『プレデター:バッドランド』弱いプレデターを描く意味とは?

※以下の考察・解説には映画の結末のネタバレが含まれています


プレデターと人間

プレデター』シリーズは回を増すごとにプレデターと人間の関係性が深くなっている。
一作目の『プレデター』では、人間にとってプレデターは単なる強力な怪物として描かれていた。
1990年の『プレデター2』では人間がプレデターから認められるようになる。
2004年の『エイリアンVSプレデター』ではプレデターと人間が共闘するようになり、2018年の『ザ・プレデター』では、人間を守る任務を負ったプレデターが登場するまでになる。
そして、2025年に公開された『プレデター:バッドランド』では、ついに背中に人間(正確には人間型のアンドロイド)を背負い、仲間として共に暮らすに至っている。

『プレデター:バッドランド』

『プレデター:バッドランド』は ダン・トラクテンバーグ監督のSF映画。 主演はエル・ファニング、ディミトリウス・シュスター=コロアマタンギが務めている。ダン・トラクテンバーグは前作『プレデター:ザ・プレイ』『プレデター:最凶頂上決戦』に引き続いての『プレデター』シリーズへの参加となる。

『プレデター:ザ・プレイ』は原点回帰とも言える作品だった。舞台は18世紀のアメリカ、最初に地球に訪れたプレデターと先住民族の少女ナルとの戦いを描いている。
それと比べると、『プレデター:バッドランド』は全く対称的だと言っていい。『プレデター:バッドランド』では、人間が全く登場せず、プレデター側の視点で物語を描くという、シリーズ初の試みがなされている。

 

『プレデター:バッドランド』のメインイメージ。ティアとデク
© 2025 20th Century Studios, Inc.
『プレデター:バッドランド』ではプレデター側の物語を描く

監督のダン・トラクテンバーグによると、『プレデター:バッドランド』の最初の企画としては「プレデターが勝てる設定」を軸に物語を考えており、その一案としてナチスが敵となるアイデアを考えていたという。
トラクテンバーグによると、「『プレデターはいつも最後にボコボコにされるんだ?』というファンの間での空気感があった。彼は銀河最強のハンターであるはずなのに、いつも負けている!だから、『もしプレデターが勝ったら?』という問いを軸にしたストーリーを考えようとした。でも、ただ悪者が最後に勝つだけのスラッシャー映画にはしたくなかった。最初は『プレデター対ナチスとかだったらいいかな』って思った」とのこと。
個人的にはこの初期案もぜひ観てみたい気もするが、最終的にはプレデターの残忍さを見せつけるだけになるとのことで、この案は却下されたようだ。

ヤウージャ族のデク

物語はプレデターの一部族である、ヤウージャ族の星から始まる。ヤウージャ族のデクはまだ戦闘能力が未熟なため、正式にヤウージャ族の一員として認められていない。
デクは一人前のプレデターであることを父に示すため、最も危険な星、ゲンナ星での最強の生物「カリスク」をトロフィーとして持ち帰ると兄のクウェイに誓う。
しかし、星に帰還した父には、デクでは望み薄と考え、クウェイにデクを処刑するように命じる。クウェイは命令に背き父に刃を向ける。

 

ヤウージャ族のクウェイは父と戦うことになる
© 2025 20th Century Studios, Inc.
クウェイはデクの命のために父と戦うことになる

クウェイはデクを宇宙船に閉じ込め、ゲンナ星へ向かうようにセットする。そして父はデクの代わりにクウェイを処刑するのだった。

ゲンナ星に到着したデクは、この星の過酷さを知る。動植物のすべてが、デクを殺そうと絶えず襲いかかってくる。

 

ゲンナ星の動植物と戦うデク
© 2025 20th Century Studios, Inc.
デクは到着早々「最悪の地」の洗礼を受ける

そんな中でデクに声をかけたのが、アンドロイドのティアだった。

ウェイランド・ユタニ社のアンドロイド ティア

ティアはウェイランド・ユタニ社のアンドロイドで生物調査のためにこの地に派遣されたのだが、カリスクに遭遇し、仲間は全滅、ティア自身は足を切断され、上半身のみでこの地に取り残されていた。

 

上半身のみのアンドロイド、ティア
© 2025 20th Century Studios, Inc.
今作はティアとデクとのバディ・ムービーでもある

「狩りは一人で行う」という掟もあり、デクはティアの協力を断るが、この星の知識とカリスクへ繋がる大きな手がかりをティアか持っていることもあり、「道具」としてティアと共に狩りを行うようになる。

監督のトラクテンバーグは、今作ではプレデターに感情移入してほしいために、人間を一切登場させないという選択を行ったという。
しかし、ティアは人間以上に人間らしい。例えるならば『エイリアン4』でウィノナ・ライダーが演じたコールのようでもある。

関連記事

[itemlink post_id="4339" size="L"] [sc name="review"][/sc] 子供の頃から『エイリアン』シリーズのファンだ。シリーズの作品の中から一つ選べと言われたら私は『エイリアン4』を[…]

ティアの望みは脚を取り戻すことと、仲の良かったアンドロイドのテッサとの再会だった。
今作のポスタービジュアルでも、ティアを背負ったデクの姿が印象的だが、個人的にはこちらも『エイリアン4』のクリスティとブリースからの連想ではないかと考えている。
『バッドランド』が『エイリアン』シリーズと同じ世界観であることは、アンドロイドの製造元がウェイランド・ユタニ社であることからも明白だ。本作は『プレデター』シリーズのお約束ももちろん踏襲しているが『エイリアン』シリーズの明らかなオマージュもいくつか見られる。こちらは後ほど解説していこう。

謎の生物 バド

デクとティアは旅の途中である生物と出会う。圧倒的な戦闘力とは裏腹に明らかに何かの子供であり、ティアも見たことのない生物だった。デクとティアに懐いたその生物に、ティアは「バド」と名前をつけて可愛がるが、デクはドクを置いてティアとともに狩りに出かける。
ティアはデクになぜそんなことをするのかと尋ねるが、デクは故郷の星での経緯を語る。ティアはそんなデクに地球の話をし、「地球で最も強いオオカミのリーダーは強いからリーダーなのではなく、皆を守るからリーダーなの」と諭す。

一方、ウェイランド・ユタニの施設内では、カリスクに襲われたテッサが自己修復を終えていた。

 

ウェイランド・ユタニの施設内で自己修復中のテッサ
© 2025 20th Century Studios, Inc.
エル・ファニングはティアとテッサの二役を演じている

プロジェクトの管理システムである「マザー」からは、任務であるカリスクの生体捕獲と、ティアがヤウーシャ族のプレデターに「連れ去られた」と伝えられる(ちなみにマザーは『エイリアン』にも登場する管理システムだ)。

関連記事

[sc name="review"][/sc] 小学生の時から『エイリアン』シリーズのファンだ。具体的にいつから好きになったかは記憶にないが、『エイリアン4』を映画館に観に行ったことを覚えているから、少なくても10歳のころには[…]

ティアは過去にカリスクに襲われた現場に辿り着く。ティアは脚を見つけ、再度結合を試みるが、現れたカリスクとデクの戦いによる影響で失敗。

 

バッドランド最強の生物カリスクに挑むデク
© 2025 20th Century Studios, Inc.
デクはゲンナ星最強のカリスクに挑む

デクはただでさえ強敵の上に、頭部を切断しても再生する不死身のカリスクに苦戦するが、カリスクがデクにとどめを刺そうとする瞬間、カリスクはなぜか攻撃をやめる。

テッサ

そこへ登場したのはウェイランド・ユタニ社のアンドロイドチームとテッサだった。テッサはデクの乗ってきた宇宙船にあった武器を使い、カリスクとデクを冷凍状態にして捕獲する。
元々ティアの任務はデクを利用しカリスクの元へたどり着くことだったが、豊かな感情を与えられたティアはデクを大切な仲間として感じていた。テッサは感情に支配されたティアの無効化を決める。デクは利用されたことに憤慨するものの、それでも自らを助けようとするティアの姿と、ティアもまた弱いと判断されて自分と同じ運命になりつつあること、テッサの中に自らの父の姿を見たことで、ティアを再び信じて、ウェイランド・ユタニ社の施設から脱出に成功する。

武器のほとんどを奪われたデクは、星の生物を使い、手製の武器を拵えていく。ここは第一作目『プレデター』で装備を失ったダッチが、ジャングルの中で木や枝を使い、原始的な武器を準備していた場面を思い出させる。

関連記事

『プレデター』は奇妙なSF映画だ。異星人との遭遇を描いた映画だが、宇宙船(UFO)はほとんど登場しない。物語の舞台も人工物が何もないジャングルだ。異星人との遭遇ならば、例えば『エイリアン』は人間が宇宙まで活動域を広げた未来を舞台にし[…]

そこへバドも合流する。デクはバドを改めて見て、その正体に気づく。バドはカリスクの子供だったのだ。

『エイリアン2』の再現

デクとバドはウェイランド・ユタニ社の施設へ到着すると、アンドロイドたちを片っ端から破壊していく。目的はティアとカリスクの解放だ。

 

ウェイランド・ユタニ社のアンドロイド
© 2025 20th Century Studios, Inc.
ウェイランド・ユタニ社のアンドロイド部隊

ティアもデクの手助けによって脱出に成功し、脚とも再度結合する。
しかし、そこに襲いかかってきたのがテッサであった。テッサはパワーローダーに乗り込み、デクに戦いを挑む。
ここは明らかに『エイリアン2』の再現だ。『エイリアン2』では、シガーニー・ウィーバー演じるエレン・リプリーがパワーローダーに乗り込み、エイリアン・クイーンに戦いを挑む。リプリーはニュートという疑似家族を守るために戦うのだが、デクもまたティアやカリスクの命を背負って戦っている。

関連記事

[itemlink post_id="4373"] 1979年に公開された『エイリアン』、その撮影現場で監督のリドリー・スコットは常にスタジオからの圧力に晒され続けた。そのために現場には常に緊張感が漂っていたという。しかし、公開してみ[…]

戦いの行方は、解き放たれたカリスクによってテッサが捕食され幕を閉じる。再会を喜びあうバドとカリスクだったが、カリスクは苦しみ出し、やがて破裂し四散する。中からテッサがカリスクを破壊したのだ。
ティアがテッサに決別を告げると、テッサはティアにレーザー砲を向ける。これも『プレデター』シリーズのお約束だろう。だが、今にもレーザーを発射する刹那、テッサはバドとデクに倒される。

本当の家族

故郷へ帰還したデクは、父にトロフィーとして、テッサの頭部を渡す。だが、父はそれを狩りの証とは認めなかった。デクはついに父と戦う。

 

デクはついに父と戦い、ついに父を殺す
© 2025 20th Century Studios, Inc.
故郷に戻ったデクは父を倒す

父は最期にデクを一族の後継者として認めるが、デクは「俺には本当の家族がいる」と言う。その先にはティアと少し成長したバドの姿があった。
そんな中、新たな宇宙船が三人の目の前に現れる。デクは「母上だ」と言い、新たな戦いの準備をするところで作品は幕を閉じる。

『プレデター:バッドランド』のプレデター像

『プレデター:バッドランド』に関しては、これまでのプレデター像からすると、あまりにかけ離れていることは否めない。「プレデターである必要性はないのでは?」というレビューもある。そう言われる理由もわかる。過去作にあった『プレデター』らしいホラー描写、光学迷彩による透明化とそれ故にどこから襲ってくるかわからない恐怖、そのようなものは本作には存在しないからだ。
だが、『プレデター:バッドランド』の内容を新規キャラクターを用いてゼロからキャラクター説明をするよりも、既存のキャラクターを利用した方が物語はずっとシンプルになる。
となると、それにふさわしいキャラクターはやはりプレデターしかいないのである。

父殺しの意味

プレデターの世界は戦闘力によって序列が定められた家父長制だが、本作においては父殺しが大きな意味を占めている。
父殺しの物語は古来から成長における大きなテーマでもあった。おそらく最古の物語は紀元前427年ごろに成立した『オイディプス王』の物語だろう。
『オイディプス王』はそれとは知らずに自分の父を殺し、母を妻にした男の話だが、その内容に関しては、少年が自己を確立する過程で乗り越えねばならない試練を象徴的に表現したものと解釈されている。すな
『プレデター:バッドランド』もその系譜の一つと言えるだろう。

だが、ラストシーンで母との戦いの準備をしているのは興味深い。大抵、父殺しの動機は母への愛情ゆえと解説されるが、ここでは全く真逆なのである。
もしかしたら、プレデターの社会とは『エイリアン』同様に、母親が最も強い社会なのではないかとも思う。男たちは単なる戦闘員であり、本当のリーダーは女なのではないか。

「自分の生き方は自分で選べる」

ティアは劇中でデクに「自分の生き方は自分で選べる」と伝える。デクはプレデターの掟を無視し、仲間を助けるようになった。そして家父長的な家族から脱して、自らの家族を作り上げる。
それは現実社会へのメッセージでもあるのだろう。

最新情報をチェックしよう!
NO IMAGE

BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

CTR IMG