『ターミネーター』

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今回はSF映画の名作である『ターミネーター』について解説したい。

子供の頃に『ターミネーター』の設定を知った時は衝撃的だった。金属の骨格を生きた生体細胞で覆うなんていう奇抜なアイデアは『ターミネーター』以外では聞いたこともない。
『ターミネーター』はその後数多くの続編と映画のみならず様々なメディア展開を果たす一大フランチャイズになるわけだが、それも一作目の『ターミネーター』がとても優れた映画だったからだろう。

『ターミネーター』

『ターミネーター』は1984年に公開されたジェームズ・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSF映画だ。

近未来、高度に発達したA.I.であるスカイネットが自我に目覚め、人類に反旗を翻した。8月29日、スカイネットはソ連に向けて核攻撃を行い、ソ連は報復としてアメリカにやはり核攻撃を行った。こうして世界は核兵器により壊滅的な打撃を受け、30億人もの犠牲を出すことになった。そのきっかけの日を「審判の日」という。それから人類とスカイネットとの戦争が始まる。

当初劣勢だった人類だが、ある男の登場により、勝利は目前の所まで来ていた。その男の名はジョン・コナー。
追い詰められたスカイネットは奇策としてタイムマシンを開発し、1984年のロサンゼルスへターミネーターを送り込む。抹殺のターゲットはサラ・コナー。後にジョン・コナーの母親となる人物だ。対する人類側の抵抗軍もタイムマシンを奪い、スカイネットの作戦を阻止するためにカイル・リースという兵士を1984年に送り込む。

ジェームズ・キャメロンの悪夢

『ターミネーター』は監督のジェームズ・キャメロンの悪夢から生まれた。
ジェームズ・キャメロンの初監督作品は『ピラニア』の続編として1981年に公開された『殺人魚フライングキラー』というB級ホラー映画だが、キャメロンにとっては監督に抜擢されたにも関わらず、2週間程度で解雇され、かつその出来も良くなかった(さらに監督のクレジットにはそのままキャメロンの名前が残された)。
そのことからキャメロン自身、『殺人魚フライングキラー』は初監督作として認めたくないほどの作品となった(ちなみに『ピラニア』は大ヒットし、『ジョーズ』を監督したスティーヴン・スピルバーグもその出来を「『ジョーズ』の亜流の映画では最も素晴らしい」と絶賛、『ピラニア』の監督のジョー・ダンテはキャメロンと対称的に監督として注目される契機となった)。

さて、『殺人魚フライングキラー』の評判にショックを受けたジェームズ・キャメロンは高熱を出し寝込んでしまう。
その時に殺人マシンが自分を殺しに来るという悪夢が『ターミネーター』の元となった。
ジェームズ・キャメロンによると、寝込んだ場所が異国のローマだったため、そこで感じた孤独感もまた未来から来たカイル・リースとターミネーターに反映されているという。

俺はターミネーターだ!

ではそのターミネーターだが、当初、ジェームズ・キャメロンが候補として考えていた役者はランス・ヘンリクセンだ。ランス・ヘンリクセンは初期のキャメロンの作品の常連俳優で、前述の『殺人魚フライングキラー』では主演を務めた他、裏方としてフライングキラーの制作の手伝いなども行っていた。
当初キャメロンがイメージしていたターミネーター像は「一見ひ弱そうに見える男が異様な強さを発揮する」というものであった。実際にランス・ヘンリクセンにはターミネーター用の衣装まで着せて映画会社との打合せに出席させたという。しかし、カイル・リース役の候補として面会したアーノルド・シュワルツェネッガーのアイデアによって、ターミネーター役はシュワルツェネッガーになり、ヘンリクセンは小役の刑事の役になった(その後、キャメロンは『エイリアン2で』ヘンリクセンをアンドロイドのビショップ役にしている。また「ひ弱そうだが強い」というターミネーターは『ターミネーター2』のT1000で実現する)。

シュワルツェネッガーがジェームズ・キャメロンとの対談で明かしたところによると、当初は確かにカイル・リース役を望んでいたものの、脚本を読めば読むほどターミネーター役に惹かれていったという。また面会が終わった後に、キャメロンはシュワルツェネッガーをイメージしたターミネーターのイメージボードを送ってきたという。そのイメージを見たシュワルツェネッガーは思わず「俺はターミネーターだ!」と声に出てしまった。そしてキャメロンに連絡を取り、ターミネーター役をくれと熱望した。

一般的に演技力については厳しい評価を受けることの多いシュワルツェネッガーだが、今作では横を向くときでもまず目を動かしてから顔を動かすなど、徹底して「機械としての動き」を追求している。
また、シュワルツェネッガーには強いオーストリア訛りがあるが、ターミネーターのセリフの少なさもそれをカバーするうえでは好都合だった(ちなみに『キンダガートン・コップ』でも『ターミネーター3』の未公開シーンでもシュワルツェネッガーのオーストリア訛りに言及するシーンがある)。

テクノワール

ターミネーターの手元にある情報はサラ・コナーという名前だけ。1984年のロサンゼルスに降り立ったターミネーターはまず不良たちから服を奪い、銃砲店を襲って武器を調達する。ちなみにこの不良たちの一人を演じているのは『エイリアン2』のハドソン役で知られるビル・パクストン。ジェームズ・キャメロン作品では他にも『トゥルーライズ』の中古車セールスマン役で出演している。 そして電話帳を片手に片っ端からサラ・コナーという名前の女性を殺していく。

事態に気づいたサラ・コナーはクラブ「テクノワール」から警察に保護を求める電話をかける。その頃、ターミネーターはサラの自宅に行き、サラ本人と間違えて彼女のルームメイトであるジンジャーを殺す。しかし、留守電のメッセージから本当のサラの居場所を知り、「テクノワール」へ向かう。

プロデューサーを務めたゲイル・アン・ハードによれば、「テクノワール」という名前にはテクノロジーの暗黒面という意味合いを持たせたそうだ。このクラブの名前一つとっても作品に込められたメッセージが透けて見える。

クラブでついにサラを見つけたターミネーターは銃を抜き彼女の頭に照準を合わせる。その時、間一髪でサラを助けたのが未来から来た兵士、カイル・リースだった。
カイルはサラに「死にたくなければついてこい」と言い、サラを襲おうとした男が人間ではなく、未来から来た殺人機械のターミネーターであることを伝える。

カイルは未来の話やサラが産む子供が人類の救世主になる話を伝えるが、サラはカイルの話を信じず、警察へ逃げ込んでしまう。しかし、警察の取調べに対しても必死に危機を訴えるカイルにサラの心は少しずつ開いていった。
しかし、警察署にもターミネーターが追ってくる。警官も次々に殺される中、サラを助けたのはカイルだった。
こうしてサラは心からカイルを信頼し、ターミネーターからの逃避行を続ける。

削除されたシーンの意味

公開版ではモーテルに宿泊してサラとカイルは結ばれるのだが、削除されたシーンではサラがカイルにターミネーターの製造元となるサイバーダインの工場の爆破を提案する。
公開版では観ることができないが、このシーンは非常に重要だ。
一つはなぜモーテルでカイルとサラが多くの爆弾を作っていたのかがわかる。ターミネーターに使うためではなく、サイバーダインの工場を爆破するためだったのだ。
もう一つはここでサラが守ってもらう立場から戦う女性へと変化している点だ。サラ・コナーは本作と続編である『ターミネーター2』によって「戦うヒロイン」の代表的なキャラクターと見なされるようになったが、ジェームズ・キャメロンによると、当初からヒロインに戦わせたいという狙いがあったようで、『エイリアン』から影響を受けたと述べている。1979年に公開された『エイリアン』ではシガーニー・ウィーバー演じるエレン・リプリーは戦うヒロイン(バトル・ヒロイン)のパイオニア的なキャラクターだ。また恐らく終わったと見せかけて、もう一幕残っているというストーリー展開も『ターミネーター』に影響を与えているのは明白だ。

ジェームズ・キャメロンと「戦う女性」

また「戦う女性」はキャメロン自身の理想とする女性観でもあった。キャメロンが監督を務めた『エイリアン2』にはリプリー以上の戦う女であるバスクエスが登場する(演じたジェニット・ゴールドスタインは『ターミネーター2』にもジョンの養母役で出演している)。
ジェームズ・キャメロンは『ターミネーター』の撮影に入る前に最初の妻のシャロンと離婚する。シャロンはそれまで貧しかったキャメロンを懸命に働いて支えてきたが、『ターミネーター』に取り掛かるうちにキャメロンはプロデューサーのゲイル・アン・ハードとの仲を深めていったからだ。キャメロンが選んだのもまた男を支える女性ではなく、常に前線に立って共に戦う女性だった。

モーテルの部屋でカイルとサラは結ばれる。しかし、リードするのはカイルではない。それまで愛を知らないカイルを慈しむようにサラはカイルを招き入れる。
だが、モーテルにもターミネーターが来襲し、二人は間一髪で逃げ出す。しかし、ターミネーターもあらゆる手段で二人を追う。
カイルがターミネータの乗ったタンクローリーを爆発させ、今度こそ終わったと思っても、ターミネーターは骨格だけになってもなおも襲ってくる。

『ターミネーター』は製作予算の都合でタンクローリーの爆発で終わる可能性もあった。しかし、『ターミネーター』で重要なのはむしろここからだ。
サラとカイルは工場の中へ逃げ込む。満身創痍のカイルを鼓舞し引っ張っていくのはサラの方だ。ここで「戦う女性」へもサラは完全に変貌を遂げている。
カイルはターミネーターに爆弾を突っ込むが、相討ちになり死亡する。だが、ターミネーターは上半身だけになっても執拗にサラを追う。サラはターミネーターをプレス機に誘い込み、間一髪でプレス機でターミネーターを押しつぶす。

数カ月後、犬を連れて一人車を走らせるサラのお腹には新しい命が宿っていた。そして、ジョンの父親こそ、未来からやっきたカイル・リースだったのだ。

『ターミネーター』の時代

『ターミネーター』が公開された1980年代は共和党のロナルド・レーガンが政権に就いた時代でもあった。「強いアメリカ」を反映するかのように、『ターミネーター』は無敵のサイボーグであるT‐800が任務の邪魔になる人々を殺しまくる。

レーガンはキリスト教福音派の協力なサポートを得て大統領選挙を勝ち上がったが、『ターミネーター』にもキリスト教の影響は少なからずある。救世主であるジョン・コナーのイニシャルはJ.C.であり、これはジーザス・クライストの頭文字と重なる。また、ストーリーの中で終盤になるまでジョン・コナーの父親が誰かということは明かされず、そこへの言及もほとんどなされない。
父親の不在という意味ではキリスト教におけるマリアの処女懐胎にも通じるように感じるのは考えすぎだろうか?
だが、『ターミネーター』がSF映画の新しい神話を作っていったのは事実だ。キャメロンの悪夢は、これ以上ない結末をもたらしたのである。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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