『ランボー』「何も終わっちゃいない」なぜランボーの戦争は続いたままなのか

※以下の考察・解説には映画の結末のネタバレが含まれています


英語には「Going Rambo」という慣用句があるらしい。「(ランボーのように)メチャクチャにやってやるぞ!」という意味らしいのだが、この言葉のように一般の人々がランボーに抱くのもこのようなイメージだろう。好戦的でサバイバルのスペシャリストで驚くほどの戦闘スキルを持ち、大勢を一人で殺していく男。
実際に『ランボー3/怒りのアフガン』は101分の本編の中で108人の死を描く内容から「最も暴力的な映画」としてギネスブックに掲載されるほどであったし、同作はアフリカで強制的に徴用された少年らを少年兵としてマインドコントロールする際の材料にも使われたという。そういった意味では「Going Rambo」のイメージも間違ってはいない。

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だが、それが本当のランボーの姿かと言われると答えはノーだ。

『ランボー』

ランボーの本当の姿、それは1982年に公開された『ランボー』を観ればわかる。
『ランボー』はテッド・コッチェフ監督、シルヴェスター・スタローン主演のドラマ映画だ。原作はデイヴィッド・マレルの小説『一人だけの軍隊』。マレルにとっては本作が小説家としての処女作となる。当時マレルはアイオワ大学で教鞭を取っており、生徒の中にベトナム戦争に従軍した経験のある者から戦場での経験を聞いた。それをきっかけに執筆されたのが『一人だけの軍隊』だった。

1976年に公開された『ロッキー』はスタローンに大きな成功をもたらしたが、それ以外の作品ではスタローンは興行的な成功を収めることができていなかった。だが、この『ランボー』でスタローンは『ロッキー』と並ぶ代表作を手に入れる。
だが、最初からスタローンにオファーがあったわけではない。もともとランボー役はクリント・イーストウッドやジェームズ・ガーナーにオファーされたらしいが、ガーナーは警官を殺す役はしたくないとのことでオファーを固辞、イーストウッドが断った理由は定かではないが、年齢的にもランボーの役は難しい部分もあっただろう(イーストウッドの実年齢から考えると、トラウトマン大佐を演じたリチャード・クレンナにむしろ近い)。
また、その後ダスティン・ホフマンにもオファーしたそうだが、暴力的すぎるとの理由でこちらも断られてしまった(ホフマンは1971年に公開されたサム・ペキンパー監督の『わらの犬』である意味『ランボー』より凄惨な暴力映画に主演しているが)。

ベトナム帰還兵

物語は1981年の冬を舞台にしている。ベトナム戦争から7年後、復員兵のジョン・ランボーは戦友だったデルモア・バリーの家を訪ねるが、バリーはベトナム戦争の枯れ葉材の影響で癌になり、既に帰らぬ人となっていた。

ベトナム戦争はそれまでの真正面からの戦いではなく、ジャングルなどを舞台にしたゲリラ相手の戦闘だった。
1986年に公開された『プラトーン』はベトナム戦争への従軍経験を持つオリバー・ストーンがメガホンを取っているが、そこではゲリラ相手の過酷さが鮮烈に映し出される。
アメリカはゲリラが身を隠すための森林の枯死を目的として大量の枯葉剤をジャングルに散布した。この枯葉剤には高濃度のダイオキシンが含まれており、ベトナムで奇形の子供が多数生まれる原因にもなった。また、枯葉剤の被害はベトナムで戦った米軍兵士にも及んでおり、『ランボー』の公開から2年後の1984年にはベトナム帰還兵らが枯葉剤製造会社に対して集団訴訟を起こしてもいる。

「ここでは俺が法律だ」

ランボーは食事をしようと町へ立ち寄るが、小汚い格好をしたランボーを不審に思った保安官のティーズルはランボーをパトカーに乗せ、町から遠ざけようとする。
「悪いことは何もしてないぜ」
そう言うランボーだったが,ティーズルは「ここでは俺が法律だ」と言い放つ。
そして、ランボーは郊外で下ろされるが、それを不当な扱いだと感じたランボーは黙って街に戻ろうとする。それに気づいたディーズルはランボーを公務妨害とナイフ所持の疑いによって逮捕する。町に連れて行かれたランボーはディーズルの部下による非人道的な扱いを受けるが、その時にランボーにはベトナム戦争で受けた拷問の記憶がフラッシュバックする。
警官がランボーの喉に剃刀をあてた瞬間、ランボーは一気にベトナムの戦場へと退行し、警官たちを倒して山中へと逃亡する。

山へ逃げ込んだランボーを追うディーズルらだったが、ゲリラ戦のプロフェッショナルであるランボーは彼らを一人一人倒していく。
「ここでは俺が法律だ」
ランボーはティーズルの喉元にナイフを突き立て、再び森へと姿を消す。

俺にとって戦争は続いたままなんだ

ランボーを説得できる唯一の人間であるトラウトマンが呼び出される。トラウトマンはベトナム戦争でのランボーの上官であり、ランボーがいかに優れた軍人であるかを語る。
トラウトマンの説得も怒りに満ちたランボーには届かず、ランボーが身を潜める爆破された。しかし、ランボーは生き抜いており、町へ戻りガソリンスタンドを爆破する。
ランボーがディーズルにトドメを刺そうとしたその時かつての上官であるトラウトマンがランボーを制止する。だが、ランボーは自分の戦いはまだ終わっていないと叫ぶ。
「何も終わっちゃいないんだ!俺にとって戦争は続いたままなんだ
あんたに頼まれて必死で戦ったが勝てなかった
そして帰国したら空港で非難轟々だ赤ん坊殺しとか悪口の限りを並べやがった!
あいつらは何だ?戦争も知らずに!頭に来たぜ!
俺は世間者じゃのけ者なんだ。戦場には仁義があってお互い助け合った。戦場じゃ100万ドルの兵器を任せてくれた。
でもここでは駐車係の口もない!惨めだよ。どうなってるんだ?みんなどこだ?」
ベトナム戦争から7年経ってもランボーはベトナムの悪夢に悩まされていた。
トラウトマンにすらランボーは無欠の完璧な兵士に見えていた。だが、彼もまた一人の人間であったのだ。ここではランボーの内面がこれ以上ないほどに赤裸々に語られる。

勝てない戦争

『ランボー』はベトナム戦争で心に傷を追った一人の男の物語だ。国のために命を懸けて戦った人間を国民はどう受け止めるべきかを投げ掛けた作品だ。
2017年に公開された『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はベトナム戦争時にアメリカ政府が作成した極秘文書のペンタゴン・ペーパースについての映画だ。ペンタゴン・ペーハーズには歴代政権がベトナム戦争を行うために不正を繰り返してきたこと、またアメリカがベトナムに勝てないなどの分析が載せられていた。

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そのような不都合な事実は隠蔽され、多くの若者がベトナムへと向かっていった。その一人がランボーだろう。

このようにベトナム戦争は「勝てない戦争」であり、政府の欺瞞によって戦場へ向かった若者たちは心身に深い傷を負ったものも少なくない。
タクシードライバー』、『7月4日に生まれて』はいずれも『ランボー』同様にベトナム帰還兵をテーマにした作品だ。
『タクシードライバー』はフィクションだが、『7月4日に生まれて』は実話を元にしたストーリーで、ベトナム戦争への従軍経験を持つオリバー・ストーンがメガホンを取っている。ベトナム戦争で半身麻痺の重傷を負い、後に反戦活動家へとして活動する実在の人物ロン・コーヴィックを主人公にしている。
ロンは「アメリカの正義」を信じてベトナム戦争へ志願するが、そこで待っていたのは戦場の過酷な現実だった。ゲリラと一般市民の区別もなく、更には部下を誤射し、死なせてしまう。またロン自体も敵の攻撃によって重傷を負い、半身不随となってしまう。
帰国した母国で彼を待っていたものは、国を守る英雄としての賞賛の言葉ではなく、非難と嘲笑の嵐であり、ロンは怒りを露にする。なぜベトナム戦争の帰還兵はこれほどまでに嫌われ、軽蔑されているのだろうか?

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ベトナムの悪夢

ベトナム戦争は初めてテレビで放送された戦争でもあった。ベトナム戦争において、メディアは自由な取材がアメリカ当局から認められており、ジャーナリストたちが映し出す戦場の光景は、祖国と正義を背負って戦う戦士としての兵士ではなく、絶えずゲリラ部隊に悩まされ、苦悩する人間としての姿や一般市民を殺害する兵士の姿だった。その現実に国民のアメリカへの信頼は大きく揺らいだ。そしてその思いはカウンターカルチャーやヒッピームーブメントと結び付き、反戦活動が全米で巻き起こった。
そうした世論の高まりもあり、アメリカは1973年にベトナムから撤退する。ベトナムの戦場から帰って来た兵士たちに国民は冷たかった。『ランボー』はそんな帰還兵に降りかかる理不尽さと心の内を描いている。

2019年には最終作である『ランボー ラスト・ブラッド』が公開されたが、ランボーの住む牧場の地下にはベトナム戦争時代のような張り巡らされた迷路のような通路と数々の罠に満ちている。ランボーが生涯ベトナムの悪夢に悩まされていることがわかる。
『ランボー』は興行収入がいまいちだったことから、続編の『ランボー/怒りの脱出』からはアクションが全面に押し出されるようになる。
だが、『ランボー/怒りの脱出』の最後の台詞は今作『ランボー』のメッセージを的確に表している。

「俺たちが国を愛したように、国も俺たちを愛してほしい。望むのはそれだけです」

作品情報

『ランボー』
公開年:1982年
上映時間:97分

スタッフ

監督
テッド・コッチェフ
脚本
マイケル・コゾル
ウィリアム・サックハイム
シルヴェスター・スタローン
原作
ディヴィッド・マレル
『一人だけの軍隊』
製作
バズ・フェイシャンズ
製作総指揮
マリオ・カサール
アンドリュー・G・ヴァイナ

キャスト

シルヴェスター・スタローン
リチャード・クレンナ
ブライアン・デネヒー
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BLACK MARIA NEVER SLEEPS.

映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
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