1954年に公開された『ゴジラ』は961万人を動員した大ヒット映画となった。当時の日本の人口が8,800万人だったため、単純計算で日本人の10人に1人が『ゴジラ』を観たことになる。
この大成功を受けて制作されたのが『ゴジラの逆襲』だ。
『ゴジラの逆襲』
『ゴジラの逆襲』は1955年に公開された『ゴジラ』シリーズの第二作目にあたる。監督は小田基義、主演は小林博が務めている。前作から志村喬が引き続き山根博士役として続投している。
前作のラストでの山根博士のセリフ「あのゴジラが最後の一匹とは思えない。もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類がまた世界のどこかへ現れてくるかもしれない」その言葉通りに、岩戸島でゴジラともう一匹の巨大怪獣が争っているのが目撃される。
数日後、大阪で先日のゴジラと巨大怪獣への対策が会議された。会議の場で巨大怪獣は恐竜のアンキロサウルスが水爆によって怪獣化したアンギラスではないかと推測される(ちなみに劇中でアンキロサウルスが肉食恐竜だと説明されているが、実際は草食恐竜である)。
山根博士はこの事態の解決策を求められるが、かつてゴジラを葬り去ったオキシジェン・デストロイヤーも、それを作った平田博士も今はもう亡く、ゴジラを防ぐ手立ては何もなかった。
せめての対策として、ゴジラが光に向かってやってくるという性質を利用し、ゴジラをできるだけ市街地から遠ざけることだったが、予期せぬアクシデントによってゴジラは大阪の街に上陸してしまう。そして大阪に上陸したのはゴジラだけではなかった。光に引き寄せられたアンギラスもまた上陸していたのだ。
こうしてゴジラとアンギラスは大阪で再び相まみえることになった。
慌てて作られた続編
驚くべきことに『ゴジラの逆襲』は『ゴジラ』の公開から半年を待たずに公開されている。前作『ゴジラ』公開直後に既に続編の話が進められていたという。撮影期間はわずか3ヶ月。主演を務めた小泉博は『ゴジラの逆襲』について『ゴジラ』が当たったから会社が慌てて作った」という印象であり、ヒットこそしたものの、『ゴジラ』に比べると評価は高くない作品となってしまった。後にプロデューサーの田中友幸も準備期間の短さを理由に『ゴジラの逆襲』は成功したとは言い難いと述べている(もっとも『ゴジラ』の監督である本多猪四郎の妻のきみによれば、『ゴジラ』の撮影期間も3ヶ月であり、『ゴジラの逆襲』の失敗は撮影時間の問題ではないと述べている)。
なぜ本多猪四郎は『ゴジラの逆襲』を拒んだのか
『ゴジラの逆襲』のスタッフは多くは『ゴジラ』からの続投となったが、監督は前述の本多猪四郎から小田基義に代わっている。
本多猪四郎は『ゴジラ』のプロデューサーである田中友幸や特技監督の円谷英二から『ゴジラ』の続編の監督を打診されたが、断っている。既に本多猪四郎は『ゴジラ』のあとに『恋化粧』という作品の監督が決まっていたことに加えて、そもそも『ゴジラ』の続編に乗り気ではなかったという(本多猪四郎のインタビューによると、時間的な制約と、当時、新人監督にも満遍なく撮らせるというシステムのなかでは年に何本も撮れないという事情もあったようだ)。
なぜ本多猪四郎は『ゴジラの逆襲』を拒んだのか。想像でしかないが、はっきりと反核のメッセージをもった『ゴジラ』に比べると『ゴジラの逆襲』ではそのメッセージも薄まり、怪獣同士のエンターテインメントとしての側面が強まってしまったからではないだろうか。しかしながら本多猪四郎は『空の大怪獣ラドン』を経て再び『キングコング対ゴジラ』で『ゴジラ』シリーズへ復帰することになる。
その後の『ゴジラ』シリーズの監督も本多猪四郎は多く手掛けているために果たしてどこまでそれが合っているかはわからないが(とは言え、本多猪四郎はゴジラが擬人化したり、ヒーロー化することには反対しており、その極致とも言えるミニラが大嫌いだったという逸話もある)。
反対に特技監督の円谷英二は『ゴジラの逆襲』の製作には大喜びしていたという。
『ゴジラの逆襲』の特撮
だからだろうか、『ゴジラの逆襲』の特撮は『ゴジラ』より更に凄いこと、新しいことを見せようとする挑戦的な姿勢が見てとれる。海へ墜落する戦闘機や大阪城のひび割れの描写などがそうだろう。常にあたらしい表現を追求していた円谷英二の姿が透けて見えるようだ。
また、ゴジラ自体も咆哮の際の口の動きなどがより大きくダイナミックになっている。これは着ぐるだけでなく、上半身だけのギミック付きのゴジラを製作したことから可能になったことだ。
今作からゴジラの着ぐるみにはラテックスが素材として使われるようになり、着ぐるみ自体の軽量化にも成功している。
このように『ゴジラの逆襲』は特撮面での進歩と貢献も大きかっただろう。ちなみに子供好きな円谷英二がやりたかったのはミニラがいじめっ子の怪獣ガバラに立ち向かう『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』だったのではないかと言われている。ちなみに同作は全てが少年の夢だったという設定でも知られる。
『ゴジラの逆襲』の意義
『ゴジラ』が誕生してから70年を迎える今、『ゴジラの逆襲』の意義をもう一度見直してみたいと思う。
本当に大きな意義は『ゴジラ』シリーズのフォーマットを作ったという点だ。
『ゴジラ』シリーズの原点は『ゴジラ』に間違いないが、ゴジラが敵怪獣と戦うという今のゴジラ映画のフォーマットの原点は『ゴジラの逆襲』にあると思う。ちなみに今回の敵怪獣であるアンギラスは個人的にも子供の頃から大好きな怪獣でもある。
純粋にゴジラのみが登場するゴジラ映画は一作目の『ゴジラ』と1983年に公開された『ゴジラ』の二つしかない。