ストリーミングサービスと映画館の行方

つくづく便利な時代になったものだ。
部屋でストリーミングで映画を観ていると本当にそう実感する。

ストリーミングの元々のライバルはレンタルビデオだったと思う。視聴期間も返す手間も、延滞料金もかからない、その上、何本観ても料金は変わらない。まさにレンタルビデオの弱点はほぼカバーできている。視聴デバイスを選ばないのもいい。ネット回線さえあれば、スマホから寝っ転がりながらでも視聴できるのだ。

ストリーミングサービスの不満

もちろん、良い点ばかりではない。
個人的にストリーミングサービスに思うこととしては

・有料レンタルの期間が短い(大概は視聴開始から48時間)

これであれば正直同程度で一週間はレンタルできるレンタルショップの方がコストパフォーマンスは優れていると思う。

・タイトルによってはラインナップされていない

贅沢な悩みだが、圧倒的な作品数を誇るストリーミングサービスでも無いものは無い。まぁこれはレンタルなど他のサービス形態にも共通のことだろう。
今『マタンゴ』と『毒ガス人間第一号』が観たいのだが・・・。

ただ、こうして見ると映画館で映画を観るより、街のレンタルショップで作品を借りてくるより、圧倒的に便利だと思う。

特に映画館で作品を観ることはある程度の環境と時間を確保せねば難しいだろう。

拡大しつづけるストリーミングサービスの市場

実際にストリーミングサービズの市場は拡大を続けている。
特にコロナ禍において映画館は人が集まる場所のひとつとして、感染対策上、閉鎖されざるを得なかった。
映画ジャーナリストの宇野維正氏は著書『ハリウッド映画の終焉』の中で、2002年に公開されたハリウッドのメジャースタジオの作品は約140本だが、それから20年後の2023年の公開本数はその半分の73本に留まると記している。

『セブン』や『ゴーン・ガール』で知られる映画監督のデヴィッド・フィンチャーは2020年にネットフリックスと4年間の契約を結んだ。
また映画監督の巨匠でもあるマーティン・スコセッシはネットフリックスからの資金協力を得て『アイリッシュマン』を完成させている。新作の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』もアップルからの資金提供だ。

しかし、スコセッシはネットフリックスにはクリエイティブ面の自由を最大限認めてもらったとその恩恵を語るものの、やはり一方でストリーミングサービスへの不満も隠そうとはしていない。
スコセッシはスーパーヒーロー映画がハリウッドを席巻していることを「あれはテーマパークのようなもので映画ではない」と強烈に批判して話題にもなったが、ストリーミングサービスについても「いまや映画業界とは巨大なビジュアル・エンターテイメント・ビジネスのことで、強調される言葉はいつも“ビジネス”。いつだって価値を決めるのは、与えられた財産からいかに多くの金を生み出せるかということ。
そこでは『サンライズ』も『道』も『2001年宇宙の旅』も、ストリーミングサービス上においては“アート映画”というジャンルに並べられてしまう」と語っている。
スコセッシの憂慮とは、映画が金を生むかどうかという物差しでしか判断されなくなっている現状だ。
スコセッシの映画が芸術ではなく、ビジネスになりすぎたという憂慮は理解できるが、ストリーミングのおかげで私たちが手軽に過去の名作にアクセスできるということもあるだろう。レコメンドから、思いもよらない傑作に出会える可能性もある。

映画館の魅力

だが、ストリーミングでは絶対に得られないものが映画館にはある。
それは「非日常」だ。
ストリーミングであれば、そばにスマホやタブレットがあり、家の中ならベッドやキッチンもあるだろう。何か他の事があれば、試聴していた映画を一時停止にしたり、試聴をやめることもできる。ストリーミングサービスは日常の娯楽のひとつでしかないからだ。
映画館はその逆だ。スマホは電源を切らねばならず、映画を一時停止することもできず、暗闇の中で大きなスクリーンを見つめる。別に3Dや4DXでなくても、映画館で映画を観ることは、自宅では絶対に叶えることのできない非日常の出来事だ。
好きなミュージシャンのライブDVDを観るのと、実際にライブのステージを観るのでは感じるもの、受けとるものが天と地ほど違うはずだ。
映画も同じことだと思う。コロナ明けの時期に、過去の旧作が映画館で上映された時期があった。旧作ではあるものの、なかなかの興行収入を出したという。たとえ同じ作品であっても家のPCで観るのと映画館で観るのでは大きく魅力が違う、その事を実際に証明したかのような出来事だった。

時代は変わり続けている

映画館で映画を観るのと、ストリーミングで自宅で映画を観る、どちらがあるべき姿でどちらが間違っているとも言えない。
確実に言えるのは、時代は変わり続けているということだ。

かつて映画は一人で観るものだった。いわゆるキネトスコープと呼ばれる装置の穴から覗き込むようにして楽しむものが映画だったのだ。
今のように映画館で複数の人が共に楽しむというスタイルは1905年に普及したニッケルオディオンと呼ばれる小規模の常設映画館がそのはしりだ。
そして今また映画の試聴スタイルは大きな変換期にあると言えるだろう。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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