『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』フランク・アバグネイルの「嘘」はどこまで実話なのか?

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

2002年に公開された『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は若き天才詐欺師と彼を追うFBI捜査官とのドラマを軽快かつコミカルに描いてみせた。それはさながら「鬼さんこちら」という映画のタイトルそのものでもあった。
監督はスティーヴン・スピルバーグ、主演はレオナルド・ディカプリオが務めている。今作でディカプリオが演じるのは実在の人物であるフランク・W・アバグネイル・Jr。

アバグネイルには21歳の時点で信用詐欺、小切手詐欺、身分詐称などの犯罪歴があり、特に身分詐称においては、航空機パイロットや医師、弁護士など、華々しい身分に自分を偽っていた。アバグネイルは詐欺師ではありながらもその華やかさと手口の大胆さでアメリカでは有名であった。

 

レオナルド・ディカプリオ演じるフランク・W・アバグネイル・Jr
© 2002 DreamWorks Pictures
本作ではレオナルド・ディカプリオがフランク・W・アバグネイル・Jrを演じている

そして彼を追うFBI捜査官のカール・ハンラティを演じるのは名優トム・ハンクスだ。このカール・ハンラティという人物は架空の人物であり、ジョー・シアという実際にアバグネイルを追いかけていたFBI捜査官を元に、アバグネイルに接した複数の捜査官を組み合わせて生み出されたキャラクターだ。

 

トム・ハンクス演じるカール・ハンラティ。ジョー・シアなど複数のFBI捜査官がモデル
© 2002 DreamWorks Pictures
トム・ハンクス演じるカール・ハンラティ。ジョー・シアなど複数のFBI捜査官がモデル

アバグネイルによると、実際に彼を追跡し、逮捕したFBI捜査官はジョー・シアという人物だった。しかし、シアは映画の中で自分の名前が使われることを拒み、架空の人物としてカール・ハンラティという人物が生み出されたのだという(特徴的な姓はフットボール選手のテリー・ハンラッティにちなんでいるとのこと)。

アバグネイルの弁護士資格の真相

さて、映画におけるカール・ハンラティはこのように架空のキャラクターではあるが、一方のフランク・W・アバグネイル・Jrはどうかと言えば、昨今では映画のような華々しい犯罪経歴には疑問符が投げられているのが現状だ。
劇中でも特に印象深いのは(犯罪ではないが)ルイジアナ州の弁護士資格をわずか2週間の猛勉強で取得したというエピソードだろう。
このことは1978年の時点ですでに疑問が呈されており、ルイジアナ州弁護士協会はすべての司法試験記録を調査したが、アバグネイルがルイジアナ州弁護士会の会員であったという記録は見つかっておらず、アバグネイルが本名または偽名で試験を受けたことは一度もないと結論付けた。

また、アバグネイルが長年にわたりパイロットや医師、弁護士になりすまして250万ドル以上の偽造小切手を乱発したと主張していた子小切手詐欺も、連邦裁判所の記録によればアバグネイルはパンアメリカン航空のロゴが入った個人小切手を10枚換金しただけで、総額は1,500ドル未満だったとされている。

実際のフランク・W・アバグネイル・Jr
こちらが実際のフランク・W・アバグネイル・Jr

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の監督を務めたスティーヴン・スピルバーグはこうした嫌疑を持つ人物の話をなぜ映画化したのだろうか?そもそもスピルバーグは実話を元にした作品を撮る時にどれほど正確性を重視しているのだろうか?
スピルバーグは『シンドラーのリスト』では創作上の自由は一切認めなかったと述べている。原作そのものが歴史的な事実に基づいたものだったからというのがその理由だ。一方で同じ戦争をモチーフにした映画でも 『プライベート・ライアン』では創作の自由をある程度認めたという。『プライベート・ライアン』は実話ではない。ナイランド兄弟の実話がモチーフにはなっているが、登場人物の名前も物語の展開も史実とは全く異なっている。

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』と原作との違い

もちろんフランク・W・アバグネイル・Jrは実在の人物たが、スピルバーグは『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の原作である『世界をだました男』を忠実に再現しようとしたわけではなかった。
アバグネイルは完成した映画について、ほぼ正確な描写だと賞賛する一方的で、次のように事実との差異を語っている。

「私はその映画を2回しか見ていません。それで、メディアから映画についてどう思うか、何が正しくて何が間違っているかと聞かれたとき、私はこう答えました。『まず、私には兄弟が2人と姉妹が1人います。彼は私を一人っ子として描きました。現実には、私の母は再婚していません。映画には彼女が再婚して女の子を産むシーンがありますが、それは実際には起こっていません。現実には、家出した後、私は父に会っていません』」

アバグネイルは映画で描かれている父が「実際より、より良い人物」として描いていることを指摘している。

 

映画では父と再会し食事を楽しむ。父を演じたのは名優のクリストファー・ウォーケン
© 2002 DreamWorks Pictures
アバグネイルの父を演じたのは名優のクリストファー・ウォーケン

スピルバーグはそのことについて、「フランクが父親を喜ばせようと努力し続け、父親を誇りに思わせ、パンアメリカンの制服を着ている姿を見せることで、そのつながりを維持したいと思った」と語っている。

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』が本当に伝えたかったもの

もちろん映画におけるフランク・アバグネイルにスピルバーグ自身が投影されていることは言うまでもないだろう。
スピルバーグは自身の映画について「すべて親が離婚した子供のための映画だ」と述べたことがある。『ジュラシック・パーク』『宇宙戦争』など、子供の頃親が不和もしくは離婚しているという設定がスピルバーグの映画には多い。

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2021年にスピルバーグはとうとう自伝的な作品である『フェイブルマンズ』を手がけるが、そこでは自身同様に母親の浮気によって両親が離婚、それまでの幸せな家庭が崩壊していく様が描かれている。

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『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でフランクが立派になった自分(それも虚像ではあるが)を父親に見せに来るシーンはフランクというよりもスピルバーグ自身を描いたシーンかもしれない。
自分が立派になって両親の仲を再び取り持ち、もう一度幸せな家庭を取り戻そうとする。アバグネイルには詐欺という手でそれを行わせるが、幼い頃から学習障害を抱えていたというスピルバーグにとって、その手段こそが映画であったかもしれない。

 

窓越しにあたらしい家族を見つめるアバグネイル
© 2002 DreamWorks Pictures
今作のアバグネイルはスティーヴン・スピルバーグ自身の投影でもある

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』自体が架空の物語と言えるかもしれないが、スティーヴン・スピルバーグは痛快な詐欺師の物語よりも、家族をもう一度取り戻そうとする少年の話を描きたかったのだろう。

本当のフランク・W・アバグネイル・Jr

ちなみに、フランク・アバグネイルの実経歴については、科学ジャーナリストのアラン・C・ローガンが調査を進め、2020年に『The Greatest Hoax on Earth: Catching Truth, While We Can』という本を出版している。
ローガンは、「実際に起こったことは、アバグネイルがTWA(トランス・ワールド航空)のパイロットの格好をして(ほんの数週間だけだったが)、ポーラ・パークスという客室乗務員と親しくなったということです」と述べ、「アバグネイルが16歳から20歳までの間、全米各地、さらには国際的にもFBIに追われながら逃亡生活を送っていたという話は、全くの作り話です」
「私が入手した公文書によると、彼はその期間のほとんどを刑務所で過ごしていました」と語っている。

一方『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の世界的なヒットによってアバグネイルの知名度もより広く知れ渡るようになると、辻褄合わせのためか、アバグネイルは自伝に対して以下のような「言い訳」を行うようになった。

「私は(本の)共著者から4回ほどしかインタビューを受けていません。彼は素晴らしい語り口で物語を伝えてくれたと思いますが、同時に話を誇張しすぎたり、ドラマチックに脚色したりした部分もありました。それが彼のスタイルであり、編集者の意向でもあったのです」
「彼はいつも、自分はただ物語を語っているだけで、私の伝記を書いているのではないと私に念を押していました。これが、私が最初から出版社に、本と録音テープに免責事項を記載するよう強く求めた理由の一つです」

 

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』での華やかな姿には疑惑も多い
© 2002 DreamWorks Pictures
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でのアバグネイルの華やかな姿には疑惑も多い

また自伝に書かれている長期にわたるなりすましは誇張されていると認めている。

「医者になりすましたのは数日間、弁護士になりすましたのも数日間だった。本の中では、まるで1年間もそうしていたかのように書かれている」

しかし、今なお『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でのフランクの姿を多くの人が真実だと思い込んでいる。
そういった意味では、フランク・W・アバグネイル・Jrほど多くの人を騙し続けている人物もいないのではないかと思う。

今なおアバグネイルは傑出した詐欺師であることは否定できない。

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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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