『クロウ/飛翔伝説』ブランドン・リーの死をも超えた、その魅力とは

 

世の中にはいわくつきの映画と呼ばれる作品がある。

『ポルターガイスト』は出演者が次々に不可解な死を遂げた。
タクシードライバー』はレーガン大統領暗殺未遂事件を引き起こした。

『クロウ/飛翔伝説』もまた、そんないわくつきの映画だ。

私が本作を知ったのは、ブランドン・リーの死亡事故がきっかけだった。
かの伝説的な男、ブルース・リーの息子という華々しいバックグラウンドに恵まれながら、父よりも若い28歳での急逝。
そんな悲劇的な作品ながらも、『クロウ』はシリーズ化され、続編やリブートも含めると、4本の映画が制作された(他にはテレビシリーズもある)。いったいその魅力は何なのだろうか。

『クロウ/飛翔伝説』

『クロウ/飛翔伝説』は1994年に公開された、アレックス・プロヤス監督、ブランドン・リーのアクション映画。原作はジェームズ・オバーのアメリカン・コミックス『ザ・クロウ』だ。
個人的にはいかにもB級映画のようなタイトル(「飛翔伝説」の部分ね!)が災いしてなかなか食指が伸びなかった作品でもあるのだが、来月(これを書いているのは2026年2月)には日本でもリブート版の『ザ・クロウ』が公開されるとあって、その前に観ておこうと思ったのだ。

が、観てみて驚いた。B級映画との思い込みは見事に外れ(監督のアレックス・プロヤス曰く、予算的にはB級映画クラスの予算だったらしいが)、ダークでゴシックなビジュアル、街のあちこちで炎が上がっている様子を空撮で見せるオープニングは『ブレードランナー』の影響もあるのだろうが、その中でもカラスの視界を表現したかのようにカメラが空中を自在に移動していくショットはインパクト抜群だ。

アレックス・プロヤスは2004年に『アイ,ロボット』を監督しているが、その時の映像はスタイリッシュで凝ったものではあったものの、いわゆる『マトリックス』以後のアクション映画といったカメラワークで、個人的にはことさらに斬新という印象は持たなかった。
だが、『クロウ/飛翔伝説』は極端に色を抑えたのもあるだろうが(故意に現在のシーンは赤と黒のみ、過去のシーンはカラフルに描かれている)、その世界観の作り込みや演出が際立って優れていることがわかる。
加えて、ビルの屋上を駆け抜けるシーンや、ホテルの看板を写したショットなど、実は本作こそが『マトリックス』に大きな影響を与えたのではないかと思うのだ。

物語はハロウィンの前夜、「悪魔の夜」と呼ばれる日にあるカップルがギャングに襲撃された直後から始まる。
ミュージシャンのエリックとシェリーはその日、結婚式を明日に控えていたが、ギャングの襲撃に遭い、エリックは6階の部屋から突き落とされ死亡、そしてシェリーもレイプされた挙句暴行を受け、治療の甲斐なく30時間後に亡くなってしまう。
それから1年後、エリックとシェリーが世話をしていたサラは、娘の世話を放棄しウェイトレス兼ギャングの一味であるファンボーイの愛人として暮らす母のもとで孤独な暮らしを送っていた。

ぞんな中、墓場からエリックが現世へ蘇る。

原作『ザ・クロウ』に込められたもの

原作の『ザ・クロウ』はジェームズ・オバーの実体験から生まれた。ジェームズ・オバーは1960年1月1日にミシガン州デトロイトのトレーラーハウスで産まれた。
母親はアルコール依存症であり、刑務所や精神病院で長い時間を過ごしており、オバーの面倒を見ることはできなかった。
『ザ・クロウ』のサラのキャラクターはこの幼少期のオバーの実体験から生まれたものだろう。サラの母親は売春婦のような設定だが、オバーの母親も多くの男性と関係を持っていたという。

オバーは7歳の頃に孤児となり、孤児院や様々な家を転々として過ごした。そんな中、17歳の頃に恋人となるビバリーと出会い、養父の家を出て2人で暮らすことを選ぶ。
しかし、高校卒業直前だった18歳の頃にビバリーは飲酒運転の車に轢かれて亡くなる。オバーはその悲しみを克服する為に海兵隊へ入隊。1981年、ベルリンに駐留していた時に『ザ・クロウ』のアイデアを思いつく。
また、故郷のデトロイトで20ドルの婚約指輪をめぐって若いカップルが殺されるという新聞記事も『ザ・クロウ』に影響を与えていった。二年後、オバーはドイツからデトロイトへ戻った。オバーはエリックのように、ビバリーを殺した運転手に復讐しようとした。しかし、既にその運転手は亡くなっていたため、オバーは復讐を断念している。

ちなみに、『クロウ/飛翔伝説』の中で描かれる、ハロウィンの前日、通称「悪魔の夜」と呼ばれる日に放火などの犯罪が多数起きるのは、架空の設定ではない。

悪魔の夜

実際に1940年代からハロウィンの前夜に他愛のない迷惑行為が起きるようになっていった。そのほとんどは腐った卵を家に投げつけるなどの悪趣味なイタズラといったところだったが、1970年代になるとその内容も過激化し、都市の内外放火が繰り返されるようになる。なかでも1984年には800件の火事が発生し、例年数百件の放火が発生するようになった。なお、不動産業者も不動産業者で住宅が放火されると、クレームをつけて保険金を無効にするように動いた。
原作では、シェリーとエリックはハイウェイで車のエンジンが故障し、立ち往生していたところを襲われるが、映画ではアパートからの立ち退きに反対したことでトップマラーの部下に殺される。トップダラーが地上げ行為をしているのは、こうした実際の不動産業者の行為に影響されてのことだという。

あの世から蘇ったエリックは、自身に死化粧を施し、自身とシェリーを殺した者たち、そしてそれに関わった者たちを次々に殺していく。

ブランドン・リー

オバーは当初エリック役にジョニー・デップを希望していた。だが、ジョニー・デップはすでに『シザーハンズ』で似たような白塗りのキャラクターを演じていたために、そのオファーを拒否する。当時オバーはブランドン・リーの出演作は珍妙な日本描写で有名な『リトルトーキョー殺人課』しか観たことがなかったという。だが、実際に撮影現場でブランドン・リーと会うと、オバーはそれまでの考えを改めた。

ブランドン・リーもまた、このエリックというキャラクターに強い思い入れを抱いていた。スタントコーディネーターであるジェフ・イマイによると、リーはアクションヒーローではなくロッカーに見えるように、リーは撮影の数週間前から厳しい食事制限を行って体脂肪を大幅に落とすなどの役作りを行っていたという。また、リーはエリックの復活について、その時の感覚は凍えるほど寒いに違いないと推測し、撮影時点ですでに冬であったにも関わらず、氷の入った袋を買ってきて、その中に体を浸したという。

誤射事件

だが、撮影も終盤に差し掛かった1993年3月31日にそれは起こった。
深夜0時30分頃、エリックがギャングのファンボーイに撃ち殺されるシーンが撮影された。ファンボーイを演じるマイケル・マッシ―は約5メートル離れたブランドン・リーに空砲を4発撃ち込んだ。撃たれたリーは予定では前に倒れるところを後ろに倒れ込んだという。監督が「カット」と言ってもリーは立ち上がってこない。もともと撮影現場でもおどけていることの多かったリーだけに、最初は皆いつものようにふざけているのだろうと気に留めなかったという。
だが、撮影スタッフの一人が予定よりはるかに多い血溜まりがリーの下に広がっているのを発見する。
そのままリーは病院へ運ばれ、5時間にも及ぶ手術で、最終的には成人男性5人分もの血液が輸血されたが、懸命の治療の甲斐なく、午後1時4分に死亡が宣告された。

事故の原因は空砲だっははずの銃に、実弾が入っていたことだと言われている。経験の浅い小道具係は銃のカートリッジの中は空砲であることを確認しても、銃身の中までは確認しなかったのだ。
加えて「引き金を引くときは映像でわからない程度に照準を標的から外す」という基本的なルールをマッシーに指示していなかった。

「ブランドン・リーを撃った男」

マイケル・マッシーはこの事故以降、「ブランドン・リーを撃った男」という十字架を背負い、生涯を生きることとなる。マッシーは2007年に当時を振り返ってこう述べている。

「あんなことは起きないはずだった。僕は銃を持つはずでもなかった。撮影がスタートしてから監督が変えたんだ」
「事故の後はニューヨークに帰って1年間何もしなかった。仕事もね。ブランドンに起きたことは悲惨な出来事だった。ああいうことは一生乗り越えられないと思う」

マッシーはこの映画を一度も見ることなく、2016年に亡くなっている。

『ザ・クロウ』

2026年3月には日本でも『クロウ/飛翔伝説』のリブート作となる『ザ・クロウ』が公開される。
アメリカではすでに2024年に公開されていたが評判は芳しくない。YouTubeで公開された『ザ・クロウ』の予告編は低評価や否定的なコメントが多く寄せられ、「ファンの反応が全てを物語っている」とアレックス・プロヤスは語っている。

「『クロウ/飛翔伝説』は単なる映画ではない。ブランドン・リーはこの映画を製作中に亡くなり、この映画は彼の失われた才能と悲劇的な喪失への証として完成した。これは彼のレガシーなのだ。 そして、そのままにしておくべきだ」

また、オリジナル版でシェリー役を演じたソフィア・シャイナスもリブート版への失望を表明し、アレックス・プロヤスと共にその鑑賞を拒んでいる。
ちなみに『ザ・クロウ』の監督であるルパート・サンダースは、『クロウ/飛翔伝説』の撮影でブランドン・リーが亡くなった事故が起きたことから、撮影用の銃器は全てエアガンを使用しし、マズルフラッシュは後にVFX合成で表現したという。

オリジナル版の『クロウ/飛翔伝説』のエンドロールには、「ブランドン・リーと(婚約者の)エリザ・ハットンに捧げる」との一文が添えられている。

 

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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