナーの救世主」は不要な存在になっている。
ちなみに今作ではエドワード・ファーロングもジョン・コナーとして復帰はしたのだが、演技のモーションチャプチャーとして参加したにとどまり、顔などはフルCGで若いときのジョン・コナーを再現している。
ジョン・コナーがすぐに死んでしまうことを含めて、エドワード・ファーロングは本作には不満があると述べている。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』の監督であるティム・ミラーは主役としてサラ・コナーを再び復帰させ、逆にジョン・コナーを死なせた理由を「サラ・コナーにはまだ語るべき物語があり、彼女には怒りを抱くための強烈な理由が必要だった」と述べている。
だが、『ターミネーター』シリーズのファンは『ターミネーター:ニュー・フェイト』のこの設定に関して賛否両論だった。
ファンにとって強い思い入れのあるキャラクターをあっさり殺してしまったからだ。

こうしてみると、ジョン・コナーというキャラクターは時代の流れに殉じたキャラクターだとも言える。
再びジョン・コナーがスクリーンへ登場する時はどのような時代になっているのだろうか。

 

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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