
草彅剛の主演で『新幹線大爆破』がNetflixでリメイクされるという(この記事を書いてるのは2025年5月4日)。
『新幹線大爆破』と言えば、1975年に公開された高倉健主演の人気作だ。新幹線に爆弾が仕掛けられ、時速80キロを下回ると爆発してしまう。犯人の逮捕と爆弾の解除に奮闘する警察や鉄道職員の奮闘を描いた作品だ。
当時の東映の岡田茂社長は「海外でヒットしたものは国内でもヒットする」とのポリシーを持ち、本作も『タワーリング・インフェルノ』や『ポセイドン・アドベンチャー』のアメリカでのヒットを受けて企画されたという。
また、当時同じような任侠映画の役を演じることにうんざりしていた高倉健は本作の面白さに惚れ込み、自ら犯人グループの主犯である沖田哲男役を志願したという逸話もある。
『新幹線大爆破』は国内では興行的に失敗してしまったが、ヨーロッパを始め海外では空前の大ヒットとなっている。
そんな『新幹線大爆破』に大きな影響を受けていると言われるのが、1994年に公開された『スピード』だ。
『スピード』
監督はヤン・デ・ボン、主演をキアヌ・リーヴスとサンドラ・ブロックが務めている。脚本を書いたグレアム・ヨストは『スピード』の着想元は黒澤明が企画していた映画『暴走列車』の脚本からだと述べているが、『新幹線大爆破』と『スピード』の共通点をみれば、その言い訳はやや苦しいのではと思う。
『スピード』は時速80キロ以下になると爆発するバスが物語の舞台となる。
簡単にあらすじを説明しよう。SWAT隊員のジャック・トラヴェンは相棒のハリーとともに、高層ビルのエレベーターに閉じ込められた人々の救出を行う。そのエレベーターには爆弾が仕掛けられており、犯人の要求300万ドルを1時間以内に準備しないと爆発する仕組みになっていた。
なんとかジャックとハリーは乗客の救出に成功するが、ジャックは犯人の爆弾魔がビル内に潜んでいるのではと考える。そして、その可能性があるのは貨物用エレベーターの中だった。そこへ急行し、爆弾魔を追い詰めるジャックだが、あと一歩のところで爆弾魔の爆弾が爆発。犯人の死亡という形で事件の幕は下りたかに思われたが、ある日ジャックの目の前でバスが爆発。近くの公衆電話が鳴り、その声からジャックは爆弾魔がまだ行きていることを知る。
自身の計画を邪魔したジャックへの復讐を企む爆弾魔は次のゲームとして、別のバスに爆弾を仕掛けたという。そして時速80キロを下回ったり、乗客が1人でも降りればとそのバスは爆発する。
ジャックはそのバスに乗り込むが、乗客の男がパニックを起こし、運転手を誤射。乗客の一人であるアニーが代わりにハンドルを握ることに。ジャックはバスに仕掛けられた爆弾のことを乗客に伝え、彼らの協力も得ながら事件の解決へ動いていく。
『ダイ・ハード』以降のアクション映画
『ダイ・ハード』の解説記事でも書いたが、『ダイ・ハード』以前のハリウッドのアクション映画と言えば、シルヴェスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーのような筋骨隆々の超人的な動きをする無敵のヒーローが活躍する作品だった。
しかし、1988年に公開された『ダイ・ハード』は以降のアクション映画を変えてしまった。ブルース・ウィリスが映画界のアクションスターとして認知されるきっかけになった作品でもあるが、元々はテレビ俳優であったブルース・ウィリスの人気の無さから、当初はあまりヒットを期待されていなかったという。
だが、ブルース・ウィリス演じるジョン・マクレーンは多くの人が共感できる「普通の男」だという所に斬新さがあった。それまでの好戦的かつ無敵の超人ではなく、たまたま事件に巻き込まれ、たまたま自分しか対処できる人がいないので、仕方なく事件と向き合っている。決して目を見張るようなマッチョマンでもなく、様々な勲章や経歴を誇る能力の持ち主でもない。マクレーンはスタローンやシュワルツェネッガーという「強いアメリカ」を体現した存在ではなく、それどころか、家庭でも肩身の狭い、没落した男性なのだ。
しかし、『ダイ・ハード』はそんなマクレーンをヒーローとして描き出していく。それはマクレーンのような実直だが時代に合わせて上手く立ち回ることのできない当時の男性たちからの共感もあったのではないだろうか。
『ダイ・ハード』は公開されると前評判を覆し、その年の北米の興行収入においてアクション映画の本命と目されていた、シルヴェスター・スタローン主演の『ランボー3/怒りのアフガン』やアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『レッドブル』を超える売上を記録した。
『プレデター』から『スピード』へ
基本的には『スピード』も『ダイ・ハード』の延長線上に生まれたアクション映画と言っていいだろう。
『ダイ・ハード』の監督はジョン・マクティアナン。『ダイ・ハード』の前にはシュワルツェネッガー主演の『プレデター』を監督している。ここで興味深いのは『プレデター』におけるシュワルツェネッガーは超人的なヒーローではないということだ。シュワルツェネッガー演じる特殊部隊員のダッチは、むしろプレデターを警戒し、地道に罠を仕掛け、全身に泥を塗りたくることで、プレデターの赤外線感知を無効化するという頭脳プレーを行っている。もちろん最強とはほど遠く、プレデターに殴られ、投げ飛ばされ、這いずり回って逃げ惑う描写さえある。
つまり、ここで既にジョン・マクレーンに通じるキャラクターをマクティアナンは提供している。さらに言えばマクティアナンは『プレデター』製作時から「銃を子供たちの憧れの道具にしたくない」とも述べてもいる。劇中でダッチ率いる特殊部隊員たちが一斉にプレデターに向かって銃を乱射する場面があるのだが、それでもプレデターにはかすり傷程度しか負わせられない。これは銃を美化しすぎないように、あえて少し間抜けに見えるように撮ったのだという。また『ダイ・ハード』でもマクレーンが銃を反射するのは人間に向かってではなく、ガラスに向かってだ。それもマクティアナンのこだわりだった。
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異質のアクション・ヒーロー
そんな『ダイ・ハード』の撮影を行ったのが『スピード』の監督でもあるヤン・デ・ボン。『ダイ・ハード』は高層ビルの中という一つの限られたシチュエーションの中で物語が進むが、『スピード』もエレベーター、バス、電車と限られた空間でアクションが進んでいく。特に『スピード』は『ダイ・ハード』が先鞭をつけた非マッチョのアクション映画をさらに推し進めてもいる。
主演のキアヌ・リーヴスはブルース・ウィリス以上に筋肉のイメージのない俳優だろう。キアヌは1991年に公開された『ハート・ブルー』を除いて、キャリアの大半をアート系映画へ出演が占めていた。
キアヌ自身も筋肉のない自分にはこの役は難しいと思っていたそうだ。しかし、監督のヤン・デ・ボンはキアヌの若さや体つき、整った顔を見て、トップスターの資質をすべて兼ね備えていると確信する。
そしてキアヌ・リーヴスはジャック・トラヴェン役に決まると、2ヶ月間のトレーニングを積み、役柄のSWAT隊員として説得力のある動きを身に着けていった。
このジャック・トラヴェンもスーパーマンではない。若さ故の無鉄砲さはあるが、常に自信がみなぎるタイプではなく、その決断にはどこか不安げな雰囲気もまとっている。さらにはマクレーンとは異なり、ジャックは劇中の大部分で銃すら使わない。それまでにない、異質のアクション・ヒーローだ。
ヤン・デ・ボン自身、ありふれたアクション映画にはしたくなかったと述べているが、今観ても全く古さを感じさせない。それにはジャックや、サンドラ・ブロック演じるアニー、デニス・ホッパー演じる爆弾魔など、それぞれのキャラクター造形がそれまでのステレオタイプを覆すものだったのも大きいだろう。
「操り人形のようだった」
サンドラ・ブロックはそれまでにも1993年に公開された『デモリションマン』でヒロインに抜擢されているものの、「操り人形のようだった」と当時を振り返っている。『デモリションマン』は近未来を舞台にしたアクション映画だ。40年間の冷凍状態から目覚めた刑事が同じく40年間の冷凍睡眠から目覚めた凶悪犯を追う物語なのだが、サンドラ・ブロックの役はシルヴェスター・スタローン演じる刑事、スパルタンのパートナーとなる女刑事だ。だが、その描かれ方はステレオタイプで、サンドラ・ブロックである必然性はどこにもなかった。
一方、『スピード』ではジャックとともに乗客の命を握るキーパーソンとなっており、互いにジョークを飛ばす場面もあるなど、サンドラ・ブロックの「ガール・ネクスト・ドア」と呼ばれる親しみやすさが上手く表現されている。
デニス・ホッパー
また、どのキャストも敬意を持って称賛するのが名優デニス・ホッパーだ。その怪演ぶりが強烈な印象を残すホッパーだが、監督のヤン・デ・ボンによると、ホッパー演じる爆弾魔は悪人に見えなければならない一方で、観客に嫌われないようなキャラクターにしたいと思っていたという。また、キアヌ・リーヴスは爆弾魔をどこか悲哀が感じられるキャラクターと評してもいる。
実は『スピード』において、登場人物のバックグラウンドが語られるのはこの爆弾魔だけなのだ。当初はアニーの職業や、ジャックの父親との関係(父は息子の警察の仕事に反対している)も撮影されていたのだが、編集でカットになっている。本編に関係のない情報であることと、より物語をスピーディーに展開させるために不要と判断されたのだろう。
ヤン・デ・ボンは今作が監督デビュー作でありながら、既にパニック映画とは何か、アクション映画とは何か、そしてエンターテイメントとは何かを熟知しているようにも感じる。
ジャックの挑戦と焦り、アニーの緊迫感と勇気、バスの乗客達の不安をどうしたら観客にも同じように感じてもらえるか、逆に言えば目の前の状況から目を逸らさせる要素は邪魔だとも言える。『スピード』は未公開シーンがほとんどない。つまり、何を撮りたいのか、何を撮ればいいのか、ヤン・デ・ボンは並の監督よりはるかに理解できていただろう。
サンドラ・ブロックはヤン・デ・ボンを高く評価し、多くの映画で撮影としてクレジットされてきたヤン・デ・ボンを「絶対に監督のようなこともしていたはず」だと推測している。
また、ヤン・デ・ボン自身もこれまでの作品の中で、撮影しながら俳優に今の演技はよかったなどのアドバイスを行っていたと語っている。
アクション映画の世代交代
『スピード』の唯一の欠点はキアヌ・リーヴスと続編出演の契約を結ばなかったことだろう。キアヌ・リーヴスの元には同時期に『ディアボロス 悪魔の扉』の出演オファーも来ており、アル・パチーノとの共演を望んだキアヌはそちらを選んでしまった(このことについて、後年キアヌは「サンドラ・ブロックに悪いことをした」と述べている)。続編となる『スピード2』は興行成績、批評ともに『スピード』には及ばなかった。
『スピード』の興行収入は3億5000万ドル、、比べて『スピード2』は1億6500万ドルである(余談だが『スピード2』は『スピード』の5倍近い製作費をかけている)。
ちなみに『スピード』と同じ1994年にはマッチョヒーロー、アーノルド・シュワルツェネッガー主演で史上初の製作費1億ドル超えの映画『トゥルーライズ』が公開されている。しかしながら『トゥルーライズ』の興行収入は2億9800万ドルとなり、『スピード』には敵わなかった。『スピード』はまさにアクション映画の世代交代を象徴する作品だと言えるのではないだろうか。
作品情報
『スピード』公開年:1994年
上映時間:115分
スタッフ
監督ヤン・デ・ボン
脚本
グレアム・ヨスト
製作
マーク・ゴードン
製作総指揮
イアン・ブライス
キャスト
キアヌ・リーブスデニス・ホッパー
サンドラ・ブロック
ジョー・モートン
ジェフ・ダニエルズ
アラン・ラック