『アンブレイカブル』シャマランが描くスーパーヒーロー誕生の物語

『シックスセンス』で世界の度肝を抜いたM・ナイト・シャマランがその次に発表したのが『アンブレイカブル』だ。 主演は『シックスセンス』に引き続きブルース・ウィリスが務めているために、日本では『シックスセンス』の続編と誤認させるような宣伝も行われていたように思うが、れっきとした別作品だ。

『アンブレイカブル』

『アンブレイカブル』は2000年に公開されたM・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演のサスペンス映画。タイトルの『アンブレイカブル』とは日本語に訳すと「破壊不可能」を意味する。

今のMARVEL映画の盛り上がり(とは言っても最近は失速気味だが)の発端は2008年に公開された『アイアンマン』だ。それまでは2000年に『X-メン』、『ファンタスティック・フォー』などが単発的にはあったものの、アメコミ映画というジャンルは少なくともまだ日本では確立されていなかったように思う。
そんな時期に公開された今作はシャマラン的「スーパーヒーロー映画」だ。

シャマラン的「スーパーヒーロー映画」

大学のスタジアムで警備の仕事をしているデヴィッド・ダン。あるとき彼は列車の脱線事故に巻き込まれる。乗客は彼を残して全員死亡。しかしデヴィッドだけは無傷のまま、かすり傷一つ負わずに生還したのだった。

一方、コミックブックの画廊を経営するイライジャ・プライスは生まれつきの骨形成不全症で、幼い頃から骨折を繰り返してきた人間だった。イライジャは自分とは真逆のコミックのスーパーヒーローのような人間がいるのではないかと考え、様々な事故の情報を収集していた。
そして、待ち望んでいた「生存者たった一人、無傷で生還」に当てはまっていたのがデヴィッドだったのだ。

イライジャはデヴィッドに今まで怪我や病気をしたことはないかと問う。デヴィッドは大学の頃に今の妻とデートしていた際に交通事故に会い、アメフトの選手生命を断つことになったと話す。しかし、それ以外怪我も病気もしたことはなかった。
デヴィッドは犯罪者や武器を所持している人間が勘でわかるとイライジャに伝える。
デヴィッドが予知した男を一人で尾行するイライジャ。男は地下鉄へ逃げ込むが、歩行が不自由なイライジャは地下鉄への階段で転倒し重体になってしまう。しかし、その瞬間目にしたのは男のベルトに隠されていた銀のピストルだった。イライジャはますますデヴィッドが自分が思い描いてきたスーパーヒーローではないかという確信を深めていく。

一方のデヴィッドや妻はデヴィッドの考えを妄想だと一蹴していたが、デヴィッドは自らが驚異的な筋力を持つことに気づき、息子のジョゼフは真剣に父は「アンブレイカブル」不死身の人間ではないかと考え始める。
そして事件が起きる。ジョゼフが拳銃をデヴィッドに向けたのだ。「本当にスーパーヒーローなら撃っても死なないはず」やっとの思いで息子の手から銃を取り返したデヴィッドだったが、しかし思い出してみると交通事故の怪我も妻と結婚したいがためについた嘘で、実際は怪我も病気もしたことがなかった。
そして、今まで勘だと思っていた、悪人を予知する能力も、意識すると触れただけでその人の隠された犯罪がわかるようになった。
そうしてデヴィッドはまだ発覚すらしていない事件の少女暴行監禁犯を見つけ出し、子供二人を救出する。
メディアはその謎の男をスーパーヒーローと持ち上げるが、家族での食卓の際に、デヴィッドはこっそりジョゼフにそれは自分だと伝えるのであった。

こうして自分がスーパーヒーローであることを自覚したデヴィッドはお礼にイライジャの画廊を訪れる。そこで初めてイライジャと握手を交わすデヴィッド。
それでデヴィッドが知ったのは、イライジャがデヴィッドを探し出すために様々な事故を仕組み、多くの人を死に追いやったテロリストであったという真実だった。
イライジャは幼い頃から自分の存在する意味を探していた。そしてそれは自分とは真逆の男を探すためだと悟ったのだ。
イライジャは言う。「スーパーヒーローの対極にある人物は悪人だ」と。そして悪人にはニックネームがある。
イライジャのニックネーム、それは「ミスター・ガラス」だった。
デヴィッドはイライジャを警察に通報し、イライジャは逮捕される。そして精神病院へ収容されたことが示されて、映画は幕を下ろす。

『ジャンボ・墜落/ザ・サバイバー』と『スーパーマン』

今回はあらすじを結末まで含めて先に全て紹介したわけだが、それは『アンブレイカブル』がスーパーヒーロー誕生の物語だと伝えるためだ。
シャマランによると、スーパーヒーローモノのコミックスの中でもヒーローが誕生するまでに最も興味があったという。
普通であれば、コミックスで言えば、第1話もしくは前日譚の話であるし、スーパーヒーロー映画であっても冒頭の20分くらいで描かれてしまうような内容だが、それを2時間近くに膨らませたのがこの『アンブレイカブル』なのだ。

映画評論家の町山智浩氏は本作のストーリーについて、1981年に公開されたオーストラリア映画『ジャンボ・墜落/ザ・サバイバー』と指摘している。
たしかに『ジャンボ・墜落/ザ・サバイバー』では乗客やスタッフ全員が死亡した航空機の墜落事故で機長のみが生還するというストーリーにおいては『アンブレイカブル』とほぼ同一だが、その日から機長の周りに幽霊が現れ始めること、そしてネタバレになってしまうが、機長はすでに死んでおり、犠牲者たちの怨念によって事件の原因を究明し解決するためにこの世に生かされていたこと(なので事件の解決とともに機長は成仏してしまう)というストーリーからはむしろ『シックスセンス』に近いのでは?と思う。

『アンブレイカブル』でベースになっているのはむしろ『スーパーマン』だろう。
スーパーマンの初期設定では、スーパーマンの超能力はマッドサイエンティストによって与えられたものという設定だった。デヴィッドの能力こそ先天的なものであるが、その能力を自覚させ、スーパーマンへの覚醒をアシストしたのは悪人のイライジャであるという点が共通している。

また、この設定は日本のアニメや特撮のヒーロー物でも定番と言える。例えば『鉄腕アトム』はアトムを作り出したのはマッドサイエンティストの天馬博士であるし、さらに特撮ヒーローものの代表作でもある『仮面ライダー』は、仮面ライダーは世界征服を企む秘密組織、ショッカーの手によって生み出されたという設定だ。

さらに言えばデヴィッドが水に恐怖心があり苦手にしているという設定はスーパーマンがクリプトナイトを弱点としているのと共通している。
ちなみにジョセフがデヴィッドに銃を向ける場面は、TV版の『スーパーマン』に主演したジョージ・リーヴスが子供に実際に銃を向けられたときのエピソードを元にしているという。

今作のスタートは『シックスセンス』の撮影中にシャマランが次回作のアイデアをブルース・ウィリスに話したことがきっかけだ。1年半後に完成した脚本を読み、ブルース・ウィリスは出演を快諾。またイライジャ役にサミュエル・L・ジャクソンを推薦したのもブルース・ウィリスだ。すでにこの2人は『ダイ・ハード3』や『パルプ・フィクション』で共演した経験があった。
イライジャの役柄同様、サミュエル・L・ジャクソンもスーパーヒーローコミックの大ファンであり、後年に『アイアンマン』や『マイティ・ソー』、『アベンジャーズ』をはじめとした複数のMARVEL映画でニック・フューリー役を努め、またアメコミ映画ではないものの、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』以降の『スター・ウォーズ』シリーズではジェダイ・マスターのなかでもヨーダに並び尊敬される「マスター・オブ・ジ・オーダー(ジェダイ評議会の長)」であるメイス・ウィンドゥを演じている。

限りなくリアルなスーパーヒーロー映画

だが、『アンブレイカブル』の優れた点は一見してスーパーヒーロー映画だと思えないところだろう。個人的な意見だが、マーベルに比べるとDC原作の映画はリアリティを持った、社会の中のヒーローを描いているように思う。
例えば『ダークナイト』では法に拠らずに自警的な動きをするバットマンが、新しく検事として赴任してきたハービー・デントの存在に安堵する。彼なら法の力をもって、表立って戦えるからだ。
『ダークナイト』は現実の一般社会の中でのスーパーヒーローの立ち位置を示しているが、それでも実際にあんなスーツを着た男が現れたら嘲笑こそすれ、畏怖の対象にはならないだろう。

その点、『アンブレイカブル』は完全に現実社会の中でのスーパーヒーローを描いている。奇抜なコスチュームの代わりにデヴィッドが着るのは警備員の仕事で使う防水ポンチョだ(一応スーパーマンのマントをイメージしているらしい)。
一方のイライジャは悪役らしく紫をイメージカラーとして設定してある。彼が愛用するガラスの杖はちょっとイライジャとリンクし過ぎできてあざとい気はするが、イライジャのキャラクターをよく表しているアイテムでもある。

『アンブレイカブル』で本当に観るべきところはラストではなく、演出だろう。
中学生の頃に初めて観たときはどこが面白いのか、よくわからなかった。だが、今観直してみると、現実的なヒーロー像をリアルに追求する演出や脚本に唸ってしまう。
プロットは非常にシンプルだ。大惨事から唯一生き残った主人公はスーパーヒーローではないか?彼はなぜ生き残ったのか?なぜなら彼はスーパーヒーローでした!という身も蓋もない話なのだが、やはりイライジャに対するデヴィッド一家の不信や、それでもスーパーヒーローを信じてしまうジョセフの子供らしさなど、スーパーヒーロー誕生までの工程をリアルかつ丁寧に描いていることが『アンブレイカブル』の魅力だと思う。

2019年には本作の続編となる『ミスター・ガラス』が公開された。覚醒したヒーローたちの行く末を見届けてほしいと思う。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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