『魔女がいっぱい』ハリウッドと年齢差別

※以下の考察・解説には映画の結末のネタバレが含まれています


「40歳になったとたん、魔女の役を3つもオファーされた。」
ハリウッドにおける年齢差別をメリル・ストリープはそう言い表している。「40歳を越えた女はハリウッドではグロテスクなものと見なされるのよ」
40歳を超えた男性は主役として若い女性とラブロマンスを演じているのに、である。
この年齢差別という問題は今現在においても存在するようで、マギー・ギレンホールも「37歳になったとき、プロデューサーから相手の恋人役には年を取りすぎていると言われた」と述べている。男性の方の年齢は55歳だったらしいが。

美しい「魔女」

今回紹介したいのは2020年に公開された『魔女がいっぱい』という作品だ。ロバート・ゼメキス監督と主演のアン・ハサウェイのファンなので、映画館まで足を運んで観に行った。
原作はロアルド・ダールが1983年に書いた同名の児童向け文学だ。

両親を亡くした少年は祖母の所へ預けられる。祖母は魔女の見分け方など少年に様々なことを教えてくれる。
ある時少年は祖母と滞在しているホテルで魔女の集会が行われていることを知る。しかし、彼は魔女に見つかってしまい、呪いをかけられネズミの姿に変えられてしまう。少年は同じくネズミの姿に変えられた子供たちと共に魔女へ復讐を挑む。

もともと児童向けの原作だったからかもしれないが、映画の内容自体はやや期待はずれで凡庸だったものの、魔女を演じたアン・ハサウェイはとても興味深かった。
鑑賞中に前述のメリル・ストリープの言葉を思い出したからだ。
アン・ハサウェイの演じる魔女はストリープの言うようなグロテスクの象徴ではなく、エレガントで美しかった。
アン・ハサウェイは1982年生まれ。『魔女がいっぱい』の時点では38歳になる。アン・ハサウェイ自身も年を取ってからヒロインを若い女優に奪われることが増えたと語っている。そんな彼女が今作ではハリウッドの年齢差別を真正面から皮肉っているように感じた。グロテスクの象徴である魔女を演じても彼女の魅力は何も変わってはいない。

アン・ハサウェイの強さ

アン・ハサウェイは現実の自分自身を作品のなかに投影する強さがある。2016年にはハサウェイは『シンクロナイズド・モンスター』という作品で主役のグロリアを演じた。
グロリアはウェブライターをやっていたが、自身が書いたネット記事が炎上し、それが原因で会社を解雇される。飲んだくれてろくに職探しもしないグロリアに同棲している彼氏もうんざり。彼氏の家から追い出されたグロリアは都会から地元の田舎へ引っ越すことになる。

ネット上で嫌われものになってしまったという状況はアン・ハサウェイ自身にも重なる。
2012年に公開された映画『レ・ミゼラブル』で彼女は貧困に苦しむ娼婦を演じるために髪を坊主にし、約11キロ体重を落とした。その演技は絶賛され、アカデミー賞助演女優賞を受賞したものの、そのスピーチがわざとらしく演技がかっているように見えてしまった。他にも意識高いライフスタイルまでバッシングの標的となり、そして彼女のアンチである「ハサヘイター」が急増、SNSでは#Hathahate(ハサウェイ嫌い)というハッシュタグが流行するまでになった。
2014年にはこんな見出しの記事を掲載した。「なぜ私たちはアン・ハサウェイが嫌いなのか?」ハサヘイターもネットにアン・ハサウェイへのヘイトを並び立てた。

『シンクロナイズドモンスター』でグロリアは自分の分身が怪獣となって韓国で暴れまわっていることを知る。怪獣の動きが自分の動きとシンクロしていることに気づいたグロリアはできるだけ暴れないようにするのだが、幼馴染みだったオスカーもまた自分の分身を怪獣にする方法を知ってしまった。グロリアと違ってオスカーは好んで暴れまわる。オスカーは田舎にやってきたグロリアを自身の店で働かせるなど、一見親切に見えるのだが、内心では都会で成功したグロリアを妬んでいた。いわばグロリアのアンチがオスカーなのだ。グロリアはオスカーの本性に気づき、戦いを挑む。

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アン・ハサウェイは2018年の映画『オーシャンズ8』でもかつての自分を反映したような「嫌われものセレブ」のダフネ・クルーガーを演じている。
彼女は過去のバッシングを振り返ってこう述べている。
「でももし誰かが言ったことが響いたときには、自分のためにそれを取り入れたわ。そういう意味では成長する上でたくさんの近道が得られたと思う。自分で選んでそういうことを経験したわけではないけれど、それに感謝している」。

『魔女にいっぱい』も同じではないか?アン・ハサウェイは年を重ねる自分を受け入れ、年齢に対して差別的な目線を向ける世間に対しての挑戦を真っ向から示して見せた。

ありのままの自分

年齢差別ということで言えば、ヨーロッパはハリウッドより平等だった。
『マトリックス』でヒロインを努めたキャリー=アン・モスは過度に若さを求めるハリウッドよりヨーロッパの自由さに憧れたという。もともと彼女も「40歳になったら何もかも変わる」というハリウッドの女優に対する傾向を知っていたというが、それでも40歳を迎えた途端におばあちゃん役をオファーされたのには驚いたと語っている。逆に彼女の目にヨーロッパで活躍する女優はありのままの自分でいるように映ったそうだ。
「フランスなどヨーロッパの女優さんたちは、ありのままの自分自身でいても自信にあふれているように私の目には映っていて。私もあんな風になりたいって、ずっと憧れていました。もちろん今でも、そんな女性になることを目指していますよ。でもハリウッドにいると、すごく難しいことでもあるんです。外からの圧力があるから」

キャリー=アン・モスの言葉を証明するような作品がある。ポール・ヴァーホーベンが2016年に監督した『エル ELLE』という作品だ。
主人公は暴力的なレイプゲームを製作する会社の社長を務めるミシェル  。彼女はあるとき自宅に侵入してきた男にレイプされる。だが、彼女はその事件に打ちのめされることはない。驚くべきことにミシェルは何もなかったかのように平然と出前を取る。
ストーリーは一応レイプ犯探しではあるものの、それよりもミシェルの自由さをこの映画は写し出している。何しろ、やっと探し出したレイプ犯とセックスしてしまうのだから!
今作で主演を務めたイザベル・ユペールは公開時63歳。相手役のロラン・ラフィットは43歳だ。
『エル ELLE』ではミシェルのこの言葉が全てを物語る。
「恥を気にしていたら何もできない」
ミシェルは同僚の夫と関係を持ち、その同僚とも寝てしまう。
被害者である、ということは傷を負うと同時に同情を集めることだ。それが一般的な被害者の描かれ方でもあった。しかしミシェルは被害者として祭り上げられることを頑なに拒む。被害者としての「特権」を振りかざし自我を通そうとする、ミシェルはそんな「まやかしの強さ」とは無縁の女性だ。まさにありのままの自分なのだ。

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ハリウッドの年齢差別

ハリウッドでもかつてのような年齢差別は薄らいできている。
メリル・ストリープの出演作の中で最もヒットしたのは2008年公開のミュージカル映画『マンマ・ミーア!』だが、この時ストリープは58歳。また『マンマ・ミーア!』でストリープ演じるドナの友人役として出演したクリスティーン・バランスキーもこの時56歳。しかも彼女が演じるターニャは親子ほども年の離れた年下の男性から熱烈なアプローチを受ける役どころだ。

年齢に似つかわしくない美しさを持つ女性を「美魔女」と呼んだりするが、そのうち年齢だけでなく、ありのままの自分を美しいと認め合える時代になるだろう。
そんな魔女がいっぱいの世界の入り口に今立っているのだ。

作品情報

『魔女がいっぱい』
公開年:2020年
上映時間:104分

スタッフ

監督
ロバート・ゼメキス
脚本
ギレルモ・デル・トロ
ロバート・ゼメキス
ケニヤ・バリス
原作
ロアルド・ダール
「魔女がいっぱい」
製作
ジャック・ラプケ
ギレルモ・デル・トロ
アルフォンソ・キュアロン
ルーク・ケリー

キャスト

ケイト・ブランシェット
ルーニー・マーラ
サラ・ポールソン
カイル・チャンドラー
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映画から「時代」と「今」を考察する
「映画」と一口に言っても、そのテーマは多岐にわたる。
そしてそれ以上に観客の受け取り方は無限大だ。 エジソンが世界最初の映画スタジオ、通称「ブラック・マリア」を作った時からそれは変わらないだろう。
映画は決して眠らずに「時代」と「今」を常に映し出している。

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