『もののけ姫』玉の小刀とは何だったのか?アシタカが捨てきれなかった過去とは?

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もののけ姫』は様々な考察や議論を呼ぶトピックスに溢れた映画だ。
以前は「なぜタタラ場には子供がいないのか」ということを考えてみたが、今回はカヤがアシタカに贈る「玉の小刀」について見ていこう。

玉の小刀

『もののけ姫』の劇中でその小刀はアシタカが村を出る夜にカヤがこっそり手渡す物として登場する。
スタジオジブリの公式SNSによれば、素材は黒曜石。黒曜石は非常に珍しい石で天然のガラスとも言われている。主な産地は佐賀県や北海道だと言われ、このことからもアシタカが東北以北の出身であることが示唆されている。

ちなみにこの黒曜石、一般的にはその名の通り黒い色をしているが、中には青い色をしたものもある。恐らくカヤがアシタカに手渡した小刀は青色の非常に珍しい黒曜石で作られたもので、いかに貴重で大切なものかがわかる。

アシタカもまさかカヤがそのような貴重なものを差し出すとは思っていなかっただろう。

「これは大事な玉の小刀ではないか!」

「お守りするように息を吹き込めました」

モノに自分の思いを宿すために息を吹きかける行為は古来よりある。ひな祭りの人形も元々は人形に自分の息を吹き込み、自分の身代わりとなって人形厄災を引き受けてもらうためのものだ。
カヤは自分の息を小刀に吹き、もう一人の自分としてアシタカを守るように強く願ったのだ。

「カヤはいつも兄様を思っています」

髪を切り落とす意味

カヤはアシタカを兄様と呼ぶが、この二人は兄弟ではない。
アシタカはその村の王子であり、カヤはアシタカの婚約者である。だが、タタリ神から呪いを受けたアシタカは村を出ねばならなくなった。
村のシャーマンであるヒイ様は西の方に呪いを解く鍵がある可能性を伝え、アシタカは村を出る。
この時アシタカは結んでいた髪を切り落としている。おそらく、この村では髪を結うことが村の男性である証でもあったのだろう。つまり、アシタカはもう村の人間ではなくなるということだ。
また、そういう意味ではアシタカの村の男たちの髪結いは武士の髷に相当すると考えてもいい。武士が髷を切り落とされるのは大変な屈辱であり、恥でもあった(時代考証の凄さで知られる『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』にもその描写が見られる)。また髷を自ら切るのは仏門に入り出家する時くらいであったとも言われる。 つまり、アシタカはそれまでの過去の一切を捨てる決意をしたということだ。
いや、一つだけ断ち切れなかったものがあった。
「私もだ、いつもカヤを想う」
そういってアシタカは村を出ていく。何もかもを捨てて村を後にしたアシタカが唯一断ち切れなかったのが、カヤだったのだ。
宮崎駿監督はアシタカが呪いを受けるという設定には今の若者の姿を投影させたという。
もののけ姫』公開当時の若者も今の若者もそうだが、不況や環境問題など、やはり自分より上の世代が生み出した負の状況に苦しんでいるのは確かだろう。その理不尽さが形になって現れているのがアシタカが受けた呪いというわけだ(アシタカの呪いは遠い地でエボシ御前が猪神であるナゴの守に放った石火矢の毒礫が原因だ。それによってナゴの守はタタリ神に変貌する)。
だが、真っ直ぐで純真な男に見えるアシタカにもやはりまだ移り気な少年なのだと思わせる場面がある。しばしば『もののけ姫』で賛否の的になる、「カヤからもらった小刀をあっけなくサンに渡してしまう」場面だ。

「男なんてそんなもん」

大切な婚約者からのはお守りを他の女子に渡したのはなぜ?
サンとカヤ、二人の声は共に女優の石田ゆり子が務めているが、アシタカのこの行動について宮崎駿に問い質したところ、「男なんてそんなもん」と身も蓋もない返事が返ってきたというエピソードがある。
この「男なんてそんなもん」という言葉はアシタカの男としての性や未熟さ感じさせる一方で、宮崎駿の照れ隠しだったのではないか?とも思う。
アシタカの年齢は15歳。中学三年生か高校一年生くらいだ。そうは見えないほど大人びてはいるが、『もののけ姫』の舞台である室町時代では男性は歳で元服を迎えていた。
アシタカの暮らした村にも元服のようなものがあるかはわからないが、その日を境にオトナの仲間入りをする。だが、やはり少年らしい移ろいやすさや衝動もあるはずだ。
万が一の覚悟をしたからこそ、大切なサンには生き抜いて欲しかったのだろうと思う。その意味では「カヤからもらった」という事実はアシタカにとってさほど重要ではない。ただ、サンへ贈るにふさわしいものが玉の小刀しかなかった、と考えてもいいだろう。

ちなみにカヤとサン、一見真逆のタイプにも見えるのだが、カヤも村に近づいたタタリ神が連れの娘を襲おうとした時は呪いも厭わず勇敢に剣を抜いている。また、アシタカを見送るときも罰を受けることを覚悟した上での見送りだということを明かしている。
こうしてみると、カヤという女性は自立的で主体性を持った強い女性である事がわかる。

ちなみに小刀を贈る風習は実際に武家社会の日本に見られた風習だが、男性から女性にお守りとして渡すことが多かったようだ。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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