
※以下の考察・解説には映画の結末のネタバレが含まれています
ゴジラが人類の脅威だとするならば、人類の味方と言える怪獣はガメラだろう。
私がリアルタイムでガメラ映画に触れたのが今回紹介する『ガメラ 大怪獣空中決戦』だ。いわゆる「平成三部作」は特撮映画として非常に評価が高いのだが、今回30年ぶりに観返してみて、その理由が理解できた。
『ガメラ 大怪獣空中決戦』
『ガメラ大怪獣空中決戦』は1995年に公開された、ガメラ映画としては9作目になる作品だ。監督は金子修介、主演は伊原剛志、中山忍らが務めている。特技監督を務めたのは樋口真嗣だ。
すでに公開から30年を超えた本作だが、いまだに熱烈なファンも多い。「ガメラEXPO」に参加した中山忍も自身のインスタグラムで「こんなに長く愛される映画に参加できて感謝しています」と投稿していた。
本作がなぜ映画ファンからこれほど愛されているのか。
金子修介が目指した「怪獣映画」、樋口真嗣の作り出した「特撮」からその答えを探していこう。
亀みたいなアレ
実は監督の金子修介は、子供の頃からガメラを全くかっこいいと思えなかったそうだ。
平成ガメラシリーズの制作の裏側を綴った著書『ガメラ監督日記』にはゴジラに比べて「ガメラは二番煎じで幼稚な気がしていた」と少年の頃の印象が回想されている。
金子修介はその理由として、ガメラの飛行形態の不自然さを挙げている。
「決定的だったのが、『回転ジェット』と呼ばれる飛行形態である。これは、どうにも納得できなかった。 怪獣のくせに、どうして円盤みたいに飛ぶんであろうか? 生物だろ? しかも、炎の先っぽがガスバーナーのように上を向いてる。 『回転ジェット』の写真や、テレビでの宣伝映像を、当時見た小学生の僕は、まったく感心しなかった」

『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』での回転ジェット。確かにUFOみたいで不自然
だが、金子少年はゴジラやウルトラマンといった「円谷特撮」には夢中になっており、映画監督となってからは、いつかは怪獣映画を撮ってみたいという想いはあったそうだ。
『ガメラ監督日記』には1991年に『ゴジラVSキングギドラ』を観に行った時には本編以上に『ゴジラVSモスラ』の告知に興奮したというエピソードが綴られている。
その当時、『ゴジラVSモスラ』の映画制作は決まっていても、監督はまだ決まっていなかった。そこでゴジラ映画のプロデューサーである富山省吾に年賀状を出し、是非にと自身を売り込んだが、この時はゴジラ映画の監督は叶わなかったという。
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ガメラ映画の企画を持ちかけられた時もこの経緯を知る人物から「ガメラでゴジラの仇を取りましょう」と説得されたが、「ゴジラとガメラでは格が違う、だって亀だぜ」とその内心を明かしている(ちなみに妻にガメラのことを訊くと、「亀みたいなアレ?」と言われたそうだ)。
この「ガメラに興味がなかった」という点は平成ガメラシリーズの成立に置いて大きな意味を持つ。
大人も納得できるガメラ映画
大映が望む「昭和ガメラの延長」ではなく、金子修介は「大人も納得できるガメラ」を目指した。
物語は海上保安庁の巡視船が夜の海を航海している場面から始まる。巡視船「のじま」はプルトニウム護送船の「海竜丸」の護衛の任にあたっていた。
日本到着ももうすぐという頃、海竜丸からのじまに「座礁した」との緊急連絡が入った。そこ6000m以上の深さのある海域で、座礁などありえない。しかもその座礁した原因の環礁は次第に海竜丸から離れていったのだ。のじまの一等航海士である米森は上司であると草薙ともにその事件の調査を行うことになる。
そのころ、福岡市動植物園でフィールドワークを行っていた鳥類学者、長峰真弓に不可解な電話がかかってきていた。その相手は恩師の平田のようだが、音声はなく、悲鳴のようなものが聞こえるばかりだった。
一方、平田が訪れていた長崎県の姫神島では、謎の怪鳥に住民が襲われるという事件が発生。
その後、長峰の元に長崎県警の大迫が訪れ、上記の怪事件を報告する。

福岡市動植物園にて、中山忍演じる長峰真弓
このように序盤は福岡を舞台に物語が進む。
なぜ福岡を舞台にしたのか、金子修介によると、福岡は怪獣映画の動員数が良いらしく、そこで『ガメラ』も福岡から火をつけようという大映の思いがあったそうだ。
怪鳥「ギャオス」
長峰は謎の怪鳥の調査に長崎県の姫神島へ向かう。そこで長峰が目撃したのは無残に荒れ果てた集落と鳥が吐き出したと思われるリベットの中にあった、平田の私物のペンであった。
長峰は尻込する大迫を一喝し、島の奥地へと足を踏み入れる。そこで長峰たちが目撃したのは2メートルを超える巨大な怪鳥が飛び立つ光景だった。
長峰はヘリを使い、なおもその怪鳥を追う。そしてその姿をカメラに収めようとした瞬間、怪鳥がフラッシュの光に怯む様子を見て、怪鳥の弱点が光であることに気づくのだった。

カメラのフラッシュによってヘリから離れるギャオス
政府はその怪鳥「ギャオス」を貴重な生物として生体捕獲するように長峰に案を要求する。
あんなに凶暴で巨大な怪鳥をどうやって?
困った長峰へ、大迫が持ってきたのはスポーツ新聞の一面だった。そこにあるのは「福岡ドーム」の文字だった。
特撮映画とその時の時代
この新聞の見出しをみると、まだソフトバンクホークスがダイエー時代のものであり、現在は監督を務めている秋山幸二が現役時代のものだ。また『ガメラ 大怪獣空中決戦』では、ガメラが中洲に上陸するが、当然ながら1996年にオープンしたキャナルシティ博多の姿はまだない。

秋山幸二が現役時代のスポーツ新聞。こういう小道具からも時代を感じとれる
映画の魅力の一つとして、やはり当時の時代をそのままパッケージしてしまえるのは大きいと思う。『ガメラ』の撮影当時(1994年)は携帯電話もインターネットも一般的なものではなかった。それだけでも一つの時代を確かに切り取ったものになる。同じ福岡で言えば、他にも1956年に公開された本多猪四郎監督の『空の大怪獣ラドン』も福岡の都市がジオラマで再現されているが、同時に戦後の福岡の街並みを伺い知れる貴重な映像にもなっていると思う。
話を戻そう。
福岡ドームではギャオスの捕獲作戦が始まる。エサとして用意された筋弛緩剤入りの肉と、自衛隊が不測の事態に備え待機するなど万全の構えだ。
ちなみにこのギャオス捕獲作戦だが、当初の脚本は関門トンネルを利用しての捕獲という設定だった。
この変更も、前述のように福岡を推したいという大映の思いがあったからだ。
福岡ドームの裏話
さて、「新しく出来たランドマークは怪獣に破壊される」というのは怪獣映画の伝統だが、福岡ドームはこの時、完成して1年ほど。
少し裏話になるが、本作の1年前に公開され、同じく福岡を舞台にした『ゴジラVSスペースゴジラ』では百道浜と福岡タワーが重要な舞台になる。そこで事前に「福岡ドームは『ガメラ』に譲る」という話し合いがなされていたという。それを証明するかのように、『ガメラ』には一切福岡タワーが映されない。

『ゴジラVSスペースゴジラ』から。スペースゴジラの背後に映っているのが福岡タワー
ちなみに、福岡ドームがギャオス捕獲作戦の舞台に選ばれたのは、ドームが全国的にも珍しい開閉式の屋根を持つということがあるのだが、劇中では、開閉部分の屋根の位置を反転させたり、実際の開閉が1時間ほとかかるのを、早回しして短く見せるなどの工夫がされている。
長峰らの考案した作戦で、2匹はなんとか捕獲できたものの、もう1匹はドームの天井が閉まりきらないうちに麻酔銃を放ったため、空へ逃がしてしまう。そこへ現れたのが例の「巨大な環礁」だった。それは起き上がって怪獣としての正体を現しながら、空へ逃げたギャオスを倒し、中洲を通って福岡ドームを目指していく。

福岡ドームに出現したガメラ
予期せぬもう一体の怪獣「ガメラ」の登場にドーム内外は騒然となるが、捕獲された2匹のギャオスは超音波で檻を切断し、空へと逃げていく。ガメラもまたそうなることを予期していたかのように、ギャオスを追って飛び去っていく。
後日、長峰と米森は成体となったギャオスに襲われそうなところをガメラにより助けられる。二人はガメラは敵ではなく、人間の味方だと感じ取っていた。

長峰と米森の危機を、間一髪でガメラが助ける
ちなみにギャオスは幼体→亜成体→成体と成長していく怪獣という設定だが、映画の中では体が大きくなるだけで見た目上はほぼ区別がつかない。本来はは頭がかなりでかく、ちょっと、かわいく気味悪いというフォルムだったらしいのだが、予算の都合でギニョールの新規作成は難しく、成体ギャオスのギニョールを目だけ入れ替えて使いまわしているという。
『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』
また、ギャオスら怪獣の設定だが、平成ガメラシリーズでは、昭和のガメラシリーズとは異なり、ガメラもギャオスも超古代文明が作り出した生物兵器であると設定されている。
ここも制作の裏話を紹介しよう。
ストーリーにおいては、脚本を担当した伊藤和典は『キングコング対ゴジラ』のようにガメラとギャオスそれぞれの物語がカットバックして進んでいくという構成のアイデアが提案され、金子修介は両社の設定として『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』を参考にしたと語っている。
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「(『キングコング対ゴジラ』を提案した伊藤和典に)僕は『サンダ対ガイラ』の話をした。 怪獣という奴は1匹でも出てくると大変な事態であるはずなのに、怪獣大国の日本では、「対決怪獣モノ」というジャンルが確立していて、1匹だけの怪獣映画だと観客の満足度が低くなってしまう場合がある。しかし、このジャンルの歴史をひもとくと、ストーリーに無理があるものが多い。大嘘を一つの映画の中で二つもつかなければならないから、やがて破綻してしまうケースに陥りやすいのだ。
その点、『サンダ対ガイラ』は一つの細胞から生まれた兄弟怪獣が戦うことになるという悲劇で、2匹の怪獣が存在することに無理がない世界観があり、現在、大人が見てもかなり面白く見られる。こういう世界観でいきたい、と僕は思った」
樋口真嗣の特撮技術
一方、政府はギャオスよりガメラを脅威と見なし、攻撃対象をガメラに変更する。ギャオスはその隙をつくように東京の市街地へ出現、人間を食糧とするために電車を襲撃し、人間たちを捕食していく。
政府はようやくギャオスへの対応を捕獲から駆除に舵を切り、自衛隊によってギャオスを攻撃させる。
ここでは東京の日常の風景をギャオスが襲う場面が描かれるが、ミニチュアをオープンセットで組んだり、人間の目線で怪獣を見せるといった樋口真嗣の特撮技術が活きている。
金子修介は『ガメラ大怪獣空中決戦』の特撮について次のように語っている。
「それまでの怪獣映画はミニチュアセットにいる怪獣の目線で撮っているせいで、怪獣があまり巨大に見えないのが以前から気になっていたんです。なので『ガメラ』では人間の目線で撮ることで巨大さや臨場感を出そうと考えたわけです。それから特撮のミニチュアをオープンセットで撮ったことも大きいと思います。実際、時間も手間もかかるしカメラのセッティングも大変なんですが、ミニチュアが実景に見えてリアリティが出るんです」
ギャオスは自衛隊のミサイルを巧みに誘導し、東京タワーを破壊させ、壊れたタワーを営巣地とする。

東京タワーに営巣するギャオス。個人的には日本特撮映画史上でも有数の美しさ
金子修介によると、ギャオスが巣を作るのは、高層マンションのヴァンダール千住北ニューシティの予定だったという。しかし、樋口真嗣から「東京タワーにしましょうよ。やっぱり怪獣映画なら東京タワーでしょ!」と言われて変更という経緯がある。
ガメラVSギャオス
いよいよ自衛隊が総攻撃を仕掛けるという時、地中から傷を癒したガメラが現れる。
ガメラはギャオスの営巣地を巣や卵もろとも破壊する。両者の戦いは拮抗するも、ギャオスの超音波メスによってガメラはコンビナートに叩きつけられる。
現場に駆けつけた長峰、米森、そして草薙の娘で勾玉によってガメラと交信できるようになった少女、浅黄の祈りによってガメラは復活する。
復活してパワーを増したガメラはプラズマ火球によってキャオスを倒す。

ギャオスに最終攻撃を行うガメラ。
戦いを見守った草薙は「ギャオスの卵はまだ世界中にあるかもしれない」と言う。
「今度もガメラが現れてくれるとは限らない」と応える長峰に、浅黄は「ガメラはきっと来る」と確信するのだった。

ガメラと交信する少女、浅黄を演じたのは藤谷文子。父はスティーヴン・セガール
『ガメラ 大怪獣空中決戦』は何を残したか
さてこの『ガメラ 大怪獣空中決戦』だが、最終的な動員は80万人。6億円の製作費に対して、配給収入5億2000万円であった。これは配給収入でいくと『ゴジラVSスペースゴジラ』の3分の1の成績である。
ソフト化のセールスを含んで収支の合う数字だが、金子修介はその原因を次のように語っている。
「子供にとっては、『未知なるものを映画館に発見しに行く』ことより、『既に知っているものを映画館に確認しに行って興奮する』ことのほうが、行動を起こしやすい。ガメラという怪獣は知っていても、それが『見たい』と行動を起こすまでには、心理的ハードルがあり、それを、クリア出来なかったようだ」
一方、樋口真嗣は『ガメラ』を振り返って以下のように述べている。
「時間も予算もなく、正直に言うと1作目は妥協の産物。高い評価をいただけたのは各々のスタッフが頑張ってくれたことと、金子監督の協力に尽きます」
だが、日本映画史上初となったアカデミー賞視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』監督の山崎貴は、平成ガメラシリーズの特撮に『ゴジラ-1.0』は影響を受けていると公言している。
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左下には漢字の看板が。『ブレードランナー』はそれまでのSF映画における未来都市のイメージを一変させた。
そう思うと『ガメラ 大怪獣空中決戦』が今までもはもちろん、これからもどれだけの怪獣映画に影響を及ぼすかは未知数だと言えるだろう。