『ジュラシック・パーク』驚異のSFXと後世に与えた影響

ジュラシック・パーク』を語るときに避けて通れないのがその映像の革新性だ。
解説の方では生命倫理の面を主に取り上げたが、こちらでは映像技術や後世に与えた影響を追っていこうと思う。

恐竜が初めてスクリーンのなかに姿を表したのは1914年『ブルート・フォース』という映画でだ。1925年にはコナン・ドイルの小説を映画化した『ロスト・ワールド』が公開されている。今見るとコマ撮りで再現された恐竜の動きはカクカクしていてとてもリアルとは言い難い。ただ、当時としては非常にリアルだったようで、コナン・ドイル自身も「あれは本物の恐竜だ」と吹聴していたそうだ。
『ジュラシック・パーク』の原作者のマイケル・クライトンも『ロスト・ワールド』には強い影響を受けたと語っている。
スティーブン・スピルバーグが『ジュラシック・パーク』に出会ったのはクライトンが原作を執筆した『5人のカルテ』のだった。『5人のカルテ』は当初スピルバーグが監督を務める予定だったが、クライトンから『ジュラシック・パーク』の企画を知らされ、そちらの映画化に注力するように監督を降板し、製作に回ったという逸話がある(『5人のカルテ』は『ER緊急救命室』としてドラマ化された)。

ストップ・モーションとゴー・モーション

スティーブン・スピルバーグ自身は『ジュラシック・パーク』の映画化の原点には1933年に公開された『キング・コング』への憧れがあるという。『ジュラシック・パーク』には「キング・コングでも出るのか?」という台詞がある。この台詞は原作にはない。スピルバーグならではの『キング・コング』への敬意を表したものだろう。
とは言え、『キング・コング』の恐竜もやはりコマ撮り特有のぎこちなさのある動きだった。このようなコマ撮りで撮影する方法をストップ・モーションという。
アメリカではこのように古くから多くの映画で恐竜がストップ・モーションで描かれてきた。

ストップ・モーションの次に出てきたのがゴー・モーションとよばれる手法だ。
ゴーモー・ションとはストップ・モーションの一種で、操作用の棒などを用いてモデルとなる人形を動かしていく手法だ。
スピルバーグ曰く「ストップ・モーションはブレの動きがないからぎこちなさが残る」とのことで、当初は『ジュラシック・パーク』の恐竜たちの動きもゴー・モーションで表現される予定だった。
スピルバーグはゴー・モーションで表現された恐竜の動きを子供たちに見せた(ちなみにスピルバーグの子供たちも恐竜が大好きなのだそうだ)
子供たちの反響は良かったそうだが、スピルバーグの目にはどうしても違和感が拭えなかった。「ゴー・モーションの域を出ない」そうスピルバーグは語っている。

CGで恐竜をよみがえらせる

そんな中、ILMのデニス・ミューレンがスピルバーグに声を掛けた。彼が密かに製作していたのはCGで作られた恐竜だった。すでに『アビス』や『ターミネーター2』で驚異のCG技術を披露していたが、「『ターミネーター2』より進んだ技術を試したい」との思いから、スピルバーグに「恐竜をコンピューターで作らせてくれないか」と打診したという。
「あんなにスムーズな動きは見たことがない」ミューレンの作ったテスト映像を見たスピルバーグはすぐにCGを映画で使うことを決める。
とは言っても完成した『ジュラシック・パーク』にCGの恐竜が使われているのは時間にしてわずか6分に過ぎない(もっとも恐竜が画面に登場する時間も本編の半分にも満たないが)。
初めてグラント博士恐竜に出会う場面で登場するブロントサウルス、マルコムらの乗るジープを追いかけるティラノサウルス、そしてそのティラノサウルスに追われるガリミムスの群れ、ティムとレックスの逃げ込んだキッチンに現れるヴェロキラプトルなどだ。ちなみにティラノサウルスに喰われる弁護士のジェナーロも喰われた瞬間からCGに入れ替わっており、これが映画史上初のデジタル・スタントだと言われている。

アニマトロニクスの貢献

『ジュラシック・パーク』のリアルさはそのCGを巧みに実写と組み合わせた所にあると思う。大部分の恐竜はアニマトロニクスで表現され、質感も動物そのものだ。
当初、ゴー・モーションで製作されるはずだった『ジュラシック・パーク』がCGでの製作に舵を切った時、ゴーモーションやストップモーションでの最高のクリエイターだったフィル・ティペットは思わず「これで僕たちは絶滅だ」とこぼしたという。だが、スピルバーグはCG含む恐竜の動きの演出をティペットに任せたという(ちなみに用済みになったと思ったティペットはそのショックで肺炎になり二週間寝込んだという逸話がある)。
序盤でグラントらが病気のトリケラトプスと触れあう場面があるが、このシーンこそアニマトロニクスの本領発揮といえるだろう。トリケラトプスの巨体に体を預けて呼吸を感じるアラン・グラント。画面越しでも伝わるその質感や動きはそこに実際に存在しているアニマトロニクスだからこそ。こうした恐竜たちの動きにもティペットの貢献を見ることができる。

もちろんCG技術は『ジュラシック・パーク』以前から映画で使われていた。そもそも初めてCGを映画に取り入れたのはスピルバーグが監督した 『ヤング・シャーロック』だ。その後もCGは進化を続け、前述のように『ターミネーター2』など、今の時代にも通じるような素晴らしいクオリティにまで達した。しかし、存在しない生物ををCGで表現するというのは『ジュラシック・パーク』が先鞭をつけた作品だと言えるだろう。それほどまでに『ジュラシック・パーク』が後に続く恐竜映画、怪獣映画に与えた影響は大きい。
CGの面でいうならば続編の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』はもちろんだが、1998年に公開されたローランド・エメリッヒ監督の『GODZILLA』など、あらゆるモンスターが主にCGで作られるようになる。
『ジュラシック・パーク』の与えた影響はCGだけではない。『ジュラシック・パーク』はその恐怖描写も秀逸だ。

ホラー映画としての『ジュラシック・パーク』

水の波紋で何か巨大な生き物が近づいていることを知らせたり、一瞬の間をおいてティラノサウルスのガラス越しの急襲などの演出は本当に卓越している。ちなみに、水の波紋の演出はスピルバーグ自身が車のなかで音楽を大音量で聞いていたときに、低音に合わせてバックミラーが揺れることから思い付いたそうだ。

スピルバーグは小さなころから『ゴジラ』シリーズのファンだったと言う。
ハリウッド版ゴジラ映画である『GODZILLA』の監督も打診されたが、公式には「オリジナルを汚すだけになるから」という理由でオファーを断っている。
だが、本当の理由は『ジュラシック・パーク』で既にゴジラ的な映画を作ってしまったからではないかという説がある。
それを裏付けるかのように続編の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』では原作にはない、夜のサンディエゴにティラノサウルスが現れるというシークエンスがある。
あくまでスピルバーグ自身は『ジュラシック・パーク』の時点ではゴジラのような怪獣ではなく、あくまで生物としての恐竜を描きたいと語っていたが。

話が反れてしまったが、多くのゴジラ映画で、生身の人間とゴジラの関わりといえば、街に現れたゴジラから逃げ惑う人々という構図がほとんどであった。
ゴジラからティラノザウルスと体の大きさがスケールダウンしたからこそ演出の幅が広がったとも思うが、それでも特にレックスとティムの幼い姉弟が襲われるシーンはもはやホラー映画と呼んでいいだろう。
また、ヴェロキラプトルとの攻防もまたホラーの要素を強く感じさせる。

『ジュラシック・パーク』を語る上ではCGが多いが、このように「恐竜(モンスター)vs人間」の見せ方にしても革新的だったと思う。実際に他でもない『ゴジラ』シリーズもまた『ジュラシック・パーク』に大きな影響を受けている。1995年に公開された『ゴジラvsデストロイア』や、1995年にハリウッドで製作された『GODZILLA』だ。前者ではデストロイアの幼体、後者ではゴジラの幼体が登場する。どちらもヴェロキラプトル程度の大きさだ。

平成ゴジラの身長は100メートル。それと対峙する人間など、いわば象と戦うネズミのようなもので、必死に逃げ回るか、一瞬で踏み潰されるのがオチだろう。そこにはほとんど恐怖を感じる要素はないが、例えばネコとネズミだったら話は別だ。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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